妖精の心配
魔物との戦いは普段なら長引く事はなかった。
ただ、今回に限っては倒した後の肉が目的であるために、長引いていた、と言った方がいいだろう。通常の魔物は特に問題ないが、変異種になると、乱雑に倒してしまうとなぜか肉の質が落ちてしまう。しかし、うまく仕留めた時は極上の旨みをもたらすのだ。
どうせなら美味い肉にありつきたい。
はやる気持ちを抑えつつも、その時は確実に近づいていた。仕留めに差し掛かろうとした、その時、魔物は先ほどの斬撃をアゼル達に向かって放つ。
「それは効かないー」
持っていた大剣で斬撃をかわそうとしたが、その矛先はアゼル達ではなく、その数歩手前の足元を狙ったものだった。
ドゴォォォン!!
激しい土煙とともに、その辺りの土砂が2人に降りかかる。
「いやー!!」
「うそ!!」
魔物の狙いに気づいたが、時既に遅かった。
降りかかった土砂を払いながら、ようやく落ち着いた土煙の先には魔物の姿は消えていた。
「逃げられたー」
「私のお肉ーー!」
ティナの悲痛な叫びも虚しく、辺りは静けさを取り戻す。
「参ったね、まさか逃亡するとは。」
「関心してる場合じゃないの!」
魔物とはいえ、潔い決断をした相手に敬意を示すアゼルにティナがツッコむ。
「お肉が逃げるの!」
「まぁ、慌てなくてもあいつの魔力は既に捉えているよ。」
アゼルが見ている逃げた先の方向にティナも目をやる。そして、あることに気づく。
「だ、ダメなの!こっちはマズイの!」
何を言ってるのかと、慌てるティナに不思議に思っていると
「こっちには人族の住む村があるの!もし、そこに逃げて、襲いでもしたら旦那さま、最悪なの!」
「マジか!?」
ティナの報告に頭を掻き、何やら考え始める。
しばらく悩んでいたが、何かを決意したようにアゼルは大剣を持つ右手に力を込め始めた。
右手に蓄えられた淡い光が手に持つ大剣を伝い、覆い始める。
「旦那さま?」
アゼルを見ていたティナは、彼が何をしようとしているのか察した。
「それはダメなの!その力はー」
「すまん、ティナ。あの肉は諦めてくれ。」
ティナが止める間もなく、アゼルは光を纏った大剣を、魔物が逃げた方向に向かって投げつけた。
空へ向かって飛んだ大剣は、今にも人を襲いそうな魔物に真っ直ぐ飛んでいき、そして一刀両断した。
「よし、何とか被害は出なかったな。」
捉えていた魔力が消滅したのを確認したアゼルだが、隣ではプルプルと小さく震えているティナが、こちらを愛らしい顔で睨みつけていた。
「そんなにあの肉が良かったのか?肉なら他にいくらでもー」
「違うの!」
狙っていた肉を消された事で怒っているのかと、思っていたがどうやら違う事に文句を言いたいようだ。
「旦那さま!あの力!あんなのを纏わせたらダメなの!」
「別に大丈夫だろ。一部だけ乗せただけだし、長く残らないよ。」
「でも、もし残っている剣に誰かが触れたりしたら、絶対面倒なの!!」
「まさか、そんな事はー」
「起きないとは言えないの!」
「いやいや。」
「旦那さまは少し自重すべきなの!それほどあの力はすごいの!!」
「そうかなぁ。それより、ほら別の肉が近くにいるみたいだし、しっかり狩ろうぜ。」
ティナの心配を他所に、どこか他人事のような態度のアゼルに、呆れつつも新しい肉の方向に一緒に向かいながら、ため息をつき呟いた。
「絶対面倒になるの。」




