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決意と後悔

ハーフエルフ。

人族とエルフ族の間に産まれ、見た目人族に近いが耳や容姿などはエルフのそれに近い。純粋な人族より長寿でいて、魔法耐性も強いのだが、精霊と言葉を交わせるエルフとは違い、おぼろげに認識できる程度である。

『勇者カイゼル』がハーフエルフだったという事実に驚くアネーゼ。

人族として称えられた『勇者』。

「な、何故?今の話が本当だとして、何故語り継がれている内容とは違うの?」

「当たり前なの。」

ティナが割って入ってきた。

「人族はそういう種族なの。決して、自分達以外の種族を称えようとはしないの。」

少し怒っているかのような声だった。

「まぁ、全部がそうとは言わんが。人族の『勇者』として魔族の『魔王』を倒した、という事実の方が受け入れやすかったんだろうな。」

宥めるようにティナの頭を撫でながら、アゼルは続けた。

「結局父さんも、政治には興味無かったから建国後にすぐハルバルト叔父さんに国を譲ったというし。」

「お義母さまとすぐに一緒になりたい気持ちが強かったの。」

「それもあるだろうな。」

中央国家『アルハイム』の第二の王として君臨していたハルバルト国王。彼もまた、カイゼルほどではないにしろ、今の国の礎となった人物である。

「それじゃぁ、ハルバルト国王様もご健在ってこと?」

「いや、叔父さんは人族の血が強かったようでね。多少長生きはしたようだけど、亡くなっているよ。」

「そうだったんですね。」

確かにハルバルト国王の時代も長かった。しかしその後は長くはなく、代替わりをしている。

「久しぶりに、2人の顔でも見に行ってみようかな。」

「私、旦那さまのご両親にご挨拶するの。」

「アネーゼも一緒に行くかい?」

突然の提案に驚いた。

「わ、私も?」

「まぁ、アネーゼが嫌じゃなければ、だけど。」

「私は2人きりがいいの。」

「それとも、村に帰るかい?」

刻印が消えるまではここに居て良いと言われていたが、未だ刻印は消えていない。

逆に最近は色濃くなってきているようにも見えていた。

「刻印についても、2人に聞けば何かわかるかも知れない。」

人族の英雄である『勇者カイゼル』と魔族の王たる『魔王アルフィナ』。

確かに長い刻を生きている2人に聞けば、何かわかるかも知れないし、もう少しこの3人での生活もしていたい。

まだ、そんなに長いこと一緒にいないが、彼女の中で何かが変わっていた。

「私、行きます。」


「まずは村に戻って、旅立つ話をしないと。」

「でも、どう説明すれば?」

そうだな、両腕を組みしばらく考えていると、

「ここにいたのは魔王ではなく、ただの魔物だった。そして、どこかにいる魔王を探し出すため、旅に出るー。といった感じでいいんじゃないか。」

と、提案した。

「で、でもー」

「どのみち残念勇者の力じゃ、魔王討伐なんて無理なの。」

どことなく不機嫌なティナが、アネーゼに詰め寄る。

2人きりの旅にお邪魔虫が付いてくるのが面白くないようだ。

「な、納得するでしょうか?」

「まぁ、大丈夫だろ。」

心配するアネーゼと違い、アゼルは気楽に答える。

「今のままじゃ、足手纏いなの。少しは戦えるようになって欲しいの。」

「え?」

「え?じゃないの。一緒にいくなら当然なの。」

ティナに言われ、アネーゼは不安そうにアゼルの顔を見る。

「まぁ、自分の身くらいは守れるようにならないとな。」

「あの、ちなみにどこまで?」

恐る恐る尋ねるアネーゼ。

「『ブルムンド』だ。」

中央国家『アルハイム』の西に位置する『古都ブルムンド』亜人が多く住む大陸を治めるのがエルフ族の女王『フィーリア』。ただし、その地に向かうためには、極寒の山を越えないと辿り着く事が叶わないと言われており、その山にはドラゴンが住み着いていると噂されている。

彼はその『ブルムンド』に向かうと言った。

アネーゼはさっきの発言を取り消したい気持ちになった。

「大丈夫。多少はカバーするし、それまでに何とかできるようになるよ。」

「なの。」

2人の無邪気な笑顔に、不安しか残らないアネーゼ。

そして、さっきの決意を後悔する羽目になる。

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