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永遠の蔦と棘のワルツ  作者: 天崎 栞 (ID:781575と同一人物)
第2部 第3章 途切れた螺旋階段の先で
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47ダース・パズルのピース

【警告】

過激描写有

(言葉及び終盤、ご注意下さい)








「どちらだろうと、後の祭りでしょう?

自分自身で火に油を注いだ癖に、被害者面しないで」



 その霜月の様に、怜悧で凍り切った声。

綾が顔を上げると、正気を失った人形が、其処にいる。

それは、どことなく人生を達観し、諦観を抱いた弟の面影が酷く似ている気がした。



 気付くと麻緒の眸は潤み、端には透明な光りが浮かべている。




「どうせ調べられないのだから、知る事も出来ないのだから。

今更………妄言なんて悪足掻き(わるあがき)しても無駄でしょう。

それに____」



「“緒方香菜なんて(わたし)なんて、あなた達の造り物だった”」




 

 狂っている。

兄のふりをした父親。計算尽くで近付いた母親。

そしてこの両親を想い、時に憔悴し偲んだ事も、

憎しみを抱いた事、そんな自分自身も気持ち悪い。





 綾は呆然としている。まだ何を言っているのか分からないのか。

そのまま髪をはらうと、口角を上げた。




「貴女が“私を捨てた理由”が無ければ、どうなっていたのかしら」




 “転げた砂時計が、止まったままのメトロノームを動かした”。






 あれは、家に連れ戻されたばかりで

全てを自白した時だった。



「その子を今、此処に連れ戻してきなさい。

代わりに____息子を(たぶら)かしたも同然の、罪人は入らない」



 軽蔑する様な、鋭い眼光。





「______どうして、その台詞を………」




 綾は震えた。

これは養父母と、弟達しか知らない。

綾が保護され守山家に帰宅し、全ての全貌を告げた時、

宣告した傑の断罪の言葉を………。



『_____出ていけ!!』




 脳裏に響く、

あの元凶が(つた)となり、脳幹事、破壊されそうだ。

25年前、傑が告げたのは、生まれた子を守山家に連れ戻す、

そして綾は__追い出される。


 だから、分からない、と泣き叫んだ。

そして「後悔して戻った時にはもういなかった」小さな虚言を吐いた。

泣き叫び狂う、准は素知らぬふりを、岳はどう思っていたのかは知らない。










「___この家も、知らない間に老朽化しましたね」




 淡々としたトーンの声音が、不意に空間に紛れ込んだ。

虚空の()で視線を遣ると見間違いそうな程に

そっくりな青年が其処にいる。

唯一違うのは涼しい顔を装っている事だけ。



「…………どうして、此処が?」


 すると、響介は首から代物を取り出す。

チェーン型のペンダントケースを取り出した。

麻緒は首を傾げたが、その代物を見た時に、綾は目を見開いた。




「………………相変わらず、陰湿で悪趣味ね」


「貴女と同類にしないで下さい。___“お姉様”」




 はっとした。

涼宮響介が、守山岳だと認めて降参したのだ。



「まさか、これは遠隔操作です。本体はこちら」



 響介がポケットから取り出したのは、色褪せたICUレコーダー。



 姉や弟が何かしら問題を起こすだろうと、

高校の頃にマイクロチップを部屋の重心に星屑の様に散りばめた。


 卑怯だと謳われてもいい。

先回りする為に、そして誰よりも正確に事を理解する様に。

迂闊にも守山家から後にした後に、置き忘れたと後悔したが、

現在(いま)になって、活躍するとは思わなかった。


 年季が入った代物は、ノイズがかかるが、音は聞き取れる。

麻緒は自責の念から、いつ壊れるか分からない。



(事は先回りする事が最善だと、癖になってのは、気付かなかった)


