俺はなんのために
この国は束縛されている
どんなに抗おうともあの方には
逆らえない
あの方は人ではない
また動物でもない
私達はあの方に支配されている。
「今戦の戦況を報告します。只今の戦局は優勢であります。死者23名、戦勝予想日時ドグダリア歴3087年(今年)7/5であります。戦紙が届いた方は至急、皇事院にお集まりください。それでは7/5、お昼の放送を終わります。今から12:00の時報を個々の中枢神経制御装置に送信します。
3,2,1」
このときドグダリア共和国民すべての中枢神経制御装置に電波が送られすべてのそれが12:00に設定された。
これがドグダリア共和国のお昼の放送である。
そしてこの放送を聞いていて戦紙が届いた人々は皇事院に集まった。不気味なほどきれいに整列していた。そして「あの方」の演説が始まった。
「アイワンから戦士各位
私は動ける人間と違って歩けない。
しかし私は馬鹿な人間どもと違って数千倍、数万倍も知識力、思考能力が高い。
よって私達は互いに助け合っていると言える。私は作戦を考え人間どもはそれ通りに動くだけだ。そんなこともできない人間は人間ではなくイモムシ以下だと言える。だからそのような者は即 「殺す」! 死にたくなければ私に従え!
作戦内容は個々の「それ」に送信しておくじっくり見ておくように。そして最後にもう一度私の作戦通りに動け!さすれば命は守られよう」
そして戦士各位は一斉に
「ハッ、アイワン様。あなたに従え戦士にさせていただき有り難く存じます。私達をどうぞお使い下さい。」
その時「ドンッ」という鈍い音がした。爆発音だ。ある戦士の首が吹っ飛び体がドサッと不気味な音を立てながら倒れた。そして「あの方」は言った。
「この者は作戦に従う意志がなかった。逆らおうとした。だからバラバラになった。戦士各位もこうなりたくなければ従え!」
周りの戦士達は恐怖で動けなくなった。しかしその恐怖心さえも一瞬で消し去った。この中枢神経制御装置はアイワンの支配下にありこれをつけているドグダリア共和国民全員がアイワンの指示通りに体、心を動かす事しか出なかった。
「大丈夫ですか、ラクメイ様?」
俺は朝起きたら知らない部屋で寝ていた。正直戸惑った。がしかし窓を開けた瞬間に気づいた。異世界に転生していると。きれいな街並み、異様なほど高くそびえ立ち街を囲む塀、たまに鳴り響く砲声や銃声。普通の世界では考えられなかったからだ。
俺の名前がこの世界に来てラクメイになっているようだ。だから俺はこの世界でラクメイとして生きることにした。不吉な名前だがそのときは気にしなかった。絶対に元の名前になんか戻したくない。考えたくもなかったからだ。
そしてこの宿の亭主が私に言った
「これついてませんね。」
亭主は箱の中から小指の第一関節ほどの大きさの機械を取り出した。
「それなんですか?」と恐る恐る俺は訊いた。
「中枢神経制御装置ですよ。」と亭主は言った。」
「中枢神経制御装置とはなんですか?」
「そんなことも知らないのですか?ドグダリア共和国民として恥を知りなさい。一応説明するとこの中枢神経制御装置はドグダリア共和国最高機密機関通称DLLが開発した装置で中枢神経(脳)の情報をある一つのコンピューターに収集することが出来る。ある一つのコンピューターというのが「あの方」なのです。」
「あの方とは誰ですか?」
「そんなことも知らないのですか?本当にあなたには呆れました。「あの方」というのはドグダリア共和国の首都ドクタリアに置かれている、皇事院にいらっしゃるとされているコンピューター(AI)です。このこと学校で学びませんでしたか?」
「いえ、すみません。」
「でもあなたにこの装置がついてなくて安心しました。」
「はいっ?」
「どうかお願いします。我々を自由にしてください。あの方から解放してください。どうか、お願いします。」
その時だったどこからともなくこの声が聞こえてきた。とても太く不快に感じるような声が。
「プロテクトを検知
プロテクト名 反逆
処罰 話したもの、聴いたもの 殺す。」
その時大きな爆発音とともに亭主の首が吹っ飛んだ。
俺は血しぶきを受けた。恐怖で動けなかった。
そしてまだ声が続く
「話したもの 殺害 成功
聞いたもの 殺害 失敗
聞いたもの中枢神経制御装置を
付けていないもよう。我々では殺
せない
ボイスからアイワンへ
聞いたもの の殺害は国民に任せ
るべき」
「アイワン 了解
今すぐ共和国国民の人間どもに殺
害を命ずる。」
「ボイス 了解」
殺す?殺される?殺せない?どういうことだ?俺のせいでこの亭主が死んだのか?俺のせいなのか?
