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勇者誕生

遥か昔、太古の時代より人族と魔族はお互いの領地をめぐり、長い争いを続けていた。

魔族側には、ゴブリンやオーク、ダークエルフや闇落ちしている人族などが集い、人族側には、エルフ、ドワーフなどが集い、争っていた時代。

長きに続く争いは拮抗しているように見えていたが、ある日を境に人族側に、1人の戦士が現れた事で事態は一変する。

その者が剣を振るうと、大地を割り空を引き裂いた。

一振りすれば、数千の魔族軍が吹き飛び、魔族の放つ魔法すらもかき消す。神のような力を持った戦士を人族側は讃え、魔族側から疎まれた。いつしかその戦士は勇者とよばれるようになった。人族側に有利な状況となった時、魔族側にも最強の戦士が現れた。戦士が放つ魔法は大地を消し飛ばし、天を荒らさせた。一つ一つの魔法が強力で、魔族側は歓喜し、人族側は畏怖した。いつしか戦士は魔王と呼ばれるようになった。

勇者と魔王。二つの力は強大で、互いに力が均衡していた。

さらに長い争いが続くと思われた。

争いが激闘する最中、一本の矢が終止符をうつ。

勇者と魔王の戦闘中に人族側からの一本の矢が魔王の動きを一瞬止めさせた。その刹那、勇者の一振りが魔王を捉え、討ち倒し、人族側へ勝利をもたらした。

かくして、人族側と魔族側と長い争いは終わりを告げる。

それから数1000年の後の世、世界は過去の争いを忘れたかのように、他種族同士が平和に暮らしていた。

そして、さらに月日は流れて、この世のあらゆる場所で多種族が暮らす街が増えていた。


世界に5つある国の長いで中央に位置する人族の王が統治する国アルハイム。その国の離れ、深い森の中、人知れず古城が建っていた。もりは深い霧に覆われ、凶暴なモンスターがうろついており、余程の熟練者ではないと到底辿り着くことなと不可能な、そんな古城に緩やかなスローライフを楽しんでいる人物がいた。

