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28ダース・暴走する私情、終わりなき執着

【警告】

少々ですが、刃物描写(名前のみ)有






「守山綾さんに対して、あなた(涼宮麻緒)へ接近禁止命令をだそうかと」




 思わず、麻緒は、響介の利き手を掴んだ。

普段から表情に乏しい面持ちが、何処となく怪訝だ。




「(それは、止めて下さい)」



そうなれば綾との接点は断ち切られてしまう。




 すかさず告げた

麻緒のその表情には珍しく感情が籠っていた。

何故ですかと自傷的に嗤い、麻緒の元に振り向いた響介は、

麻緒を悲哀を押し殺す様な面持ちに絶句する。




 携帯端末に走り書きしていていた筈の、

いつの間にか作成途中の書類は麻緒が後ろ手に持っている。

響介はテーブルから立ち上がり、麻緒に近付くと




「分かりません。貴女が、守山綾に執着する意味が」

「(他人には執着する意味が無価値見えても、私にはあるのです)」

「それは?」




 麻緒は眸を俯かせ、戸惑う。

けれども誰かにも“本当の事は、言えない”。






「(……………結婚の代わりの条件の筈です。私情の干渉はしないと)」




 守山綾に関わる度に自身が醜く思えて、穢れていく。

それを解っていても穢を呑み込んで、綾に執着せざる負えないのだ。






(私の大切な人を、


 奪った人かも知れない人の尻尾は逃さないわ………)






 10年も、待った。








“______そうだ。憎悪を煮え滾たぎらせろ”






「(せっかくのご厚意ですが、私は受け取れない)」


「………………」






(お願いだから、干渉しないで)






