プロローグ 〜出会い。委員長とズットモ〜
世はパリピギャル戦国時代。
幾多のギャルが現れ流星のごとく輝いては消えていった。
時は流れ――
四人のパリピギャルが産み落とされた。
時代が違えば各々がギャル戦国天下を治めうる器。
しかし同時期、同世代に生まれた彼女らは覇を競い争う。
北方の支配者アゲポヨ。
南方の守護者バイブス・ブチアゲ。
東方の鬼母神ウェーイウェーイ。
西方の覇王テヘペロ。
四ギャルの力は拮抗していた。
永きに渡り睨み合いが続き、ギャルたちの争いはこう着状態に陥る。
一時の安寧。
争いにより荒廃した世には、仮初めの平和が訪れていた。
◆
とある寒村で、名もなきモブギャル集団が暴れていた。
「おらぁ! 大人しく年貢を寄越しな!」
「きゃあ!」
ギャルは抵抗する村人から米俵をぶんどった。
このモブどもは西の覇王テヘペロ配下の徴税ギャルたちだ。
いまは年貢の徴収にきている。
「お、お願いです! どうかそのお米を返して下さい! それを持って行かれては、私どもは餓死してしまいます!」
三つ編み眼鏡の貧相な娘が涙ながらに訴える。
しかしモブギャル徴税官は聞く耳を持たない。
「へへっ。知るかよ! じゃあ飢え死ねばいいんじゃね?」
「……そ、そんな……あんまりです……!」
眼鏡娘がうなだれた。
しくしくと泣きながら思う。
ギャル乱世なんて真面目な一般ピーポには辛いだけ。
眼鏡娘の胸――貧相な顔に似合わず、たわわに実っている――を絶望が苛んだ。
しかしそのとき、
「ウェーイ! ちょい待ちー!」
快活なパリピ声が響いた。
一人のギャルが現れる。
キラキラに光るエクステ。
ばっちり決まったギャルメイク。
手入れの行き届いたネイルもポイント高い。
このギャルの名はズットモ。
お金もないのに気の向くまま諸国を漫遊しているニート的な何かである。
ズットモは言う。
「へーい、そこのアンタぁ! ずっと見てたけど、今のはちょっとバイブス盛りすぎじゃね? けど方向間違ってんよ。んー、流石になしよりのなしだわぁ……。いじめかっこ悪い的な?」
突然現れたズットモ。
ギャル徴税官たちはしばし面食らうも、すぐに気を取り直した。
モブギャルとてギャルの端くれ。
こういう切り替えは早いのである。
モブギャルがキレる。
「うるっせー! 誰か知んないけど、チョーシこいてっとブッコロ――」
「とう!」
「ふぎゃ!」
モブが話し終えるよりはやく、ズットモが怒りのバイブスをぶち上げた。
右ハイキックである。
ネイルのせいで拳は握れないのでグーパンは撃てない。
だから蹴るのだが、蹴るとスカートが捲れてパンチの代わりにパンティが炸裂する。
「……あ、やばば! かまちょムーブ草すぎて蹴っちゃったじゃん!」
「こ、こいつ! よくもやりやがったな!」
残りのモブギャル徴税官が一斉に掛かってきた。
ズットモが迎え撃つ。
「ほわちゃ! あちゃ! あちょおお!」
瞬く間に全部倒した。
死屍累々である。
ズットモはうつ伏せに倒れたモブギャルを踏みつけながら歩き、三つ編み眼鏡娘に歩み寄る。
そして言い放つ。
「ぶはっ、何そのメガネ、受けるー! 委員長じゃん、委員長!」
「い、委員長じゃありません! 私にはちゃんと名前が――」
「あー、そんなんどうだっていいじゃん。とにかくほら、涙拭いた方がいいし?」
ズットモは指で委員長の涙を拭ってやった。
「私はズットモ。ね、アンタ名前は?」
「は? いま名前なんかどうでも良いって……」
「そだっけ? じゃあまぁいっか! きゃははははは!」
委員長はムスッとした。
対してズットモは何がツボに入ったのか、腹を抱えて笑っている。
これが後に、ともに手を取り合ってギャル乱世を駆け抜けることになる二人の、最初の出会いであった。