47ダース・パズルのピース
【警告】
過激描写有
(言葉及び終盤、ご注意下さい)
「どちらだろうと、後の祭りでしょう?
自分自身で火に油を注いだ癖に、被害者面しないで」
その霜月の様に、怜悧で凍り切った声。
綾が顔を上げると、正気を失った人形が、其処にいる。
それは、どことなく人生を達観し、諦観を抱いた弟の面影が酷く似ている気がした。
気付くと麻緒の眸は潤み、端には透明な光りが浮かべている。
「どうせ調べられないのだから、知る事も出来ないのだから。
今更………妄言なんて悪足掻き(わるあがき)しても無駄でしょう。
それに____」
「“緒方香菜なんて(わたし)なんて、あなた達の造り物だった”」
狂っている。
兄のふりをした父親。計算尽くで近付いた母親。
そしてこの両親を想い、時に憔悴し偲んだ事も、
憎しみを抱いた事、そんな自分自身も気持ち悪い。
綾は呆然としている。まだ何を言っているのか分からないのか。
そのまま髪をはらうと、口角を上げた。
「貴女が“私を捨てた理由”が無ければ、どうなっていたのかしら」
“転げた砂時計が、止まったままのメトロノームを動かした”。
あれは、家に連れ戻されたばかりで
全てを自白した時だった。
「その子を今、此処に連れ戻してきなさい。
代わりに____息子を誑かしたも同然の、罪人は入らない」
軽蔑する様な、鋭い眼光。
「______どうして、その台詞を………」
綾は震えた。
これは養父母と、弟達しか知らない。
綾が保護され守山家に帰宅し、全ての全貌を告げた時、
宣告した傑の断罪の言葉を………。
『_____出ていけ!!』
脳裏に響く、
あの元凶が蔦となり、脳幹事、破壊されそうだ。
25年前、傑が告げたのは、生まれた子を守山家に連れ戻す、
そして綾は__追い出される。
だから、分からない、と泣き叫んだ。
そして「後悔して戻った時にはもういなかった」小さな虚言を吐いた。
泣き叫び狂う、准は素知らぬふりを、岳はどう思っていたのかは知らない。
「___この家も、知らない間に老朽化しましたね」
淡々としたトーンの声音が、不意に空間に紛れ込んだ。
虚空の眸で視線を遣ると見間違いそうな程に
そっくりな青年が其処にいる。
唯一違うのは涼しい顔を装っている事だけ。
「…………どうして、此処が?」
すると、響介は首から代物を取り出す。
チェーン型のペンダントケースを取り出した。
麻緒は首を傾げたが、その代物を見た時に、綾は目を見開いた。
「………………相変わらず、陰湿で悪趣味ね」
「貴女と同類にしないで下さい。___“お姉様”」
はっとした。
涼宮響介が、守山岳だと認めて降参したのだ。
「まさか、これは遠隔操作です。本体はこちら」
響介がポケットから取り出したのは、色褪せたICUレコーダー。
姉や弟が何かしら問題を起こすだろうと、
高校の頃にマイクロチップを部屋の重心に星屑の様に散りばめた。
卑怯だと謳われてもいい。
先回りする為に、そして誰よりも正確に事を理解する様に。
迂闊にも守山家から後にした後に、置き忘れたと後悔したが、
現在になって、活躍するとは思わなかった。
年季が入った代物は、ノイズがかかるが、音は聞き取れる。
麻緒は自責の念から、いつ壊れるか分からない。
(事は先回りする事が最善だと、癖になってのは、気付かなかった)
「………まさか、岳なの?」
「………そうです」
切なげに、響介__岳は告げた。
あの時は、言葉を濁したけれども。
彼女は弟の娘。岳にとっては姪だけれども。
一卵性双生児であるが故に、遺伝子は同じという仕組みが
邪魔をして、何故か放っておけないからだ。
「なんかややこしくなってますね。
でも。
____縋っても、無駄ですよ」
「縋っても………ってなによ」
「貴女の知りたい事はふたつ。
ひとつは緒方香菜の行方、そして、25年前に置き去りにした娘の父親が、どちらなのか」
微笑みながら
優雅に、そして何処か徴発する様に、岳は告げる。
けれどもどちらも綾の欲しいものを青年は備えていて、図星だ。
「私の娘はもういない。緒方香菜は、貴方の娘でしょう?
残酷だわ。私の視線を引く為にわざと、緒方と名乗らせるなんて。
貴方も巧妙よね、名字を偽って双子まで設けていたなんて………」
「…………? 僕は独身のままですよ。
誰にも興味はない、こんな腹黒い家の内情を見ていたら
疲れます。なら、お一人様の方がいい。
調べて貰って、構わないけれど
子供もいませんから」
「え?」
緒方理玖が現れた時、緒方香菜は、双子の姉だと言った。
綾は単純に陶酔してしまい、准の許に居る娘は別人で
間違えて岳の娘を巻き添えにしたと冷や汗をかいていた事を。
なのに。
その刹那、麻緒は鼻で嘲笑い、
「____何処までも、単純な浅はかな人」
怜悧にそう告げた。
覇気を失った虚空の眸は、誰も見ていない。
「緒方理玖なんてはいないわ。それは私の武装。
それなのに、姿を変えるだけで単純に信じてしまうんだもの、呆れてしまう」
「………え?」
綾の瞳が揺らぐ。
緒方理玖は残像だとしたら、後の___関係者は。
「____どうだった? 心の片隅で怯えるのは。
理玖のふりをして、葵も楓が守山家が去る様に操作し、貴女の友人の娘に近付いた。
貴女の周りの人々をも、信頼を奪った。
___貴女の愛しい養父の関心ですら」
刹那に、綾は震えている。
止めようしても震えが止まらない。いつしか、
覗き込む様に麻緒は綾の前に狂気の表情を浮かべながら、
踊る様に、謳う様に、言葉を連ねている。
「まだ貴女は序の口でしょう? 私は突然、何かも奪われた。
10年も。
声も喪って、薬と自傷行為に依存しないと生きられなくなったの。
それは、誰もせいでなく、貴女のせい。
でも…………」
冷静さも、理性さも捨てて狂気に浸る彼女。
「…………今は、元凶を作った貴女も、
偽善者を装う為に私を拾ったあの人間が、憎いの」
(_____緒方香菜は、あの時の、娘は、そこにいた)
響介は、呆然としながらも、理だと思った。
綾の憎悪なんてちっぽけで、子供っぽくて、
赤子の手をひねる程の、易々としたものだった。
そして今更、麻緒___香菜の生きる糧は、憎悪だったのだと悟る。
綾を憎む事で生きていた。
生きる事が出来ていた。
(この事は、葬り去る方がいい。
人間、知らない事がいい事もあるのだ)
今更、秘密を伝えた所で、綾が安堵に浸るだけ、
そして彼女は傷付いたまま生きて行かねばならない。
(傷痕に塩を塗る真似はしない)
唯一無二の証人である自身が、事を有耶無耶にする事が
身勝手な保身に先走った、綾と准への呪縛だろう。
姪も、きっとあの言葉からして、望んでいない。
けれどもそれでいいのか、と良心の呵責が、煩い。
その時だった。
グサリ、と生々しい音がしたのは。
突然のご報告で
申し訳御座いません。
次回、最終回です。
(ご不快な気分になられた読み手様
大変申し訳御座いません。この場をお借りして
お詫び申し上げます)