「あー!俺のせいなんだよな!なぁー兄貴、こいつが死んだのも俺のせい何だよな。そうなんだよな。アッハッハそうだ今は俺はラクメイなんだ。昔の俺と違うんだ!」
俺は俺の心に言い聞かせた。
俺は兄貴を殺した。この世界に来る3ヶ月前兄貴は俺に優しかった。兄貴の彼女がうちに来た。俺はお茶を入れ持っていった。その時だった俺は敷居のところで躓いてしまった。そして俺が持っていたポットがまっすぐ兄貴の彼女の方へ向かって飛んでいったポットに入っていたたくさんのお湯が彼女にかかった。そして彼女は顔や肩に火傷を追ってしまった。彼女は兄貴に火傷だらけの顔を見られるのが恥ずかしくて、兄貴と別れることにしたそうだ。そのことに絶望した兄貴は「全てお前のせいだ」とメモを残してマンションから飛び降り自殺をした。
そのことが今でも忘れることが出来ず全て自分のせいだと思うようになってしまった。
でも今は前とは違う。ここは異世界だ。これは俺のせいではない。
「ごめん。亭主さん。あなたが命をかけて俺に行ったこと命に変えてでも必ずやり遂げて見せる。」
そうして亭主と約束をしてその宿を立ち去った。
異世界に来て初めて外に出た。宿は首都から近いが外は森のようだ。とてもきれいで落ち着いた。歩いていると後ろから何かがついてきているようだった。
「誰だっ!」
振り向くと隠れようと努力している8歳位の少女がと子馬が立っていた。しばらく少女と子馬を交互に見やった。少女が恥ずかしくなったのか顔を抑えて逃げていった。俺はそれを追った。
少女の足より10代後半の俺の足の方が当然速かった。50m位行ったところで追いつき捕まえることができた。
「どうしたの?」
俺は少女に訊いた。少女が泣き出した。泣きながら話し始めた。
「お父さんが死んだのー」
と少女は言った。
「お父さんが死んだ?」
このとき俺は最悪の事態が頭に浮かんだ。お父さんってまさか亭主さん?それを少女に訊こうと思ったが真実を知るのが、自分のせいになるのが怖くて訊くことが出来なかった。
「俺の名前はラクメイ。君の名前は?」
少女はまだ泣いている。
「お父さん、お母さん、どこにいるの?」
俺は少女の頭を撫でてあげようとした。しかし俺はあることに気づいた。俺の体はいま血で染まっていたのだ。亭主さんの帰り血を浴びたのだ。
「ちょっと待っててね」
と俺は少女に言った。そして宿に戻ってシャワーを浴びた。服は宿の物を拝借した。そして少女のもとに戻った。
「ごめんね。大丈夫?落ち着いた?」
「うん」
「俺の名前はラクメイ。君の名前は?」
「私はカシャっていうの。8歳」
「そうか。カシャ。よろしくな。」
そう言って俺はカシャに手を差し出した。それにカシャは戸惑いながらも握手をしてくれた。
それと同時に俺は誓った。カシャが大人になるまでは俺が守り抜くと。
「よし、街に行こう。それで家を買って一緒に過ごそう。」
「うん!」
カシャはとても可愛かった。妹みたいだった。俺は首都ドクタリアに向けて足を動かし始めた。
「ラク、足疲れたよー」
カシャは俺のことをラクと呼び始めた。
「あとちょっとだから頑張れ!」
「疲れたよー」
「しょうがないなー。」
俺はそう言いながらおんぶする態勢に入った。カシャをおんぶしてあげた。そして首都まで走った。
「ラク、楽しいー!」
「ハァハァ、それは…よかった…」
そして首都についた。意外と早くついた。
「アイワン 了解
今すぐ共和国国民の人間どもに殺
害を命ずる。」
この言葉を思い出した。このまま街を歩き回っていたら捕まってしまうのではない?俺は疑問に思った。森の中に一軒の小屋があることに気づいた。
「カシャ、この小屋で少し待っていてくれ。すぐ帰ってくる。」
「うん!」
俺は街を歩き始めた。そして俺は気づいた。街の人から凄い殺気を感じる。そして一人の男が俺の方に飛びかかってきた。
「ヤー」
俺はとっさに避けた。相手は包丁を持っていた。俺は全速力で逃げた。そしてその男をまいた。カシャのいる小屋に戻った。
「ラク、おかえり。」
「ただいま」
あの言葉は本当だった。
俺の命が狙われている。
どうにか街に出る方法はないかと考えた。
女装したらどうだろうか?
