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日曜日の午後二時。皓太は渋谷駅の南口にあるモヤイ像の辺りに立っていた。そこで、桃井さんと待ち合わせをしていた。
二時ちょうどにそこへ彼女がやって来た。
「お待たせしました」
彼女が皓太に気づくなり、そう言った。
「いえ」
「映画でしたよね?」
「はい。では、行きましょうか」
皓太はそう言って、すぐに歩き出した。彼女も皓太の後に続いた。
そこから二分ほど歩いた所に、その映画館があった。
「ところで、今日は何を見る予定なんです?」
それから、彼女がそう訊いた。
「あー、ええっと」と皓太は言った後、「ゴメンナサイ。特に決めてないです」と、正直に答えた。
「そうですか。なら、私、アレ観たいです。『記憶のかけら』」
「あー、記憶のかけらか」
その映画は最近、CMで話題の恋愛映画だった。キャストが、最近アイドルグループを卒業したアイドルの女性と、若手のイケメン俳優で、世間では好評であるようだった。観た人たちからは、「感動した」と言う声が続々とあるらしかった。皓太もその映画を観たいと思っていた。
「どうですか?」
彼女にそう訊かれて、「いいですよ」と皓太が答えると、「やったー」と、彼女は喜んだ。
「じゃあ、それを観ましょう」
「はい」
それから、皓太たちは券売機でその映画のチケットを二枚買った。その映画は二時半からであった。すぐに皓太は腕時計をちらりと見ると、二時十五分であった。後、十五分でその映画が始まるようだったので、皓太たちはポップコーンとそれぞれのドリンクを買った。
買い終わる頃には、ちょうど開場できるようだったので、皓太たちは列に並んだ。先頭になり、スタッフにチケットを千切ってもらい、二人はその映画のシアターへに向かった。
もうすぐ五時になろうとしていた。
映画を観た後、二人はお茶でもしようと、その映画館の近くの喫茶店へ来ていた。
「映画、面白かったですね」
桃井さんがコーヒーを啜りながら言った。
「そうですね」
その映画は案外良かった。「感動した」と、皆が口々に言うのがよく分かった。
「ストーリーも良かったですけど、あのカップルも良かったですよね」
「うん、良かった」
「ですよね。なんだか私もああいう恋愛がしてみたいなあって……。」
「僕もです」
皓太がそう呟くと、彼女が口を開いた。
「そう言えば、池田さんって、今彼女いないんですか?」
「え? ああ、いないです」
皓太が正直に答えると、「そうなんですね」と、彼女は言った。
「桃井さんは?」
それから、皓太がそう訊いた。
彼女は照れ臭そうに笑った後、「私もいないです」と言った。
「そうなんですね」
その後、彼女は黙った。皓太も黙ってしまう。二人の間に沈黙が訪れた。
「そう言えば」
しばらくして、彼女が口を開いた。「池田さんって趣味ありますか?」
「趣味か……。趣味は、ゲームしたり、アニメや映画を観たり、後、漫画を読んだりすることですね」
皓太がそう答えると、「へー」と、彼女が言った。
「結構、多趣味なんですね」
彼女にそう言われて、「まあ、でも、インドアなだけですよ」と、皓太は言って笑った。
「桃井さんは?」
それから、皓太は彼女にそう訊いた。
「私も映画を観たり、漫画読んだりしてますよ」
「ほー」
映画や漫画と聞いて、趣味が似てるなと皓太は思った。
「後は、カフェ巡りをしたり、読書したり……。ああ、後、時々ラーメンを食べに行きます」
それから、彼女はそう言った。
「え? ラーメン?」
「そうです」
「ラーメンお好きなんですか?」
「うん」
「僕もです!」
皓太がそう言うと、「うそ!?」と、彼女は驚いた。
「ホントです。因みに、ウチ、実家がラーメン屋なんですよ」
皓太がそう言うと、「えー、そうなの!? それはすごい!」と、彼女がビックリして言った。
「実家って、どこなんですか?」
「実家は埼玉です」
「埼玉か!」
「はい」
「えー、いいなあ。私、ラーメン、食べ行きたいです!」
それから、彼女がそう言った。
「あ、食べに来ます?」
その後、皓太がそう言うと、「いいんですか? ぜひ行きたいです!」と、彼女が言った。
「いいですよ」
「やったー」
彼女が嬉しそうに言った。
「あ、そう言えば、埼玉で思い出したけど、前に埼玉を舞台にした映画ありましたよね?」
それから、彼女が思い出したように言った。そう言われて、皓太も思い出す。
「『謹んで埼玉』って、映画ですよね?」
皓太がそう言うと、「そうそう」と、彼女が言った。
「あのコメディ映画観ましたけど、面白かったなぁ」
「ですよね。僕もそれを観て、面白かったの覚えてます」
それから、二人はその映画の話で大笑いし、その後も映画や漫画、ラーメンの話などをしていた。
気づけば、もう五時半を過ぎた頃だった。
「そろそろ出ましょうか」
皓太がそう言うと、「そうですね」と、彼女は言った。
「ここは奢ります」
皓太がそう言うと、「いや、今日は私が奢ります」と、彼女が言った。
「え? いいんですか?」
皓太がビックリしてそう訊くと、「はい。前回、ご馳走して頂いたので」と、彼女が言った。
それから、皓太はそこはご馳走してもらおうと思い、「では、お言葉に甘えて」と、彼女に言った。
その後、彼女が席を立ち、レジへ向かった。皓太は先に店から出た。彼女は会計を済ませて、店の外へ出てきた。
「ごちそうさまです」
皓太は彼女にお礼を言う。
「いえいえ」
「この後、どうします? 今日はもう帰ります?」
皓太がそう訊くと、「そうしませんか」と、彼女は言った。
「分かりました」
「池田さん、駅まで一緒に帰りましょ」
彼女がそう言った。
「うん」
それから、二人は駅まで歩いた。すぐに駅に着いた。
駅前まで着くと、そこはたくさんの人たちで溢れていた。さすが渋谷の街だなと皓太は思った。
「池田さん、今日は誘っていただいてありがとうございました。楽しかったです」
彼女が立ち止まり、皓太を見て言った。
「いえいえ。こちらこそ楽しかったです」
「今度は、ラーメン食べさせてくださいね」
それから、彼女が笑顔で言った。
「もちろん」
皓太はそう言って、にこりと笑った。「すぐに連絡しますね」
「はい! じゃあ、私、あっちなので」
その後、彼女はJRの駅の方を指して言った。
「あ、じゃあまた」
皓太も手を挙げて、彼女を見送った。