表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の蔦と棘のワルツ  作者: 天崎 栞 (ID:781575と同一人物)
第2部 第3章 途切れた螺旋階段の先で
51/51

48ダース・絶望と生きて

最終回です。

最後の最後に、全てが明らかになります。


【警告】

刃物、殺人描写有。

苦手な方はブラウザバック推奨、お願い申し上げます。




 グサリ、と鋭い音がした。





「岳………?」



 呆然とした、声音。




 悲鳴は閉ざされて、

麻緒は自身の背中に痛みを感じで、倒れ伏せる。

深紅に染まった切り札を持っていたのは、岳だった。



 綾は思考が追い付かず、

麻緒は弱った()で、視線を動かす。

脇腹辺りがナイフと同じ色に染まっていて、ぞっとする。



 其処には沈痛の眼差しで倒れ伏せたが、

麻緒は“ある事に気付いた”。




(今更……)



 自身は、守山綾、緒方准の生きるパーツだった。

だからこの器が呼吸さえしていれば、2人共にどうでも良かったのだ。




岳は狂喜の微笑を浮かべている。




「単純細胞だよな」







 怜悧な声音と、ピエロの様な嘲笑。



「岳、なんで………」



 綾は顔面蒼白で、弟に視線を向けた。

微笑みは崩れず寧ろ、みるみる深くなっている。

そんな中


「貴方……(にいさん)でしょう…………?」




 大理石の床に流れて広がる深紅。

麻緒は、か細い声でそう告げ、視線を遣る。



「___そうだよ」



 綾は目を見開く。


 どういう事だろう、

此処に現れたのは、涼宮響介の仮面を被った岳の筈だ。

なのに、麻緒は何故、准と呼んだ? そして目の前の人間は。




「どうだ? 勝手に信じて裏切られた気分は?」



 利害関係を結んだ者に、必要なパーツ以外は要らない。

その秘密を知っている人間は闇に葬る冷酷さを、

准は備えていた。



 綾は震え出した。


「……――貴女が、首謀者だったの?」

「………そうだ。

だから全てを悟られたのなら、葬らなくちゃ。

それに対して母親としての感情もないだろ」



 断罪する声。

そうだ。憎しみ合ってきた彼女に、娘を想う気持ちはない。

ただ綾は危惧している、麻緒が消えてしまったら、

傑に追い出されてしまう事を。


 綾は、准に縋り付いた。



「………麻緒を生かして、じゃないと、

あたし、守山家から追い出されてしまう!!





 やっと気付いた。



 



 あの日、あの時。

自身が見たのは、准ではなく岳だったのだと。

准の欲望の為に、利害が、秘密が、明らかに成らぬように。

 秘密を知る岳は、もう双子の弟によって葬られていた。



(そうだ、私は単純細胞だ)



 直前で“ある癖と特徴”に気付いた。

それは、響介は絶対にないもの。




 響介の口調は、いつも淡々とした優美なもの。

けれども准はそう偽れどもやや早口で、せっかちだ。

そして。薄れていく意識の中で


 あれは、引き取られて間もない頃。


 麻緒は誘拐されかけた事があったのだ。

あの頃は人間不信故に全てが怖く、学校に行くさえままならず

香菜は途中で引き返してしまう癖があった。


小さい町だから人目につく、それに遭遇したのが、准だった。



 誘拐グループと死闘を繰り広げた末に、

准は手首に一生、消える事はない痣が残ってしまった。

それを緒方香菜として生きていればいた頃は、

申し訳なく思い込んでいた、だが………。




「……………どうだったか。

養父母を失って、その濡れ衣を着せられた娘の気分は」

「…………」




「…………“微笑ましいわ”」



 准と、綾は目が点になる。

微笑ましい? どこからそんな感情が浮かび上がるのだ?


 脇腹を押さえながら、

薄れ行く意識の中で麻緒はゆっくりと口角が上がる。

自身でさえもどうしてこうも感情が芽生えるのか、分からない。


「……――狂ってる」

「……独りよがりね。でもそれが狂う程に私には微笑ましい。

欲がある、感情がある、私が欠落して奪われていたものばかり……―それらをあなた達は持ってる。


良い父親を装い、恩を着せる為に………感情で支配して、

私から秘密をから遠ざけようとした。

所詮、私は___あなた達の都合上のパーツで、お飾りの人形だった』


(だからこそ、陰謀的に

私の世界には、貴方と貴女しかいない様に作られていた)




 守山綾___母親と巡り合わせる様に、憎しみ合う様に作られていた。

そして守山准は岳のふりをしながら、高みの見物をしていた鬼畜がいる。


 蔦という鎖が、両親しか思わない様に作られていた。

傑という王様に赦して貰う為のパーツ、偽善者のふりをする為に必要なピース。

自分自身の存在意義は、それだけではないか。


 けれども。



「………ただ、なんの、罪もない、ふたりがいなくなって欲しくなかっ………た」



 心からの本心が溢れた。


 痛覚が、言葉を途切れ途切れにさせる。

目の前が虚ろに霞んでいく。だが、目の前の悪魔は

椅子に腰掛け、足を組んで高笑いしながら首を傾げた。


「…………そうなって当然だろ」

「…………?」




「あいつらは、俺を侮辱させたんだから」

 



