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青年と妖精

「寝室?」

青年の言葉を聞いて改めて自分がベッドの上だと再認識し、また入ってきた時の格好ではない状況に慌てて布団に潜り込んだ。

「安心しろ、何もしてない。」

確かに自分が何かされた形跡は身体に感じられない。ただ、着用していた鎧の代わりに軽装な格好に変わっていた事以外は。

「あの鎧のままじゃ、寝れないだろ?」

察してか、青年は話続けた。

「まぁ、その鎧を外したのはオレだが、あまり見ないようにしたし、触れないようにもした。大概はティナがやってくれたから、大丈夫だろ。」

「・・・・・ティナ?」

恐る恐る布団から顔を出して、青年の方に目を向けると、彼の肩に小さな妖精が乗っていた。

「んもー!ホント大変だったの!」

両腕を前に組み、プイっとソッポを向いた。

「すいません。お手数おかけしました。」

「いや、謝るのはこっちというか。」

「?」

「いや、それより身体の方は大丈夫か?」

いまだ布団にしがみつくように座っているアネーゼに、ほら、とコップを1つ差し出して渡した。コップには暖かい飲み物が入っているのだろう。湯気がほんのりと立ち上がっていた。

「安心しろ、毒なんて入ってないよ。」

こちらの不安を取り除くようにニコッと笑って、自分もコップの中身を飲み始める。

「あ、ありがとうございます。」

「熱いから気をつけろ。」

言われ、ゆっくりとコップに口をつけた。

「あったかい。」

アネーゼは、久しぶりに温もりを感じていた。


「ここは、魔王城ではないのですか?」

落ち着いてきたアネーゼは目の前の青年に問いかけた。

「そうだな、魔王城ーなのかは知らんが、確かに魔王はいるな。」

「え?」

アネーゼに緊張が走った。

「やはり、魔王がいるんですか?」

「ああ、いるな。」

「いるんですか?!」

涙目になり、驚いて声が大きくなったアネーゼに青年は驚きの言葉を返した。

「まぁ、俺がその魔王だな。」

「へっ?」

「いや、だから。オレが魔王だよ。」

どう見ても人族の青年にしか見えない、その彼は隠す事なくアネーゼに伝える。

その隣では、先ほどの妖精が笑っていた。

「か、からかってますか?あなたは人族でしょう?!」

アネーゼの言う事には一理ある。

魔王とは魔族の中より生まれるものだからだ。

自分の目の前にいるのはどう見ても同じ人族。

からかわれている、と思うのも無理はない。

「ああ、確かに人族だな。半分だけな。」

「半分?」

混乱続くアネーゼに、さらに驚きの言葉を投げかける。

「そう、オレは魔族と人族の間に生まれたんだよ。人族の姿であるのは、父親の力が強く出たせいだろうな。」

「人族と魔族のー?」

「ん。もっと言えば父親が勇者で母親が魔王だな。その力を受け継いでいるからな。魔王に違いない。」

淡々と話す彼に驚き、口を陸に上がった魚のようにパクパクさせている。

椅子に座っていた青年はスッと立ち上がり、混乱しているアネーゼに向き直ると

「挨拶まだだったな。オレはアゼル。ここの古城に住んでいる。そして、こっちが妖精族のティナだ。」

深々と頭を下げて、一礼した。

先ほどから彼の肩にいる妖精が、

「もう!旦那さま!!」

と、文句でも言いたいのか、青年の髪を掴み引っ張っていた。

「私はアネーゼです。この古城に住む魔王討伐のためにここから東の小さな村からやってきました。」

思わず丁寧な挨拶をする青年に、こちらも真面目に挨拶を返した。

「勇者って。」

手を止め、アネーゼを向いてティナが笑う。

「勇者なのに、残念なの。」

ティナに言われ、アネーゼは恥ずかしそうに顔を赤くして下を向いた。

「・・・・その、自分でも良くわからない、です。」

「勇者なら、あんなに罠にハマらないの。」

未だ肩で笑うティナに、「こら。」と、アゼルは指で頭をつつく。

「わからない?」

椅子に座り直し、アゼルはアネーゼに聞いた。

「はい。数ヶ月前に突然魔物が私の村を襲いました。私も逃げようとしたんですが、転んでしまって。魔物に殺されそうになったんです。」

その時を思い出したのか、アネーゼの肩が震えている。

「その時、一筋の光が魔物の身体を引き裂いて。その場に剣が刺さってました。暖かい光に包まれていた剣に触れたら、紋章が身体に現れて。」

話ながら少し恥じらい、

「なぜか力が強くなっていて。村も私のこと勇者だ、何だって騒いで・・・・。魔王討伐する事になってしまったんです!!」

ふと、アゼルの方を見ると何だか困って顔をしていた。隣にいたティナも同様に、何かを察したように、向こうを向いている。

「アゼルさん?」

「あー、うん。えっと、アネーゼさんだったかな。一つ確認なんだがー」

「はい?」

「その村を襲った魔物って、クマみたいなヤツだったかな?」

「え?そ、そうですね。クマっぽい感じだったと思います。」

「飛んできた剣ってのはー?」

ベッド脇に立て掛けてある大剣の方にチラリと視線を向けたアゼルに

「はい。その大剣です。」

と、答えると

アゼルは顔を片手で押さえ、やってしまった、と言う感じでため息をついた。

「やっぱりかぁー」

「もう!だから私はやめた方がいいって言ったの!」

「そうだけど、まさかこんな事になるとは思わないだろ。」

「私は止めたの!旦那さまは少し自重すべきなの!!」

「あの、何か?」

やりとりしている2人に、自分が何かしたのかと不安になり、尋ねるアネーゼに

「いや、その。何だ。申し訳ない。」

頭を下げるアゼルだったが、アネーゼにしてみると何に謝罪されているのかわからない。

「あの、何に謝っているのか?何か知っているんですか!?」

アネーゼの問いかけに、気まずそうな表情になった2人だが、隠す事もできないと思ったのか、アゼルは話始めた。

「今回の件、全てはオレの責任だ。」

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