人族の特徴でもある黒い髪と瞳。さほど大きくないが、引き締まった身体の青年。腰に差しているのは装飾もない短刀一本。

そんな彼が慣れた足取りで古城の中を歩いていると、慌ただしく駆け寄る者がいた。

「旦那さまー!!大変、大変ですー!!」

人族の彼の身体より一回り小さく、背中からは黒い羽が生えていて、パタパタと忙しく動かして飛んでいる。

愛嬌のある顔立ちではある彼女は妖精族である。

彼が古城にいる時、モンスターに追われて逃げ込んできた彼女を助けてから、彼の事を旦那さまと呼び懐いた。

旦那さまと呼ばれた彼は頭を掻きながら、

「ティナ。何度も言うけど、旦那さまはやめろ。」

彼女に向かい、苦笑いした。

「また、照れなくてもいいじゃないですかー!いずれは添い遂げる運命なんですから。」

きゃっと、照れ笑いしながら顔を隠す。

「添い遂げるって…。俺は人族だぞ?ティナの好意は嬉しいけどな。結婚は無理だろう。」

「何を言ってるんですか!たとえ種族が違えど愛があれば何とでもなります!!」

ティナが向ける眼差しは真剣そのものだ。彼女は本気で彼と一緒になりたいと考えているのだろう。

「まぁ、冗談はおいておいて、何かあったのか?」

彼の問いに、ハッと思い出したように

「そうだった!大変なの、旦那さま!」

ティナが真顔に

「ここに、誰か入ってきたの!!」


「この古城に?賊か??」

ティナの報告に、過去にも何度かあった盗賊の襲撃を思い出しながら、2人は古城玉座の間の脇にある部屋へと向かう。

向かいながらティナに状況を聞いた。

「うーん、賊って感じじゃないの。」

「ん?そうなのか?」

「うん。そう。賊じゃないのは確かだと思うの。」

何とも歯切れの悪い答えのティナ。

「賊じゃないなら、冒険者か?」

「うーん、それも違うかもー?」

「何だよ?じゃぁ何が来て何が大変なんだ?」

「うん。そうねー。」

ティナは顎に手をやり、考えていた。

「1人の女戦士?多分人族だと思うんだけどー。」

「だけど?」

「何と言うかね、すごくー」

「すごく?」

「残念なの!!」

ティナの言葉に、?になった。

「え?残念?何が?」

この妖精は何を言っているのか、不思議で聞き返す。

「うーん、そうね。まぁ、見てみれば私の言いたい事、伝わると思うの。」

部屋に着くと壁にかかっている鏡に向かいティナは呪文を詠唱はじめた。

「その姿、ここに写しだせ!」

詠唱を終え、手を鏡に向けると2人を写し出していた面が大きく歪み出した。

「うん?こいつか?」

「そう!」

鏡には1人の戦士が映し出されている。

鉄製のフルプレートアーマーを身につけ、自分の背丈と同じ長さの大剣を手にしている。頭は守っているはずの兜がなく、顔は今にも泣き出しそうである。黒い長い髪が背中まで伸びていて、どことなく足取りが重そうだった。

「ん?こいつ、女か?」

その言葉にティナが反応する。

「もう!浮気はダメよ!旦那さま!!」

髪を引っ張る。それを無視するかのように鏡の彼女を見続ける。

「うーん、確かに変だけど、これの何が残念なんだ?」

彼の問いにティナは

「見ているとわかるの。あ、丁度いいところなの!」

ティナが鏡に向き直したいので、一緒に見てみると、彼女の目の前にいかにもの罠があらわれた。

「これ、この間暇つぶしに作った落とし穴だよな?まさか、これにはまるのか?」

「いいから!ほら、見て!」

ティナはどこか嬉しそうに彼女を指差した。

『ガコン』

何の躊躇なく彼女は罠を作動させ、そのまま落とし穴へ落ちて行った。

「!?」

驚いている青年の脇で、腹を抱えてティナは笑う。

「ね!ね!何か残念でしょ!?」

「いや、まさか。もしかして今までずっと?」

ティナに恐る恐る聞くと、

「まさかのコンプリート中なの!」

笑いながら親指をたてるティナをわき目に、複雑な表情で鏡の向こうの彼女を見ていた。


「痛いー!!もう!イヤー!!!」

落ちた穴を見上げ、叫んだ。

魔王の住むといわれる古城へ入って、何度目の罠だろう。

幸いに、落ちた穴の底は藁のようなものが敷き詰められていて、大した怪我をしたわけでもない。

それでも、フルプレートアーマーを着込んでの落下はそれなりに彼女の身体に痛みを残した。

自分の脇には、大剣も落ちていた。

「さっきから何なよ!もう!!」

落ちた時に打ったと思われる腰を摩りながら、ゆっくりと身体を起こし大剣を拾う。

落ちた穴は然程深いわけでもなく、何とか登れそうだ。

「それにしても周到な罠ばかりね。早くここの魔王を倒し、村人達を安心させないと!」

何とか穴から出た彼女は辺りを警戒する。

「でも、不思議な城だわ。さっきから魔族どころかモンスターの1匹すら出会わない。むしろ罠しかー」

『カチリ』

何かを踏んだような気がした瞬間、身体が落下して行った。

『ドボン』という音と共に水飛沫が豪快に跳ね上がる。

「もうー!!さっきから何なのーー!!!」

今度ほ底に泥水が溜まっていたようだ。

全身から浴びた彼女は、顔にかかった泥水を拭った。

「本当にこんな城に魔王なんているのー!?」

何とか穴から這い上がり、彼女はさらに奥へと進む。

その顔は今にも泣き出しそうだ。

「だいたい、何で私が『勇者』の称号なんてつくのよ!私なんて、そんな素質もないのにー。」

それはまさに、偶然の産物であった。

彼女の住む村は中央の国の西側の小さな村だった。

そんな村で普通に暮らしていたある日、モンスターに村を襲われる。村人に戦う術は無かったが、それでも必死の抵抗をしていた。しかし、長くは続かなかった。逃げ惑う村人。彼女も、モンスターから逃げようとして、転んだ。そこに襲いかかるモンスター。

