17ダース・引き取った意味、野心を脅かす存在
後半戦 過激なシーン有。
苦手な方ら
閲覧は最善の注意を払いながら、お願い致します。
_____緒方香菜です。
そのメールの宛名を見た刹那に、綾の背筋が凍り付く。
緒方香菜。
弟夫婦の元に居た、謎の少女。
自身の身代わりとして生きて貰う、と宣言したあの日。
少年法に基き、彼女が少年院送致された事まで知っている。
けれどもそれからの情報は突如として途絶えた。
___お元気にされておりますか?
私は、罪を償ったと認められ、
今は更正の道を歩む日々です。
一言一句理解する度に、心臓の鼓動が鼓膜まで伝う。
あの日から10年の年月が過ぎた。
突然、未成年者後見者として、名前を外されて以降、
彼女の消息は掴めないままだ。
守山財閥の権力を使い施しても、見つからない。
緒方香菜は何処に行ったのか。
どこで何をして、どこにいるのか、全てが分からない。
正体不明な透明さが綾には不気味で、それで脅かすもの。
何故、今になって連絡を____それが純粋な疑問だ。
『守山財閥に目を付けられたら、
困りますから。飲み直しでもしましょうか』
「……………」
守山財閥が何処で目を付けられているか解らない。
守山の目を欺く為に響介は、
麻緒を連れてタワーマンションに入った。
モデルルーム並みに整頓され、
白乳色の明かりだけが部屋を優しく包んでいる。
遮光カーテンは締め切られていて常に光りが差さない。
本人曰く生活感のないところがいいから、らしい。
響介は、手先が器用で何でもこなしてしまう。
「酔い覚めのハチミツレモン水と、マンゴーです」
テーブルに置かれたのは、
透明なガラスのコップには蜂蜜色の光り。
皿にはスライスされたマンゴが色鮮やかに乗っている。
けれども麻緒は、
何処か影を落とした表情が浮かべていた。
親戚でもなく、
ただの担当弁護士だった、という過去の繋がりだけ。
今はもう何もない筈なのに青年の顔色はひとつも変わらない。
けれども何処かで抱いている疑問は拭えない。
『___涼宮さん。
私を世話し、匿って下さるのは、何故です?』
純粋な疑問に満ちた言葉。今も昔も変わらない。
そう告げた涼宮麻緒の瞳は何処か怪訝ながら
何処か憂いと虚空だけを映し、いつもながら読めない。
ただ時折、あの頃残る生真面目な本性は
真剣そのもので、その視線は誤魔化せないと思った。
響介は告げる。
「_____貴女が、冤罪だからです」
飄々とした響介の言葉とは反対に、
麻緒の浮かない表情は消えない。
伏せた面持ちで視線を落とすと何かを考えたのか
テーブルに置かれたメモ帳の紙にペンを走らせてゆく。
『私が、本当に冤罪の身であると、貴方は思っていますか』
_____冤罪。
当日の緒方香菜のアリバイは、
警察関係者が無理矢理こじつけた様に見えた。
県警の過ちを闇に葬るのは仕事かも知れないが
代わりに、少女は罪人のままだ。
緒方香菜は高校生になってから
新聞配達のアルバイトを始め、
点字用紙の費用以外全て貯金していたという。
現に彼女の部屋からは
新聞配達のアルバイト代の給与と
同額の現金が入れられた封筒の多数が発見されていた。
贅沢もしない、親思いの___健気に慎ましやかに生きる少女。
単に犯行動機がないのだ。
それに、あの夫妻がいなくなってからというもの、
彼女は憔悴仕切り、刹那的に生きては
自殺未遂を含めた自傷行為に走り、
自身を追い詰め続けている。
…………それは今も変わらない。
様々な病と向き合いながらも、
彼女は10年を、医療少女院で過ごした。
____それが、今の涼宮麻緒だ。
実のところ、今も昔も響介は疑っている。
___緒方香菜は、
冤罪の濡れ衣を着せられた少女ではないか、という事を。
(あの時、冤罪だと暴ければ___)
響介は、心の片隅で何処かで悔いを抱いている。
それは緒方香菜は無実、冤罪と暴けないまま、
彼女が囚われの身になり刑期満了したこと。
とにかく
警察関係者のアリバイがこじつけた様に曖昧なのだ。
少年審判でも彼女の素行や曖昧な
