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恋と運と迷路  作者: 落川翔太
8/10

それから、一週間後の日曜日。

 皓太は午前十一時に桃井さんと池袋駅で待ち合わせていた。

 午前十一時になる十分前に、皓太はそこへ着いた。それから五分ほどして、彼女がやって来た。

「池田さん、お待たせしました」

「久しぶり」

「お久しぶりです。ラーメン楽しみです!」

彼女は笑顔でそう言った。

 その日は、皓太の実家のラーメン屋に行くことになっていた。

「僕も。それじゃあ、行こうか」

 皓太はそう言うと、二人は早速、JR埼京さいきょう線の方へ向かい、その改札をくぐった。

 皓太の実家は南浦和にある。池袋駅から一時間かからない所にあった。それから、皓太たちは池袋から武蔵浦和の駅で乗り換え、そこから十分程度電車に乗って、ようやく皓太の実家がある最寄りの駅に到着した。

 駅から五分程歩くと、ラーメン屋が見えた。

「もしかして、そこ?」

「うん、そうだよ」

 そのラーメン屋に着き、皓太は早速、中へ入った。彼女もその後に続いた。

「へい! いらっしゃい!」

 店内に入ると、店主の大きな声が響いた。「何名様?」

「二名です」

皓太がそう言うと、「二名様、いらっしゃい……って、あれ? 皓太じゃないか!」と、店主である父親が皓太に気づいて言った。

「ただいま」と皓太が父親に言うと、「おい、母ちゃん! 皓太だよ!」と、父親は奥にいる皓太の母親を呼んだ。

 すぐに母親が奥から出て来て、「まあ、本当だ! こうちゃん、お帰り」と、笑顔で言った。

「元気だったか?」と、父親が訊く。

「うん」

「って、誰だい? その子は?」

 それから、父親が隣にいる女性を見て言った。

「あ、ええっと……。」

 皓太が彼女の紹介をしようとすると、すぐに彼女が口を開いた。

「初めまして、皓太さんのお友達の桃井千遥です」

「ああ、お友達か……。って、皓太が友達を連れてくるなんて珍しいな」と、父は笑って言った。

「本当ね」と、母も笑った。「しかも、女の子をね」

「ああ。もしかして、ガールフレンドか?」

 それから、父がそう訊いた。

「いや、違うよ。最近知り合ったんだ。で、話を聞いたら彼女がラーメン好きらしくて。ウチ、実家がラーメン屋って話をしたら、ぜひ食べてみたいと言ってくれて……。」

 皓太がそう話すと、「ほーう。そうかいそうかい」と、父は笑顔で頷いた。

「それじゃあ、父さん、思い切り腕を振るわなくちゃな」

 父は意気込んでそう言った。

「お父さん、別にそんなに張り切る必要はないよ」

 それから、皓太がそう言うと、「そうよー」と、母親が言って笑った。

「そうかい? まあ、それもそうだな」

 父はそう言って笑った。父の言葉に皓太も笑い、つられて桃井さんも笑っていた。

「それで、注文は? スタミナラーメンでいいかい?」

 それから、父がそう訊いた。

「うん、それ、二つで」と、皓太は答えた。

「はいよー」

 早速、父親はそのスタミナラーメンを作り始めた。その後、母親がすぐに皓太たちをテーブル席に案内した。

「スタミナラーメンって?」」

 席に着き、聞きなれないメニュー名に彼女がそう訊いた。

「あ、スタミナラーメン、知らない?」

「うん」

「スタミナラーメンって言うのは……。」

 皓太はそう言って考えたが、すぐに何といえばいいのか思いつかなかった。だから、「父さん、スタミナラーメンって何?」と、皓太は父親に訊いた。

「あ? スタミナラーメン? スタミナラーメンってのは、簡単に言えば、ピリ辛あんを乗せた中華ラーメンってやつだな」

 父親は得意な顔で言った。

「あー、なるほど」

皓太がそう頷いた後、「ラーメンって、醤油ラーメンですか?」と、彼女が皓太の父親に訊いた。

「そう。醤油ラーメンだよ」

「そうなんですね。そのピリ辛あんって、何ですか?」

「具材の挽肉とニラを炒めて、にんにくや生姜しょうが、それから、醤油と豆板醤とうばんじゃんで味付けしたのを片栗粉でとろみをつけたあんなんだ」と、父親は説明した。

「へー、なるほど」

「因みに、そのスタミナラーメンは埼玉のソールフードと言われているんだ」

 それから、父親がそう言った。

「そうなんですね! それは楽しみです」

 彼女は目を輝かせて言った。


「はい、お待たせしました。スタミナラーメンです」