 響介が、弊害に見えた。






「貴女も、学習出来ない人のひとりかも知れない」

「……………………?」




 冷たい怜悧な声音。

一瞬だけ、誰か分からなくなった。

が___気を抜いていた。そのまま壁に追い詰められて押し付けられる。


 謳う様ね、愉しげな微笑みが、嘲笑にも伺えた。






「会えば、痴話喧嘩の繰り返し。

守山綾に接する度に傷を背負って貴女は帰ってくる」


「………………」

「楽しいです? 無意味に無意味を重ねて」




 視線が落ちる。

麻緒の双眸はどんどん曇りの色合いが広がっていく。




 奪われた代わりに、10年待った。

そして何処かで疑い続けてきた。


守山綾が現れてから計算された様に

准と美琴は無慈悲にも、殺害されたのだから。


 疑わしい者は限られている。



「(貴方には分からない。


私は不器用ですから、

負った傷を傷で重ねるしか、出来ない)」




 守山綾を追い詰めて、彼女が奈落に落ちていくまで。

彼女が傑に赦しを乞う事を止め、絶望するまで。


___きっと、この激情は止まない。




「(冤罪だとか、そういうものはもういいです。

それが認められても、喪ってしまった者も帰らない。

…………傷も癒える事はないのだから)」




 メッセージアプリに連なる、諦観と絶望。











「こないだは、済まなかった」






 傑もかなり、憔悴しているようだ。

申し訳無さそうな面持ちを浮かべてから項垂れていると

突然と、その鋭い眼光で睨み付けられる。








「君のせいで、綾は、どんどん壊れていく」




 それは、憎しみにも似た感情。

いい気しないだろう。父親として娘が蹴落とされていくのは。




「(…………私にどうしろと言うのです?)」






 話したい事があるのはただの口実で、

所詮はやり場のない怒りのサンドバッグ役が欲しいのだと想う。






 傑は、唖然とした。

涼宮麻緒は、仮にも母親Ⅱ体して 

情も、守山家に尽くす気持ちの一欠片も感じられない。


 何処までもミステリアスで、どことなく薄情で怜悧な一面が、


それが、傑が抱いた違和感なのだ。






「(私は孫娘としても、貴方を不快にさせると思います。

母さえも壊していくというのなら、会わない、というのが専決的な処分なのではないですか)」

「確かに生き方は違った。

けれども、実母のケアくらいするのが娘の役割ではないか」

「(あの人を逆上させる事は、ケアと言いますか)」




 至極真っ当な正論を告げると、傑は、固まった。

そうだ。何故だが綾は涼宮麻緒に出逢う度に心を逆上させる。

そして人としての醜さが明るみに出るのだ。







 無機質な走り書き。

守山傑という、プライドは人一倍、抱いて生きてきた。

守山家を逆らう者に圧力をかけたものは数え切れない。




「(私には、異父弟、異父妹、がいるのではないですか)」

「それを連れ戻す事は100%無理なんだ」




 喫茶店の悲哀と哀愁のメロディーは、

まるで、傑の哀しみと体現しているようだった。










 葵、楓の親権や監護権を綾は丸投げした。

傑は諦め切れず裏金を使って、

警察に“孫達が誘拐された”というデマをでっち上げるようとしたのだが

その前に児童相談所が、最重要案件、としていた。



 楓の心療内科での通歴書や、例え家族でろうとも

綾が楓にしたものは、傷害罪の案件であり




 殺意の有無がはっきりしないが、

葵の首を締めた行為も意図があれば、と思われた。

結局の処は不起訴処分となったものの、前科が付いた事には変わりない。





 守山家に引き渡すのは、絶望的だと。






『(娘様の事は、最重要案件です。

心療内科の通院記録と診断書を、

児童相談所の家庭訪問の記録を残していて下さい。


 楓様の証言と有利で、最大の証拠となる筈です。




 息子様の証言も。

何故、家庭暴力に至る経緯になったのか。

 お母様から命の危機を感じた時、どう思ったのか)』












 飯島尚哉から、

そう切羽詰まる連絡がきたのは、今から一ヶ月の前のこと。




 桧山紬として、

裏で糸を引いているなんて、傑は滅相にも思っていないだろう?

シナリオは絶望的に描いてお先は暗闇に、

思考の善悪の判別さえ、戸惑う程に惑わせる。




『(守山様。貴方から受け入れられない事を

私に回答を求められても解決の糸口はないと思います。

私自身は無力でしかありません)』










『(突き放している割には、守山家のブランド、

そして娘可愛さに貴方は、保身に走っている筈よ)』






「以前も申したが、

君の出生は守山家を波乱と絶望を招いた。

それを今更でも償い。拭おうという心はないのか」


『(“知らない事が禊”だ、と貴方は以前、仰いました。

私は、その波乱と絶望を知る事が出来るのならば、迷いはないです。

ちゃんと、お伝えして頂ければ、禊を果たします)』












 愛されたい。愛されたい。愛されたい。


 赦されたい、赦されたい、赦されたい。




 葵を産んだ時は、思っても見なかった思いが

楓が産まれた時、常々に思っていた事を。



____それでも想いは、無慈悲に。






 あれからだ。

傑に精神的に執着する様になったのは。

“あの過ちを認めで欲しい、赦して欲しい”と綾は一途に思い必死に生きてきた。




 社員の頃には度重なるミスしても良かった。

ただ社長となった今、涼宮麻緒に執着しては醜態を犯し

残していく。


傑との距離も信頼もドミノ倒しの様に崩れて

抗う様に組み立てては砂の城の如く壊れていく。








 曰く付きの孫娘でも、守山家が切迫していて、

跡継ぎのいない中で現れたのならば、認めてくれるのでは。


 葵と楓が去った今、要はもう涼宮麻緒しかいない。






______否。






 自分自身は元から打算があったのだと想う。

跡継ぎ問題の渦を巻かれた時にスピーディーに守山家と

生き別れた娘を連れてくる事で、傑に感心されたかった。


 


 無能な娘ではないと思わせたかった。




けれども今では、それすら、叶わない。

涼宮麻緒のせいでどんどん崩れていく。






(私の評価を下げているのは、涼宮麻緒のせい?)