俺は早速実験してみた。近くの家の洗濯竿から拝借した。
そして街を歩いてみた。それがどうだろう。全く襲われないのだ。これはしめた、と思い。町でカシャにあげるおやつと今日の夜ご飯を買った。俺は家に帰った。
「ラク、その恰好キモイ。」
「げっ!」
俺は女装したまま帰ってしまったのだ。
「ごめんごめん。悪かった。」
俺はすぐに着替えた。そして俺はカシャに店で買ったおやつを渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。」
カシャはむしゃむしゃとお菓子を食べ始めた。そしてカシャは俺のほうを向いて言った。
「カシャ、ラク大好き。」
カシャはそう言いながら俺のおなかに飛び込んできた。
「そうかそうか。じゃあ今日の夜ご飯手伝ってくれる?」
「え~。ラクにこんなこと言わなきゃよかった。さっきの言ったこと忘れて」
「忘れられないな。俺、こう見えて意外と記憶力がいいほうで。」
「ヤダ~。」
「じゃあ、お菓子は没収だな。」
「わかったから。お菓子の没収だけはやめて。お願いします。このとおり」
そういいながらカシャはお菓子を守りながら土下座をした。
「土下座はそう簡単にやるもんじゃないぞ。わかったか、カシャ。」
「うん分かった。」
「じゃ、手伝ってくれ。」
「早くやって早くお菓子食べよ。」
カシャはにこにこしながら外の水道のほうへ向かった。この小屋にはキッチンなんてものはない。しいてあるものとすれば火をつけて使う暖炉とソファーぐらいだ。ここで何を作るって?決まっている。焼きマシュマロと焼き野菜、焼き肉だ。その暖炉の火を使ってくしに刺した具材を焼くだけだ。カシャには具材を刺すのを手伝ってもらうことにした。当の俺は火をおこすのに必死だ。市場で薪と着火剤買ってきたのにライターなどを買ってくるのを忘れてしまったから、俺は今近くに落ちていた棒で薪をこすっているところだ。
「全っ全火がつかない」
「ラク、これいる?」
カシャは俺にマッチを渡してくれた。
「これどこで見つけたの?」
カシャは後ろの棚を指さした。
「あそこの
かごに入ってた」
「本当かカシャお前さすがだな。ほめちゃうぞ。明日もお菓子を買ってきてあげるぞ」
「ヤッター!やっぱりラク、大好き!」
「次は絶対に忘れないからな!」
「ヒ~」
その後俺たちは笑いながら一緒に食事をした。
「フ〜フ〜フ〜」
「大丈夫か?カシャ」
「ラク、寒い」
「うわっ、熱い。熱だな。すぐに病院に連れて行くからな。」
俺はカシャを病院へ連れて行った。
「これは風邪ですね。一応胃腸炎の可能性もあるので、二日ぐらい入院しましょう。入院するためには首元の中枢神経制御装置を外すための手術をしなければいけないのですが、よろしいですか?」
「カシャはまだそれをつけていないんです。」
「そうですか。それはよかった。体を傷つけなくて済みますね。」
「ではお願いします。」
そしてカシャは一つの病室に移された。俺は小屋から毛布や洋服を持ってくるように言われたので一回カシャのもとを離れた。
「だいじょうぶ?」
「うん。今はなんだか調子がいいの。」
「よかったね!君の名前は…カシャっていうんだ。いい名前だね!」
「うん!カシャのねお兄ちゃんはねラクっていうの。お姉さんの名前は?」
「うん?私!私はサラっていうの。よろしくね、カシャちゃん!」
カシャは隣のベットにいたサラとよく話すようになった。退院の日も同じでカシャにとってはお兄ちゃんがいないときのお姉さんのような存在になった。
「お兄ちゃんってどんな人なの?」
「すっごく優しくて、かっこいい。カシャね、お兄ちゃんのことすっっっっっっごく好きなの。サラお姉さんはお兄ちゃんのことどう思う?」