もう、ダメだ!そう思ったその時、一本の光がモンスターを突き刺した。ぐらりと倒れるモンスター。その身体には一本の光る大剣が突き刺さっていた。

「きれいー」

全身モンスターの返り血を浴びた彼女は立ち上がりおもむろに大剣を掴むと、彼女の全身を光が覆い、辺りを暖かく包み込んだ。

その姿を見た村人達。

「ゆ、勇者様だ!」

1人の村人が、彼女を差して叫ぶ。そこには、モンスターの屍の上に剣を掲げ、光に満ちた姿で立つ彼女がいた。

村人は救われた命と、勇者誕生に歓喜した。

「まさか、アネーゼが勇者に選ばれるとは!!」

「え??ちょっと、ちょっと待ってー」

「勇者アネーゼ!普段はトロイ娘だと思っていたけど、まさか勇者の素質があったなんて!!」

「いや、だから私、勇者なんてー」

慌てて否定していたアネーゼに、村長が近づき聞いてきた。

「アネーゼや、勇者の資格を持つ者には身体の一部に紋章が浮かぶと言う。どこか、現れておらぬか?」

「へ?紋章??そんなものどこにもないよ!」

自分の身体を見ながら、探すが露出している部分には確認できない。

「どこか、見えぬ場所かもしれぬ。そこの小屋で見ておいで。」

促され、小屋に入り、着ていた服を捲り探してみる。

すると、紋章なのか、アザなのかわからないが、確かにそれはそこにあった。

「えー!!!」

叫ぶアネーゼ。そして、小屋から出て村長へ向かう。

「あったのか!」

村長の問いに顔を赤らめ、

「わからないけど、アザみたいのはー」

「どれ!見せてみぃ!!」

近づく村長に、

「イヤぁー!村長のスケベ!!」

思わず、バチン!と引っ叩いていた。

「ふぐぅ!」わけのわからぬ叫びと共に、村長は吹っ飛ぶ。

「村長!!」

村人が駆け寄ると、ヨロヨロと立ち上がり

「こ、この力。まさしく、勇者の成せる力じゃー!」

鼻血を出しながら、フラフラとアネーゼへ近寄り、

「アネーゼ、その力でこの村を救ってくれ!」

アネーゼの手を握り、頼み込んだ。

「えー!だから、私、勇者なんてー」

「この村から西の森奥深くに!」

アネーゼの言葉を遮るように村長は続けた。

「遥か昔より建っている古城があり、そこにモンスター従えた魔王が住むと言う。その魔王を見事打ち取ってきておくれ!」

村長が頭を下げると、周りの村人もまた、アネーゼに向かい頭を下げてきた。

「頼む!アネーゼ!!村を守ってくれ!」

「その力、村の為に!!」

「え?でも、私本当に無理です!武器も使ったことないのにー」

「アネーゼ、この村の唯一のフルプレートアーマーを託そう。武器は先刻の大剣が、其方を守り、力となってくれるじゃろう。」

「頼んだぞ。アネーゼ!」

と、彼女の言い分を聞く事もなく、トントンと話がすすみ、古城にくるハメとなってしまった。

思い出し、アネーゼは落ち込む。

「だいたい!本当に魔王だったらいくら勇者でも1人じゃ無理!!」

何度も帰ろうと考えていた。しかし、本当に魔王が住んでいるのだとしたら?いや、魔王じゃなくても危険なモンスターが住んでいるとしたら?村より近いこの場所に、そんなモノが存在していたとしたら?村が危険にさらされてしまう。

それにー

「この城に来る途中、何匹かモンスターも倒せた。もしかしたら本当にそんな力があるのかもしれない!」

前向きに考えるようにした。

ここまできたんだ、とりあえず奥へ進もう。

重い足取りで、アネーゼはさらに奥へと進んでいく。



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