(この私を辱めに晒して、楽しい?)




 思えば簡単だ。

感情的になると留め金も利かぬ綾を逆上させて

今まで涼宮麻緒の前で傑に醜態を見せると同時に信用を喪失させてきた。








 傑に見捨てられる時はいつだって。










 涼宮麻緒がいた。




 


















 『(ふたりは、私が、殺しました。

冤罪だなんて貴方の勝手な思い込みです。

私が襲ったの。元から情なんてなかったわ。



 偽善者のふりして、善行したと思い込んでいる

兄にはずっと腹立たしくて仕方なかった。

人の絶望は、人では拭えないから)』






 流暢に、

メッセージアプリに書き込んだ文字を響介は眺めていた。

警察が行わなかった、地元の町の聞き込みを繰り返し

傍から犯人を見詰める事で、裏に何かあるのではないか。










 昨日の麻緒は自らの犯行だと正当性を告げていた。







 

 けれど。10年前、あまりにも痩せ細った身体。

手首には痛々しい程の自傷行為の痕がびっしりと埋め尽くされ、

巻かれた包帯にまだ血が滲んでいた事を、昨日の様に思い出す。








『緒方香菜、16歳。


養父母殺害により、少年法の元、医療少年院に送致。

ただ精神的な疾患が多く、失声症により話す事は不可能です』




 


 あの頃は本当に、何も告げなかったのに。

精神的な事も配慮しても現在(いま)の麻緒も万全とは言えない。


 それが10年を越えた現在(いま)になって

堂々と真犯人だと語る理由の意図が分からない。






(ならば、

どんどん身が細り、遺族への悔恨の言葉は演技ですか?)






 出所しても尚、拒食症の治療プログラムは続いていた。

最初は口にする事すら出来なかった。




(私だけ、良い思いなんてしたら、バチが当たる)






 そんな紙切れから、伝わる悔恨。








____養父母想いのとてもいい子。


____生まれてくる弟か妹の為にも恥じない姉で居たい。


____もっと助けにならないと。






緒方香菜は、養父母夫妻思いのとてもいい娘。

自身の事は二の次。






 そんな養父母想いの娘が、あんな無惨な事が出来るだろうか。

現場の遺留品リストと写真を眺めては、

答えのない迷宮に唸り、髪をかき上げる。


響介からしたら、麻緒___香菜には似つかわしいものだ。




 夫妻に致命傷を与える事になったナイフも

当然ながら身長差、体格差では負ける筈なのに、

一回の刺殺で急所にダメージを与えている。


 

 これは力のか弱い、少女が為せる術か。




















____霊園。












マンション型の霊園は出来たばかりで、まだ空室の所が多い。


愛しい人の眠る場所は人影に隠れた場所があった。






故 緒方 准


  緒方 美琴






 美琴が好きだった花を添えると、

麻緒は憔悴した双眸で静かに手を合わせ黙祷を捧げる。










「遅くなってごめんなさい。叔父さん、美琴さん」










 愛おしいそうに、その文字を撫でる麻緒。

その夫妻に捧げる面持ちは(かつ)ての穏やかな少女と変わらない。

この霊園を知ったのは、緒方美琴の身辺調査からだっただった。








 事件当時、美琴の親類からは野次を飛ばされた。


実際、その立場になったとして

自身でもそうすると思う。手塩にかけた義理の娘が、

養母を残酷に無慈悲に殺めたのだから。






「……………此処にいましたか」






 この時間を邪魔するな、と言わんばかりに、

麻緒の双眸は憔悴しながらも流し目に据わっている。

響介は花束を持って、壁にもたれかかっていた。










「(探偵になると、時に役に立つ事がありますね)」

「そんな褒めて頂いても、何もありませんよ」

「(そういう訳じゃないです)」




 メッセージアプリに並ぶ辛辣な言葉。

あの日、緒方夫妻と同時に緒方香菜も同時に殺められたのだと、響介は思う。




 未亡人になった少女が、花を供える姿は、絵になる。


 