 それから少しして、母がそのラーメンを皓太たちのテーブルに運んだ。

「わー、すごい!」

 桃井さんがそのラーメンを見て驚いた。

「これがスタミナラーメンか!」

 先ほど、父親が説明した通り、そのラーメンの上には挽肉やニラなどのあんが掛かっていて、辛そうに見えた。

「うん」

「おいしそう」

「おいしそうでしょ?」

「うん」

「美味しそうじゃなくて、おいしいんだから」と、母親が横から自慢するように言った。

「じゃあ、いただきます」

 早速、彼女が手を合わせた。近くにあったレンゲを取り、そのラーメンのスープを一口啜すすった。それから、「うーん、おいしい!」と、彼女が声を上げた。

 皓太もスープを一口啜った。醤油のスープが旨かった。それに、スープの奥から生姜やにんにく、それと豆板醤の味も感じられた。

「うん、うまいね」

 久しぶりに飲んだそのスープの味は、とても懐かしい味がした。

 それから、彼女は卓上の割り箸を取り、それを割って今度はそのラーメンをすくう。麺をフーフーし、それを啜った。

「うん、このラーメンも美味しい!」

 彼女は目を輝かせて言った。

彼女の食べっぷりを見て、皓太も思わず顔がほころんだ。

 その後、皓太もそのラーメンを掬い、それを冷ましてから啜った。麺はモチモチとした食感で弾力があり、それが病みつきになる。それから、挽肉の食感やニラのシャキシャキとした食感も良かった。豆板醤でピリリと辛いが、それがどこか癖になるのだった。

 その後も、二人はそのラーメンを堪能していた。

「ごちそうさまでした」

 彼女がそのラーメンを食べ終えて、手を合わせて言った。

「池田さん、美味しかったです」

 それから、彼女が嬉しそうに言った。

「ね、うまかった」

 皓太はすでに食べ終えていた。久しぶりに食べたそのラーメンはとてもおいしかった。

「これ、いくらですか?」

 それから、彼女が皓太に訊いた。

「六百円だよ」

 皓太がそう言うと、「え!? これで六百円ですか? 安い!」と、彼女が驚いた。

「東京に比べたら安いよね」

 皓太がそう言うと、「本当に安い。安くてビックリです!」と、彼女はにやりと笑った。

「そう言ってくれて嬉しいよ」

 それから、父親が言った。

「池田さん……皓太さんが羨ましいです」と、彼女が言った。「いつもこんなおいしいラーメンを食べられているなんて」

 彼女にそう言われて、「いつもじゃないですよ」と、皓太は言った。

「今は東京で暮らしているんで、全然食べに来れていないですから」

「ああ、そっか」

「でも、休みの日は時々、こっちへ遊びに来て、このラーメンを食べに来ますけど」

 皓太がそう言うと、「それって、素敵じゃないですか!」と、彼女が羨ましそうに言った。「いいなぁ~」

 その後、店内に別のお客さんがやって来た。

「いらっしゃい!」と、店主である父親が威勢のいい声で言った。その後も、続々とお客がやって来た。時計を見ると、午後一時。ちょうどお昼時であった。

「そろそろ出よっか?」

 それから、皓太はそう言った。「うん」と、彼女は頷いた。

 二人は席を立ち上がると、皓太は母親に「お会計で」と言った。

「はいはい」と母が言って、彼女はレジへ回った。それから、皓太は会計を済ませた。

「この後は? どこか行くの?」

 会計を済ませた後、レジで母がそう訊いた。

 しかし、皓太はこの後の予定を特に決めていなかった。そのまま帰るつもりでいた。

「いや、特に」と、皓太が言った。それから、彼女が「お茶でもする?」と、皓太に訊いた。

「あー、お茶するのはいいね」

 皓太がそう言った後、「この近くにどこかカフェとかある?」と、彼女が再び訊いた。

「少し歩いた所に、喫茶店があるよ」

皓太がそう言うと、「じゃあ、そこへ行かない?」と、彼女が言った。

「うん、いいよ」

 皓太がそう頷いた後で、母が口を開いた。

「もしあれなら、皓ちゃん、うちへ来てもいいわよ」

「え? ああ……。」

 その後、皓太は自分の実家でゆっくりするのもアリだなと思った。

「じゃあ、そうしようかな」

 皓太がそう言った後、「それでもいいかな?」と、今度、彼女に訊いてみた。

「私は別に、それでもいいよ」

 彼女がそう言ってくれたので、「じゃあそうしよう」と皓太は言った。

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