 偽善者を装う仮面。

けれどもそれが、効かなくなってきたのはいつだろう。


 美琴は香菜を溺愛していたのは理解していたし、

香菜も美琴の事で、岳が教え込んだ美琴と香菜の繋がり。



 蚊帳の外に追い込まれた、と思っていた。

父親譲りなのだろか。どんな状況下でも、場の中心に居たいという願望は。


 美琴と結婚したのも、善人として思われたい思惑。

姉の娘を引き取ったのは、『姉の娘を育てている』慈悲的な青年であるという印象操作。


 玉座に座るのは自身だ。常に主人公でいたい。

美琴や娘は、単なる人生のパーツでしかなかったのに___。



 いつの間にか心は焦燥感と、嫉妬に包まれていた。




 そして、美容師のボランティアでも





『ごめんなさい、集中したいんです』




 些細な温暖差。

その日積は砂時計の様に塵となって積もる。

美容師として現れるだけの准、その前後のケアをする岳では機微な違和感を違和感を受け取られる。



 

『散髪中では人が変わるのですね』



 ボランティアで顔見知りのシスターがそう告げた。

実技では自身が施したのに、後々慕われているのは岳。

岳は付かず離れず、そして不思議な事に誰の心にも残らない様に振る舞う。




 最初に願い出た事が仇になった。

人生のレールから降ろされたという被害妄想。




____だからあの日。




 あの日はボランティアの日だった。

美琴は香菜が新聞配達員になってから、何かがあっては

心配だからとずっと起きて待っていた。


 そのハーブティーに睡眠薬を混ぜて、目覚めぬ様にした。

そして襲った。


 美琴は、自らを蚊帳の外に追い込んだ人間として

憎かったのだ。美琴さえ居なくなり、香菜を自由に操ってしまいたい___。

 

 そして、時間差で訪れた岳は、その地獄絵図に愕然とした。


 真夜中の(とばり)

座り込む様に其処に倒れ伏せた女性と、返り血を浴びて微笑む弟の姿。

この世のものだろうか、と目眩がした。




『__どうして』

『どうしてって、俺を侮辱させるから』

『だからって__』

『俺、気付いたんだよね。美琴と居ると香菜を取られて

そして岳が居ると、どうしても歪((ひず)みが出てきちゃう。


善良な人でいる為に、

美琴と香菜を手元に置いてやっているのに、邪魔された気分。

そして岳。岳が俺の身代わりになる度に俺が置き去りにされててしまうんだって』


 狂気を孕んだ眸に、言葉。

飲みかけの倒れたハーブティーが、床にポタポタと血に交ざり(したた)る。

目の前のサイコパスという怪物を見詰めながら、岳は香菜が見てしまったら、

絶望に瀕する事を悟る。


 また傷付いた少女に、傷心を増やす事は大罪だ。


『だから、いい事思い付いたんだ。

____美琴と岳を消せばいいんだって。だから』




ゆらりと夜闇に揺らんだ影。

その刹那、鳩尾(みぞおち)に衝撃が走る。

襲われたのだと思った頃には遅く、弟の歪んだ思惑に反吐が出そうだ。


『____香菜をどうする、つもり?』


 息を絶え絶えに、そう告げる岳。


『そうだな………あ、そう言えば、

これで、香菜の出生を知っている人は居なくなるよね。

この際、高みの見物でもしようかな。


特等席で、素晴らしいものを見せて貰うよ』




 准はそう微笑んでいる。

楽しそうに嬉しそうに。悪魔だと思ってしまう。

けれど、悪魔の微笑が視野に見えたその瞬間、意識は闇に放り出された。





 いつの間にか、此方にきていた准は、麻緒の顔を覗き込んだ。


 秘密を知られたら、生きてもらわれたら困る。




「事の顛末を聞いてどうだ?」

「___鬼畜」




 パシン、と乾いた音が響く。

その刹那、体が投げ出された。准が香菜を頬を叩いたのだ。


 大理石の床に広がる血溜まり。

苦悩の顔をする香菜に、動けぬままの綾。

すると白けた表情へと変貌した准は、あはは、と笑いながら



「なんで高尚なのかな?

息絶える前に聞けて良かったでしょ、事の顛末。

ロボットみたいな奴がずっと執着してた事だもんね?」



 嘲笑われていた。

懺悔なんて抱きながら生きる必要なんてなかった。

自身も綾も、この男の手のひらで、踊らされているだけだった。



「もう満足したでしょ、教えてやったんだから。

感謝しろよ____」




「_____やめて___!!」



 准に(すが)っていた綾の絶叫が、木霊した時。

鳩尾にグサリ、と糸を途切れられた。

刹那に、仰向けに倒れ込む生気を亡くした娘。



 きっと綾が絶叫したのは、

自身の保身であって、娘を想う母親の叫びじゃなかった。





(出来る事なら、

また、あなたに会えますか)

【最後に】


 約1年9ヶ月のお付き合い、有難う御座いました。

読み手の皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。

重ねてお礼を申し上げます。


そして重ね重ねとなりますが

このお話を読み、ご不快な気持ちや

ご気分を害してしまった読み手様、誠に申し訳御座いません。



人生を奪われ

その真相を求め、最期は真相と共に倒れた香菜。

後の物語の解釈は読み手様に、託します。


(物語を固定するのは、あまり好きではないので……)



また落ち着いてから

活動報告にて様々な事を綴りたいと思っております。

それでは。



有難う御座いました。



天崎栞


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