旅立ち
「無理ですー!」
半泣きでアネーゼは叫んでいた。
アネーゼの村から『ブルムンド』へ向かう途中、幾度か魔物に襲われていた。
その度に2人はアネーゼに戦闘を任せ、手を出さずにいた。
「泣き言なんていらないの。戦わないと死ぬだけなの。」
ティナは冷たく吐き捨てる。
「まぁ、いつものようにサポートはするから。がんばれ!アネーゼ。」
反対に優しく声をかけるアゼルだが、戦闘を見守る点ではアネーゼにとってどっちもどっちである。
「で、でもー」
涙目のアネーゼと対峙しているのは、彼女より二回りほど大きく、頭が2つあり、尾の先は蠍のような針になっている蛇の魔物。ツインスネーク。
「変異種ではないから、尾の針に注意すれば大丈夫だよ!」
アゼルのアドバイスもアネーゼは恐怖のあまり聞き取れないでいる。
「こ、これは無理ですー!」
ジリジリと近寄る魔物。
それに対し、睨まれ立ち竦む、小動物のように震えるアネーゼ。
ドン、と鈍い音と共にアネーゼはいきなり横に吹っ飛ばされていた。
飛ばされた先の大木に衝突し、その場に倒れる。一瞬の事で自分が何をされたか理解できず、ボーゼンとしていた。
「よけろ!」
アゼルの声に我にかえるが、目の前には大きな針が飛んできていた。
(あ、死んじゃう)
アネーゼの脳裏にこれまでの出来事が走馬灯のように流れる。
もう、ダメだと思ったが、針は目の前で見えない何かに弾き返された。
「?」
「しっかりするの!」
何が起きた理解出来ずにいたアネーゼに、ティナの声が響く。
どうやらティナが魔法で障壁をはり、防いでくれたようだ。
「旦那さまと私が支援しているの!飛ばされただけでダメージは無いの!」
言われ、確かに衝撃はあったが自分の身体に傷一つない事に気がついた。
「ほら、また来るの!」
ティナの声に、今度は反応し、飛んできた針を横に飛んで躱わす。
針はそのまま後の大木へ刺さり、割れた。
「ひえぇぇ!」
その破壊力に驚くが、2人の支援を感じられ安心したのか、先程よりは恐怖も薄まり身体の硬直も解けたよつに少しマシな動きになってきた。
魔物は一回でトドメを刺せなかった事にイラついたのかさらに、尾の針を突き刺してくる。
それを、何とか躱しはじめるアネーゼ。
「ええーい!」
振り回す大剣は虚しく空を切り、疲労の溜まったアネーゼの手から抜けて上空へと飛んで行く。
「う、うそ。」
武器を無くした目の前の小さな獲物に、そのまま喰らい付こうと牙を向けて魔物が突っ込んでくる。
(食べられる!)
目を瞑るアネーゼだが、そうはならなかった。
何故なら目の前に向かってきていたはずの魔物が何故か大剣が刺さり、絶命していたからだ。
その光景に、さすがの2人も驚きを隠せずにいた。アネーゼの手から抜け上空に飛んだ大剣がそのまま魔物の頭上へ落下、あわやのところでトドメを刺す結果となったからだ。
「全く、こんなんじゃいつまで経っても強くなれないの。」
「その割には優しいじゃないか。」
「死なれても困るの!」
「でも運は強いようだし。」
「運に頼っていたらいつまでもポンコツ勇者なの。」
「確かに」
苦笑いするアゼルと情けない姿を見せるアネーゼに怒るティナ。
アネーゼは目の前の起きた惨劇にただ腰を抜かしてその場に座り込んでいた。
「た、倒せました?」
笑顔と泣き顔がごっちゃになった表情で2人の方へ向く。
「お、おう。お疲れさん。」
何とも不思議な表情に、少し焦るも座り込むアネーゼに手を差し出す。
「運が良かっただけなの!」
怒りながらティナは立ち上がるアネーゼに文句を言う。
「もう少し、しっかりして欲しいの。」
「すいません、ティナ。」
「とりあえず、その格好を何とかしないとな。」
アゼルに言われ改めて自分の身体を見ると、全身返り血を浴びていた。
「!?」
驚きふらつくアネーゼをすかさず、アゼルが支える。
「大丈夫か?」
「え、ええ。すいません。」
支えた格好が顔が近く、アネーゼの顔が赤くなる。
「す、すいません。」
慌てて顔を背ける。
「この先に、確か泉があったはずだ。今日はそこで身体を休める事にしよう。」
そっと離れてアゼルは向かう先へ顔を向けた。
「早速向かうの。」
そんな2人に気付かず、ティナが先を行く。
そして、その小さな妖精の後を追うように、2人も歩き始めた。




