宇宙人との約束
町外れの森に、流れ星が落ちるのを見た。
友達みんなにそう話したけど、誰も信じてくれない。だから証拠を見つけに、森へとやってきた。うっそうとした木々の中を1人で歩くのは怖いけど、ちょっぴりわくわくする。
「このあたりだと思うんだけどな」
きょろきょろしながら歩いていると、木々の隙間から銀色に光るものが見えた。
近づいてよく見てみると、見上げるくらいに大きくて、細長い卵のような形をしている。表面はガラスのようにつるんとしていて、どこにも継ぎ目がない。
これは流れ星じゃない。もしかしてだけど、宇宙人の乗り物かな。
考えていると、突然卵の一部がドアのように開き、誰かが出てきた。頭には透明なヘルメットを被り、あちこちにいろいろな機械がついた服を着ている。やっぱりそうだ。宇宙人さんだ。
「ノザムホサツ。べキ ノ カキャイザヲズシ」
全然わからない。ぼくが困っていると、宇宙人さんは腕についた機械のボタンを押した。
「これで大丈夫かな?僕の言葉分かる?」
「分かる!すごい、どうして?」
宇宙人さんによれば、バンノーホンヤクキという機械のおかげらしい。宇宙に存在するほぼ全ての言葉が分かるようになるのだとか。難しいことは分からないけど、すごい発明だというのは分かる。
「どうしてこの星に来たの?」
「宇宙探検の帰りなんだ。少しエンジンの調子がおかしくて、たまたま見つけたこの星で少し修理させてもらおうと思ってね」
この宇宙船なら、簡単に宇宙のあちこちへと行けるようだ。僕が感心していると、お腹がぐうっとなった。宇宙からのお客さんの前で恥ずかしい。赤くなっているぼくを見て、宇宙人さんはやさしく笑った。
「僕もお腹が減っちゃった。ご飯にしようかな。君はお昼ごはんある?」
「ママに作ってもらったお弁当があります」
僕と宇宙人さんは宇宙船の中で一緒にお昼を食べることにした。
宇宙船の中は外から見るよりずっと広い。宇宙人さんがヘルメットを脱ぎ、腕についた機械をいくつか操作すると、床からテーブルと椅子が出てきた。続いてどこからか出てきたロボットが料理の皿を運び、テーブルに置いていく。さっきから驚くことばかりで、驚き方を忘れそうだ。
「いただきます」
「いただきます」
ママのお弁当はやっぱり美味しい。でも宇宙人さんの食べているものも気になるので、おかずを交換した。不思議な味だけど、とても美味しい。食べている途中で何度も味が変わり、何種類もの料理を食べたような気になる。
「宇宙人さんの星はとってもすごいんですね」
食後に宇宙人さんがくれたデザートを食べながらそう言うと、困ったように笑った。
「そうでもないよ。こんな風に宇宙を旅出来るようになったのも、かなり最近だからね」
そして、こう続けた。
「自分たちで自分たちの住む星を汚したり、良くないこともたくさんあったよ。厄介な病気が流行したこともあった。でも、いろんな人が協力して、長い時間をかけて少しずつ問題を解決してきた。まだまだ問題はたくさんあるけど、今ではこんな宇宙船も作れるようになったんだ」
ぼくはまだ子供だけど、自分の星に多くの問題があることは分かる。でも、宇宙人さんの星のようにみんなが協力すれば少しずつ解決出来るのかな。そんなことを思いながら、おしゃべりしていると、ピコピコとアラームが鳴った。
「ロボットがエンジンの修理を終わらせてくれたみたいだね」
言い方は優しいけど、それがさよならの合図だと言うのは分かった。いつの間にか、かなり時間が経っていたようだ。寂しい気持ちが込み上げてきたのを抑えて、こう言った。
「ねえ、ぼく将来は宇宙飛行士になるよ。いっぱい勉強してロケットに乗って、宇宙人さんの星にいくよ」
「そうか。じゃあ僕もまたこの星に来よう。この探検が終わったら、一旦母星に戻って違う方面の宇宙に探検に行くけど、いつかきっとまたくるよ」
「絶対だからね。約束だよ」
ぼくと宇宙人さんは固く握手をした。
外に出ると、もう日が沈むところだった。ウィーンという静かな音が宇宙船から聞こえる。出発の時だ。でも、最後にどうしても聞いておかなきゃならないことがある。
「宇宙人さん、あなたの星の名前を教えて」
ぼくの問いかけに、宇宙人さんは微笑みながら答えてくれた。
「僕は地球という星から来たんだ」
「そうなんだ。じゃあ宇宙人さんは地球人さんなんだね」
地球。しっかり覚えた。いつかきっとこの星に行く。
「じゃあ、またね。いつかきっと会おう」
「うん、きっと」
宇宙人さんは手を振りながら、宇宙船の中に入っていった。宇宙船から聞こえる音が大きくなる。もう一度手を振った後、離陸に巻き込まれないようその場を離れた。
「こんなところにいた。迎えにきたよ」
「あ、ママ」
ママが迎えに来てくれた。夢みたいなことばかりだったけど、ママの顔を見ると安心する。
「ねえ、見て。流れ星だよ」
ママの声に振り返ると、宇宙船が空の向こうへと飛んでいくところだった。きらきら光りながら尾を引いて進む姿は、流れ星そっくりだ。見つめていると、宇宙人さんもこちらを見ている気がした。
「絶対にまた会おうね。約束だよ」
見送りながら、僕は心の中でつぶやいた。