アリバイを提示し、精神衰弱している、
彼女の責任能力の有無を幾度となく訴えた。
響介から言わせれば、麻緒に抱く感情は、“罪悪感”だ。
冤罪かも知れないと疑い続けたものの、警察や医療少年院側は
緒方香菜は、“病も含めて自身の責任能力のない演技をしているだけ、欺いているだけだ”と判断した。
『ずる賢いにも程がある。身を細らせてまで』
『そんな演技をしている時点で、責任能力はあるでしょう。
私達はなんとしても、彼女から自白を引き出すだけだ』
『高尚な娘だ。行く先が怖い』
あの日からずっと。
だからこそ、
せめて彼女の身元の責任だけは取ろうと思った。
『貴女が濡れ衣を着せられた罪と向き合うと言うのならば
私は引き換えに協力し、貴女の未成年者後見人となりましょう』
あの声音が脳裏に反響した。
『もし、私が冤罪ではなかったら?』
「それはそれです。
これは僕の自己満足の為に貴女を引き留めているだけ。
真相が分かったら、速やかに貴女を解放する。
____それだけです」
____守山家、書斎。
「肩を脱臼されております。暫くは安静にして下さい」
医師の言葉に傑は、
そうかと表情もなく呟くとそのまま項垂れた。
医師は要所要所、必要事項を答えた後に
「____お大事になさって下さい」
と答えて帰って行った。
隣で聞いていた綾は
視線を惑わせながら、傑の手に触れようとする。
その指先は様々な不安により震えていた。
しかし、刹那にパシン、という乾いた音が響く。
綾は直前で、その双眸を見開く。直前にして傑が拒否したのだ。
驚く綾に対して、
と獲物を捉え見据えた辛辣な瞳で傑は睨む。
綾の眸には混乱と動揺が映り、まさに蛇に睨まれた蛙だ。
「お前は、私をどこまで、失望させれば気が済む?
葵も楓も、守山家には似つかわしくない行動ばかりで、
守山家の尊厳を踏み躙にじる。
元はと言えばお前から始まったのだ。
お前があの日___」
「やめて、お父様!!」
断末魔にも似た悲鳴と共に、綾は言葉を遮ぎった。
彼は過去を赦しはしない、反芻しながら幾度も辿り
その過ちを滲ませていく。
(あの事で、あたしを責めないで!!)
傑は常に、気が立っていた。
それは、守山財閥は、破綻寸前だということ。
それは、偶然なのか。
福祉に準じて
これからエスケープクロックホールディングスグループが
飛躍を遂げると仮定して、守山綾だけではなく
その周りの調査にも、麻緒は手を伸ばした。
福祉は、テーマを掲げるだけでは行かない。
その人の見返りを求めない、
善の慈愛の精神がないと成り立たない。
聖母マリアのような精神を持ち、寛大な心構えでいなければ。
無意識的に彼女の周りの人間を身辺調査をしてしまうのは
彼女の弱味、守山財閥の弱味を何か隠しているという事を
暴きたい、それを知っているなら
自身を守る盾になれるだろうか。
曖昧に、ぼんやりと考えながら。
守山綾には、子供がそれぞれ2人いる。
その子供達に麻緒は要点を絞った。
華麗なる一族の華やかさを繕っていても、
意外と、叩けば埃は出るものだ。
守山 葵(20)
守山 楓(19)
守山家が雇っていた家政婦は、
家政婦として得る対価しか目が無かったようだ。
家政婦、保母という立場にいながら子供達の事は論外、
葵には様々な残酷な事の仕打ちばかりしていた。
元々の我慢強い性格なのか、
それとも大人が耳を傾けなかっただけなのか
葵が仕打ちに耐えていた事を大人が知ったのは3年後になる。
そのストレスという檻から解放された暁には
家庭内暴力を繰り返す様になり、祖父等を標的に、
そしてそれが証拠と言わんばかりに。
守山家の調度品はボロボロに、
家族は密かに怯えている。
同じく妹の楓は
援助交際に加え、学校ではいじめグループの主犯格として
生きているそうで彼女の標的になった少女は
転校を余儀なくされる追い詰められる。
真っ当から闘う戦士もいたが、
権力者を前にしては、ボロボロにされた。
どちらも手が付けられない、極悪人の極みだろう。
葵は祖父である傑に何度も怪我を負わせているらしい。