「かっこよくて、すごい妹思いのいいお兄ちゃんだと思うよ。」
「じゃ、結婚すれば?」
「へっ!」
サラは顔を赤くしながら驚いた。
「カシャちゃんとお兄ちゃんがいいっていうならいいけど。」
「じゃー、お兄ちゃんに行ってみるよ。」
「へー-----!」
「カシャ!今帰ったぞー」
「キャッ!」
「すいません。うるさかったですか?」
「いや、そんなことありません!」
「あのね、お兄ちゃん。このサラお姉ちゃんがね、おにいちゃんのことがね…」
「あーあーあー何も聞こえません。カシャちゃんあとでお菓子買ってあげるね!ニコ」
カシャはこの時サラからの強烈な殺気に気づくこともなかった。
「じゃあ、またね。俺今日面接なんだ。病院では静かにするんだよ。」
「はー-い」
「よし、いい子だ」
この後サラとカシャは二晩を共に過ごしコイバナで盛り上がっていた。
「あのお医者さんかっこいいよね。」
「あそこにいるあばら骨折った人、顔はいいよね!」
なんていうつまらない話で盛り上がった。
ー--二日後ー----
「カシャさんはただの風邪ですね。」
そうお医者さんから告げられた時とてもほっとした。
「風邪用のお薬を出しておきますね」
「帰るぞカシャ」
「ちょっと待って」
「うん?」
「サラお姉ちゃんと帰りたい。」
サラと俺は同時に会釈をした。
「サラさんは大丈夫ですか?」
「今日で退院しますので。」
「では一緒に帰りましょうか。」
俺とサラはカシャに連れられ一緒に帰り晩御飯を共にすることにした。
「いい家ですね。」
「それ絶対お世辞ですよね?」
「そんなわけないですよ。」
「ラクとサラなんかお父さんとお母さんみたい。」
このときサラはドキリとした。それに対してラクは何がなんだかわからないような顔をした。一瞬沈黙したがサラが口を開いた。
「あのー、よければですけど。一緒にこの家で過ごさせてもらえませんか?あの私も働いてお金稼ぐんで。」
「別にいいですけど。」
俺は少しの間考え込んで質問した。
「サラさんの家族とか家は大丈夫ですか?」
「大丈夫です!家も家族もいないので。それに私カシャちゃんが好きになったの。」
カシャはニコニコしながら焼肉を食べていた。
「やっぱカシャちゃんって可愛いよね」
俺は疑問に思った。サラさんは中枢神経制御装置をつけているのか?つけているなら俺を襲ってくるはず。病院内では外すのはわかったが退院した今はどうだろう?サラさんに訊いてみた。
「あのー。中枢神経制御装置って今つけていますか?」
「つけていますよ。でも首の周りにこのネックレスをつけているから大丈夫ですよ。」
「どういうことですか?」
その問いに対してサラは簡単に答えた。
「ネックレスから妨害電波を出しているの。だからどんなに反逆罪を犯そうと殺せれることはない。そういうあなたはつけてるの?」
「いや、つけてない。」
「じゃー、国民に狙われているでしょう。」
「あー。」
俺は今までのことを全てサラに話した。俺は俺の苦しみを他の人に話すことで少し落ち着くことごできた。相談できて信頼できる人ができた。もっとずっと一緒にいたいと思った。涙が出そうになった。
「こちらからもお願いします。」
サラは戸惑った。
「なんのことですか?」
「一緒に過ごすっていう件について」
サラの顔は真っ赤にになった。今にも体中の水分が蒸発しそうなほど、熱く心臓の鼓動がどんどん大きくなっていく。飛び出しそうだ。
「アイワンから国民へ
国内指名手配中の男だが殺さず捕
らえよ。また1日捕まえられない
ごとにランダムで国民を一人ずつ
殺す。以上。」
俺はこれからどんな無惨なことになるか知ることは出来なかった。