勇者と魔王?
あれから何度、罠にハマったのかわからない。
何度も罠にハマりながらも、とうとうアネーゼは大きな扉の前にたどり着いた。
「ここに、魔王がー」
ようやく辿り着いたアネーゼだったが、その顔は憔悴しきっていた。
疲れ切った身体で、魔王討伐なんて出来るわけない。やっぱり、一回帰ろう。
扉の前でぐるぐると悩んでいる彼女だったが、いきなり扉がゆっくりと開きはじめた。
「え?」
驚くアネーゼをよそに、扉は開き続ける。
重くなった剣を握り直し、部屋に入るとそこは王座の前のようだった。
部屋の奥に玉座があり、そこに誰かが座っている姿が見えた。
「ー!?」
あれが魔王なのだろう。
その姿は遠目に見てるだけでも、威圧感がすごく、進もうとする足を止めようとする程であった。
(帰りたいー。)
涙目になりつつ、アネーゼは恐る恐る進む。
玉座の数歩手前まで近づくと
「ま、魔王!!災いもたらす存在のあなたを倒しにきちゃ!」
最後噛みつつ、アネーゼは大声を出して剣を面前に構えた。
「・・・・・」
魔王はピクリとも動かない。
「?」
様子がおかしいと感じ、剣を構えたままアネーゼは玉座へとゆっくり近づく。その姿は全身が黒いローブを纏い手には杖を握っている。顔はフードで隠されていて表情はわからない。
「魔王?」
玉座にかなり近づいて、アネーゼはそれが人形であることに気がついた。
「え?魔王じゃ、ない?」
剣でツンツンと人形を突いてみるが、動こうとしない。どうやら、本当にただの人形のようだ。
「な、なんだぁー。やっぱり魔王なんていないんだぁー。」
ホットしたアネーゼは人形を覗き込み
「でも、何でこんなところに人形が?」
不思議に思い、辺りを見回すが他に何もいる様子はなかった。
さらに近づき、人形のフードに手をかけた瞬間、『ガコン』の音と共に足元の感覚が無くなったと感じた。
「ぶぇっ!!」
可笑しな声を出しつつ、真下に落下した。
(またー?!)
幾度となく落ち続けた為の疲労が溜まったためか、魔王が居なかったという安心感なのかはわからないが、落下して一瞬気を失った。
「おーい、大丈夫かー?」
遠くから声が聞こえる。
「だ・れ・・?」
ボンヤリとしながら声がする方に起きあがろうとしたが、身体がいう事をきかなかった。
「まさか、こんなにも引っかかるなんて。」
「ね、言った通り残念でしょ。」
「笑い過ぎだぞ、ティナ。」
遠く誰かが会話しているようだ。
「とりあえず、ベッドまで運ぶ。」
「だんな様!私以外の女を抱くなんて、ズルい!!」
「ティナには運べないだろ。」
誰かに抱き抱えられ、アネーゼはそのまま再度気を失った。
夢を見ていた。
目の前に魔王がいるのに、恐怖で剣を握る手が震え、足がすくんで動けない。
「ーーーー!」
声も出せず、アネーゼは足元の穴に落ちて行く。
(助けて!!)
叫ぶがやはり声が出ない。
魔王の笑う声が頭に響き、そのまま何も出来ず暗闇の中へ落ちて行った。
「!?」
目が覚めたが、頭がボーっとしている。
ここは?
ボンヤリと目の前の天井を見つめ、自分が暖かい布団の中にいることにしばらく気づけないでいた。
「ー知らない天井ー。ここはー?」
置かれた状況が理解できないまま、ようやく自分が布団の中にいる事に気がつく。
「ここ、ベッド?の中??」
「ん?起きたか?」
声のする方に視線を向けると、そこには1人の青年が立っていた。
「ここは?あなたは、だれ?」
身体を起こそうとしたアネーゼに
「ゆっくり起こせ。」
青年は優しく手を差し伸べ、手伝った。
「覚えてないか?」
私は確か、魔王討伐で古城に入った。
そして、罠にかかり、穴に落ちてー
「魔王!?」
自分の状況を理解し、おもむろに剣を握ろうとして、ベッドの上にいる事に改めて気づいた。
「ここは?」
再度聞かれ、青年は答える。
「ここは玉座の間の奥の、俺の寝室だ。」