最近、会長が肩を脱臼した、というのも
葵が負わせたものだとか。
祖父である傑が頭を悩ませる反面、
2人の母親である綾は、息子や娘に対して
育児放棄同然のノータッチを貫いている。
楓に関しては最も酷い。
一昨年にターゲットにしていた女子生徒に大怪我を負わせ、
被害者生徒の両親が被害届を提出したものの、
傑が守山財閥のブランドを守る為に、被害届を握り潰した。
絶大な権力を持つ者に対し、
皆、無力と隅に追いやれられてしまう
方程式は昔から変わらない。
それでも諦めなかった家族に対し、
守山家は示談金での交渉に乗り出し、
水面下での民事裁判が進んでいたのだと聞く。
その示談金は8200万円までに膨らんだ。
(守山綾の、
感情的な導火線が、別の意味で子供達に伝わったか)
喫茶店に入ると、
人目に完全に死角となる場所で
涼宮響介が、優雅に珈琲を嗜んでいた。
その姿が、
叔父と重なるから、麻緒は流し目に視線を反らした。
青年は必ず、待ち合わせの時間よりも早く来ても、必ずいる。
「話があると。貴女からの連絡は意外でしたよ」
『(少し気になる事があって……ごめんなさい、お仕事中に)』
「いえ、息抜きがしたかったもので」
麻緒は淡々として、
鞄から調査表のファイルを2つ響介の前に差し出した。
___守山葵と、守山楓の身辺調査表。
響介はそれらを取ると
優雅に頁をめくり見詰めている。
爽やかな実力主義の弁護士は
実は修羅場が大好物だと知れたら、
その人はどんなリアクションをするのだろう。
「ほう、隠している事情は、かなり酷いようですね」
涼宮麻緒の調査表は事細かいのに、丁重にまとめられている。
『(これをリークしても、
守山財閥の圧力で瞬時に消されるに決まっています)』
「ですが何故、これを私に?」
『(こんな水面下を抱えて置きながら、
福祉に邁進するというのは、納得出来なくて』
(嗚呼そうか、これが、貴女の正義か)
彼女の養母は、盲目だった。
彼女が点訳士となるルーツは、そこから来ている訳で
特に福祉関係には敏感だ。クールそうに見えるが、
身に付いた慈悲と博愛の精神は消えていない。
『(それに、涼宮さん。
本当は専任弁護士には成りたくないのでしょう?
それに私ばかり甘えたままでは嫌です。
あの時、孤児に戻った私に協力すると言って下さった。
借りや甘えが残ったままでは後味悪いですから)』
麻緒は、自身を嘲笑った。
(協力すると言って、所詮は一人では、私は何もできない)
あの言葉を覚えていたか。
あの小さな町の進学校では
彼女は常にトップの成績を残していたとだけあり、
記憶力はずば抜けている。
それに加え揺るぎない意思と
彼女が持ち込んだ内容に、響介は静かに笑う。
「本当に貴女は高尚ですね。
それに執着心の感情だけではなく、事実確認もしている。
いえ、実を言うと
貴女が守山財閥に拘る事に甘えて
便乗しようとしていました」
「…………(便乗?)」
「財閥というものに乗り込んで、財閥という仕来りや
自己中心的に生きてきた人間性を高みの見物に眺めようかと。
___しかしまだ泳がせようかな。
この水面下を切り札に、相手を戸惑わせましょうかね」
爽やかな柔な微笑み。
けれども彼の思惑は掴めないし、掴めさせない。
涼宮響介がどう思っているのかすら雲の上の存在だ。
通話の画面には、
涼宮響介と表示されていて
思わず守山綾は飛び付く様に、応答する。
「はい」
『弁護士の涼宮です。
お電話口での会話となり申し訳御座いません』
「いえいえ、涼宮様も多忙を極めていらっしゃるのでしょう?」
ようやく身を乗り出し、舵を切ってくれたか。
綾は恍惚な微笑を抑えきれず、天にも昇る心地だった。
自然と癖で、媚びる様な猫撫で声になる。
『妻に任せきりで、申し訳ないです。
改めまして専任弁護士の件は了承したいと思っております』
(そうよ。膨大な権力の前では、何も出来ないのよ。
___さっさと守山財閥に入りなさい)
物腰の柔らかい口調で、響介は告げていた__が。
突如にしてですが、と響介は身を乗り出す。