「………まさか、岳なの?」

「………そうです」


 切なげに、響介__岳は告げた。




 あの時は、言葉を濁したけれども。

彼女は弟の娘。岳にとっては姪だけれども。

一卵性双生児であるが故に、遺伝子は同じという仕組みが

邪魔をして、何故か放っておけないからだ。



「なんかややこしくなってますね。



 でも。


____縋(すが)っても、無駄ですよ」



「縋っても………ってなによ」

「貴女の知りたい事はふたつ。

ひとつは緒方香菜の行方、そして、25年前に置き去りにした娘の父親が、どちらなのか」



 微笑みながら

優雅に、そして何処か徴発する様に、岳は告げる。

けれどもどちらも綾の欲しいものを青年は備えていて、図星だ。



「私の娘はもういない。緒方香菜は、貴方の娘でしょう?

残酷だわ。私の視線を引く為にわざと、緒方と名乗らせるなんて。 

貴方も巧妙よね、名字を偽って双子まで設けていたなんて………」


「…………? 僕は独身のままですよ。

誰にも興味はない、こんな腹黒い家の内情を見ていたら

疲れます。なら、お一人様の方がいい。



 調べて貰って、構わないけれど

子供もいませんから」

「え?」



 緒方理玖が現れた時、緒方香菜は、双子の姉だと言った。

綾は単純に陶酔してしまい、准の許に居る娘は別人で

間違えて岳の娘を巻き添えにしたと冷や汗をかいていた事を。


 なのに。

その刹那、麻緒は鼻で嘲笑い、



「____何処までも、単純な浅はかな人」




 怜悧にそう告げた。

覇気を失った虚空の()は、誰も見ていない。




「緒方理玖なんてはいないわ。それは私の武装。

それなのに、姿を変えるだけで単純に信じてしまうんだもの、呆れてしまう」

「………え?」


 綾の瞳が揺らぐ。

緒方理玖は残像だとしたら、後の___関係者は。



「____どうだった? 心の片隅で怯えるのは。

理玖のふりをして、葵も楓が守山家が去る様に操作し、貴女の友人の娘に近付いた。


 貴女の周りの人々をも、信頼を奪った。

___貴女の愛しい養父の関心ですら」



 刹那に、綾は震えている。

止めようしても震えが止まらない。いつしか、

覗き込む様に麻緒は綾の前に狂気の表情を浮かべながら、

踊る様に、謳う様に、言葉を連ねている。


「まだ貴女は序の口でしょう? 私は突然、何かも奪われた。



10年も。

声も喪って、薬と自傷行為に依存しないと生きられなくなったの。


 それは、誰もせいでなく、貴女のせい。

でも…………」



 冷静さも、理性さも捨てて狂気に浸る彼女。




「…………今は、元凶を作った貴女も、

偽善者を装う為に私を拾ったあの人間が、憎いの」





(_____緒方香菜は、あの時の、娘は、そこにいた)









 響介は、呆然としながらも、(ことわり)だと思った。




 綾の憎悪なんてちっぽけで、子供っぽくて、

赤子の手をひねる程の、易々としたものだった。

そして今更、麻緒___香菜の生きる糧は、憎悪だったのだと悟る。



 綾を憎む事で生きていた。

生きる事が出来ていた。



 

(この事は、葬り去る方がいい。

人間、知らない事がいい事もあるのだ)




 

今更、秘密を伝えた所で、綾が安堵に浸るだけ、

そして彼女は傷付いたまま生きて行かねばならない。 


(傷痕に塩を塗る真似はしない)


 唯一無二の証人である自身が、事を有耶無耶にする事が

身勝手な保身に先走った、綾と准への呪縛だろう。




 姪も、きっとあの言葉からして、望んでいない。

けれどもそれでいいのか、と良心の呵責が、煩い。



 その時だった。




 



 グサリ、と生々しい音がしたのは。






 突然のご報告で

申し訳御座いません。 




次回、最終回です。




(ご不快な気分になられた読み手様

大変申し訳御座いません。この場をお借りして

お詫び申し上げます)


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