 涼宮麻緒は、何処までも辛辣だ。



____緒方香菜の骸としても。






「犯人だと暴露した割には、

堂々と霊園に訪れるその根性には脱帽です」

「(それだけ薄情で無慈悲という事ではないでしょうか。私が)」




 いつの間にか、添えられていた花束。

緒方夫妻が生きていたら緒方香菜のまま、どんな人生を歩んでいたのだろう。


 守山綾ともぶつかる事もなく、穏やかに生きていた筈だ。






「貴女に、緒方夫妻を殺めるメリットはあったのです?」


「………………」

「涼宮さん?」

「…………」




 ふて寝ではなく

いつの間にか麻緒はドアに寄りかかって眠っていた。

緊張の糸から解放された表情は穏やかで響介は表情をほころばせる。




 引き取られた兄を慕い、盲目の養母を献身的に支え

生まれてくる弟妹の事も歓迎していた。



 殺害動機を探して、というのが返って無理な話だ。










______後日。










「社長。此方はお届けものです」

「今は手が離せないの。貴女が開けて」



 はい、と頷いた後に丁寧に、封を開ける。

差出人を確認したところ、



「これは………涼宮麻緒様からですね」







 その途端、綾の面持ちが変わり、ペンを置いた。

中身はと聞くとUSBメモリーだけが寂しく封筒の片隅にある。




 それを素早く奪い取ると、パソコンに差し込み見た。

映像が傑の行き付けの喫茶店だと気付いた刹那に、

向こう側には涼宮麻緒がいる。






(……………どうして)






『(私は孫娘としても、貴方を不快にさせると思います。

母さえも壊していくというのなら、会わない、というのが専決的な処分なのではないですか)』


『確かに生き方は違った。

けれども、実母のケアくらいするのが娘の役割ではないか』


『(あの人を逆上させる事は、ケアと言いますか)』



 憂いを帯びながらも凛然とした雰囲気。

煮え切らない態度を取るのは、傑の方だ。



(…………なんてこと、を)




(お父様は私の心のケアを、

涼宮麻緒にさせようとしていたの?)






 屈辱的なものが、心に浸透する。

綾は逆上した心のまま、直ぐ様、守山邸まで車を走らせた。



 今日は、傑は__家にいる。




 リビングのソファーにて、

壁掛けの家族写真を眺めていた傑に綾は容赦なく近寄った。




「まだ、仕事中だろう? 職務放棄か?」

「これ…………どういうことなの?」




 差し出されたUSBメモリー。

綾の手先は怒りに震えている。




「涼宮麻緒に、実母のケアをさせろ?

冗談はよして頂戴。あんな奴にケアをさせられるなんて屈辱的でしかないわ」

「………相手の方が何歩も上手だな」






 優雅に告げる傑。




「彼女も困っていた。

自身の存在は貴様を不快にさせるだけだと。断ったよ」


「それを分かっていてどうして……。

あの子は、いつも私を惨めにさせるのよ………」



 その瞬間、傑の眼光が鋭くなる。



「孫娘にしろ、と執着していたのは、誰だ」






 威圧的な声音に、綾は固まる。






「執着ばかりで孫娘として認めろ。


それは、相手に怪我をさせてまでやる事だったか?

貴様が執着しているから、此方は下げたくもない頭を下げたんだ」

「それは…………跡継ぎ問題で揺れていたから。

生き別れた孫娘でも、お父様なら赦して受け入れてくれると思ったのよ」




 傑は、綾の前に来ると




「綾。聞け。


私は今後も、涼宮麻緒を孫娘だとは認めない。

今回は試しただけだ、母親に対して、どのように思っているのかをな」




「酷いわ………この私を試すだなんて………。

お父様まで、私を侮辱に晒すだなんて……。

見損なったわ。お父様…………」




 綾は、二階まで駆け上がった。







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