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その翌日、いつも通り出勤した皓太は自分のデスクに座ると、パソコンを立ち上げた。そして、皓太はその日の仕事内容を頭の中で巡らせていた。
「池田くん、おはよう」
向かいのデスクに座る諸見里さんがそう挨拶をする。
「おはようございます」
皓太も彼女に挨拶をすると、「今日なんか嬉しそうだね」と、彼女が言った。
皓太は彼女にそう言われてビックリしたが、すぐに自分が無意識に鼻歌を歌っていることに気が付いた。
「ああ」
それから、「昨日、何かあった?」と、彼女がニコニコしながら訊ねた。
すぐに皓太は昨日のことを思い出す。
「実は昨日、女性とご飯に行ったんですよ」
皓太が正直にそう答えると、「へー」と、彼女は驚いた。
「その女性って、何の人?」
それから、彼女がそう訊いた。
「二週間前に、高校の友人たちと渋谷で飲みにいったんです。その時、僕、結構飲み過ぎちゃって、気持ち悪かったんで外へ行って夜風に当たってたんですよ。そこで、しんどそうにしている自分を見つけたその女性が、僕を介抱してくれて……。」
「へー。すごいわね! その子」
「はい。その時、僕はとてもしんどかったですし、彼女に介抱されてとても助かったんです。それから、少ししてだいぶマシになったので、彼女にお礼がしたいと思って、『今度、ご飯でもどうですか?』って僕が彼女に言ったら、彼女に『新手のナンパ?』なんて言われちゃったんですね。でも、違うと言って『今回のお礼として、ご飯だけでもご馳走させてください』って言ったら、『それだったらいいですよ』と言ってくれて。それで、昨日はその人とご飯を食べに行ったんです」
皓太がそう話すと、彼女が口を開いた。
「池田くん、君、なかなかやるね」
そう言って、彼女はにやにやした。
「そうですか?」
「うん。もしかしたら、その女性って、池田くんの運命の人かもしれないね……。」
それから、諸見里さんは真面目な顔でそう言った。
「はあ」と、皓太は頷いた。
それからすぐに、皓太は諸見里さんが運命論者であることを思い出した。
まさかと皓太は思った。でも、もしかすると、桃井さんが自分にとっての「運命」の人であるのかもしれないなとも皓太は思った。
「その子、何さんって言うの?」
お昼休みに、皓太が近くのコンビニで買ってきたお弁当をデスクで食べていた時、向かいのデスクにいた諸見里さんがそう訊いた。
「え? ああ、ええと、桃井さんって言います」
「桃井さん。下の名前は?」
「確か千遥だったと……。」
「チハルちゃんか。可愛い名前ね」
「はい」
「で、チハルちゃんは何をしてるの?」
「アパレルをしているそうです」
「ふーん。それで、池田くんは、彼女のことどう思ってるの?」
彼女にそう訊かれて、皓太は考える。
彼女は優しかった。それに、可愛らしい女性だなと皓太は思っていた。
「優しい人だなと思ったのと、後、可愛らしいなって……。」
皓太がそう答えると、「それだけ?」と、彼女は訊いた。
「まあ」
「そっか。因みに、彼女のことを好きって気持ちは?」
諸見里さんにそう訊かれて、皓太は再び考える。皓太は桃井さんのことを一目見た時から気になっていた。いわゆる一目惚れであった。
それから、皓太がそう話すと、「そっか」と、諸見里さんは言った。
「なら、彼女にアタックしちゃいなよ」
諸見里さんはにやりと笑って言った。
「アタックですか?」
「そう」
「でも、どうやってするんです?」
「連絡先交換してるんでしょ? だったら、もう一度、デートしてくれませんかって、メッセでも打てばいいでしょ?」
彼女がそう言った。なるほど、と皓太は思った。
「ああ、そうですね」
「うん。多分だけどね、その桃井さんって子、池田くんの運命の人なんじゃないかな?」
諸見里さんは笑顔でそう言った。
お昼休みが終わり、午後の仕事が始まった。
皓太は午後の仕事をバリバリとこなしていった。
ようやくその日の仕事が終わった。皓太が時計を見ると、午後七時を回っていた。もうこんな時間かと思った。それから、皓太はもう帰ることにした。
帰りに皓太はスーパーへ寄り、その日の夕飯の食材を買って、自宅へと帰宅した。
帰ってすぐに、皓太は冷蔵庫から缶ビールを取り出して飲み始めた。そして、飲みながら、まずはお米を研ぎ、ご飯を炊いた。それから、皓太は買ってきたキャベツとピーマンを刻み、それらの野菜と豚肉をフライパンで炒めた後、焼肉のたれを回し掛ける。すると、回鍋肉が完成した。しばらくすると、ご飯が炊けたので、お湯を沸かし、インスタントの味噌汁を作った。
ご飯を盛り、回鍋肉と味噌汁をリビングのテーブルに運ぶ。床に座り、手を合わせてから皓太はそれらを食べ始めた。その回鍋肉はまあまあ美味しかった。
その後も、皓太はそれらを食べながらビールを飲み、テレビのバラエティ番組を観ていた。
――――彼女にアタックしちゃいなよ。
ふと、皓太はその日のお昼休みに諸見里さんと話したことを思い出した。
確かに皓太は桃井さんのことが気になっていた。
彼女と食事をした日、別れ際に皓太はちょっぴり寂しさを感じていた。彼女にまた会いたいと皓太は思っていた。
彼女に初めて会った時、皓太は彼女に一目惚れをした。桃井さんは本当に可愛かったのである。ただ可愛かっただけではない。彼女は優しかった。あの夜、彼女は酔っている自分を介抱してくれたのだ。その時、皓太は申し訳なさと同時に嬉しさも感じていた。
それから、皓太は諸見里さんのもう一つの言葉を思い出した。
――――多分だけどね、その桃井さんって子、池田くんの運命の人なんじゃないかな?
運命。皓太は今まで全く運命など信じていなかった。正直、馬鹿馬鹿しいと思っていた。
けれど、もしこれが「運命」というものならば、皓太はそれを信じてみるのも悪くないと思った。
皓太は早速、テーブルに置いてあるスマホを手に取り、メッセージアプリで桃井さんとのメッセージのトーク画面を開いた。そして、すぐにメッセージを打った。
『桃井さん、こんばんは。池田です。先日は、ランチどうもありがとうございました。実は、桃井さんとまたお話ししたいなと思いまして、ご連絡しました。単刀直入に、僕ともう一度、デートしてくれませんか?』