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馴れ初めと真実

アネーゼがアゼル、ティナと暮らし始め一カ月ほど経とうとしていた。

その間、2人特にアゼルには驚かされてばかりの日々であった。

無詠唱での魔法を目の当たりにした時は、驚きとともに、その息をするかのような自然な動きに見惚れてしまうほどであった。

そして、彼女が最も驚いたのがー


「え?い、今なんて??」

しばらく3人の奇妙な生活に慣れ親しんだころの夕食時に家族の話題となった時、アゼルの両親について尋ねたアネーゼは、アゼルの言葉に思わず聞き返した。

「だから2人はまだ元気で生きているよ。」

和かな笑顔でアネーゼに、アゼルは淡々と話す。

「魔族は人族より長寿だからな。父さんもー」

「いや、そうではなくて!!」

「うん?」

「ご両親のお名前、今『カイゼル』と『アルフィナ』と聞こえた気がするのですが。」

「そうだよ。父さんが『カイゼル』母さんが『アルフィナ』で間違いないよ。」

彼女が驚くのも無理はない。

『勇者カイゼル』と『魔王アルフィナ』この2人の名前を知らない者は居ないと言うべきか。

この2人こそ、遥か昔に魔族と人族の争いを終わらせた者達だからだ。今は御伽話で語り継がれている2人の名前。しかしー

「だ、だって『勇者カイゼル』って遥か昔に『魔王アルフィナ』を打ち倒してこの世の争いを終わらせた、あの『カイゼル』?!」

そう、今よりも数千年も前の時代。魔族と人族が争い、混沌の世の時代に生まれた『勇者カイゼル』は、同じく魔族より生まれた『魔王アルフィナ』を打ち倒し、世界の中央に位置する国『アルハイム』を建国した。魔族と人族の争いを終わらせ、今の世を作ったとされる伝説の勇者。その2人が親だと言うアゼル。そんな事を言われて驚かない者はいない。

「あー、確かに。世間的にはそうなっているんだってな。」

「世間的?」

「世間的には勇者(父さん)が魔王(母さん)を倒して、って話になっているんだけど、ホントは父さんが母さんを口説き落としたんだよ。」

「とても情熱的な出会いなの。」

頭を掻いている隣で、ウットリとした表情のティナを、交互に見ながらアネーゼの頭の中はグルグルと混乱していた。


「2人の話だと、最初はお互いにそれぞれの種族の為、戦っていたそうだ。だけど、その戦いが長くなるにつれ、いつしかお互いに惹かれていったそうなんだな。」

「愛なの!」

「で、父さんが母さんを口説いて、その結果オレが産まれたそうなんだ。」

「ステキなお話なの。」

「え、ちょ、ちょっとまって!」

淡々と話すアゼルを遮って、アネーゼが声を上げる。

「数千年も前の御伽話の人物が話両親だって話、信じられないわ。それに、アゼルはどう見ても私と同じくらいしか見えないし。」

「半分、魔族の血が入っているからなー。普通の人族よりは長寿なんだよ。」

「長寿ー」

「こう見えても、結構長く生きているんだぜ。」

笑い、コップの中身を飲み干した。

確かに、人族だけが短命であり、他の種族は長寿である。人族がせいぜい100年の寿命なのに対して、他の種族は1000年以上の寿命を持つ。彼の隣でウットリしているティナも、長い年月を過ごしている事だろう。

「その話が本当だとして、アゼルって今幾つ?」

と、素朴な疑問を投げかけた。

「オレ?数えてはないけど、まだ500年とちょっとくらいじゃないかな?」

彼の回答でまた、アネーゼは混乱していた。

数千年前の英雄の子供がまだ500歳??

「あの、それだと計算合わないと思うんですけどー?」

アネーゼの疑問は最もである。

人族はそこまで長生きできるわけない。

いくら英雄とはいえ人族なのだから、アゼルの話には無理がある。そして、2人はまだ生きている?しかし、彼女のその疑念は簡単に打ち消された。

「当たり前なの。お義父さまも旦那さまと同じなの。」

代わりに答えたティナに、アゼルは付け加えた。

「と、言っても父さんは人族とエルフ族のハーフ、つまりハーフエルフなんだ。」

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