『本当に福祉関係に従事されたいと思っておりますか』
「……………え」
電話の向こう側の綾が、思わず声音を喪う。
「それは………どういう事です?」
「小耳に挟んだのですが、
社長の御子息様は会長に怪我を負わせ、
御子女様は学校で、同級生に致命的な大怪我を。
そして民事訴訟を起こされたとの事、示談の方向で進んでいると」
涼宮は麻緒と別れた後、
足早に当時の民事訴訟に関わった弁護士と
コンタクトを取り、話を付けて理由を聞き込んだ。
守山財閥側の前任の担当弁護士は
守山綾の愛人で彼女の言いなりに等しかった。
否、彼女には何人も愛人がいる事で、
自身が飛び抜けて飛躍、彼女の目に留まりたかったと
世にも見苦しい言い訳をするものだから冷笑が絶えない。
「守山様。福祉には
慈悲深き心と博愛の精神が必要だと私は思っております。
ご子息様やご子女様の行動をお聞きしまして、
これからの事は大丈夫かと連絡を経ております。
私には今後
エスケープクロックホールディングスグループが掲げる
福祉に邁進する、というものは不釣り合いだと思いますが」
(_____どうして、それを)
遠回しに、
福祉関係は似合っていないと宣告されたも同然だ。
楓が起こした事は、
傑が、守山財閥の権力を使って、
公になるのは避けた。
全て愛人の弁護士と傑に任せきり
綾も涼宮響介の煮え切らない態度や
麻緒の双方のご機嫌取りをしなければ、と必死で
元々、子供には無興味という事も重なり
葵と楓の事は、頭から溢れ(こぼ)落ちていた。
「そんな事は、虚言、事実無根ですわ」
『残念ですが、私の仕事柄、他の案件も耳に入ります。
もう聞いてしまった事は後戻り出来ませんよ』
辛辣めいた口調で、響介は告げる。
『専任顧問弁護士になるまで、少しお時間を。
抱えている案件はもうすぐ終わりますので。
………はい、
呼ばれましたので、
申し訳御座いませんが、電話を終了とさせて頂きますね』
丁寧な口調で、響介は通話を終えた。
ツーツーという無機質な機械音だけが、綾の鼓膜に
残響し、綾は携帯端末を持つ手を項垂れる様に落とした。
その刹那、綾の心の中では、怒りと激情が交わる。
「帰るわ。何かあったら、連絡を頂戴」
「分かりました」
覇気のない、項垂れた声。
けれども煮え滾たぎる怒の迫力に、秘書は圧巻される。
会社を後にして、守山家に着くと足早に綾は家へと入る。
蛇に睨まれた蛙の如く切り替わった鋭い眼差し。
葵は大学浪人中と周りには繕っているが、
引きこもり同然、楓は学校の創立記念日という事で
”どちらも家にいる筈だ“
「葵!! 楓!! 出てきなさい!!」
音量を最大限にまで
上げたスピーカーの如く、綾の怒号が轟く。
しかし静寂が横たわるロビーラウンジには誰も訪れない。
もともと自身達に無関心で
母が声をかける時は“祖父のご機嫌取り”をする時だけ。
それを葵も楓も知っているからこそ、現れはしない。
気だけが立つ。
まさか此処で足枷が現れてしまう等、予想もしなかったからだ。
刹那にガシャン、という何かが割れる音。
リビングルームのローテーブルに飾ってある、
大きな花瓶を床に向けて叩き割ったのだ。
我が子に対して淡々としているから
初めて耳にする母の怒号は珍しく、
後から自身達のせいに喚かれても困ると楓が先に現れた。
………割れた花瓶の硝子の破片や散らばる花達に絶句する。
何よりも楓が驚いたのは母の般若の如き形相だった。
いつも祖父の前では弱々しい姿と面持ちをしているのに
今日は違う。
「………お母様………?」
名前を呼ぶ前に
後ろ髪ごと掴まれて、そのまま前後に激しく揺さぶられた。
髪が千切られそうだ。
「痛い………」
「痛い? ふざけないで。あたしの方が痛いわよ!!」
鼓膜を揺らす怒号が止まない。
引っ張られた頭皮が髪が痛い。やがて並行機能感覚を失って
膝から崩れ落ちると、綾は娘の髪を掴んだまま、
ローテーブルの引き出しにある、
箱の中から裁鋏を持つ。
華にはこだわりがある傑は、
華道をしていた頃の知識を活かし
此処で華を整えているから、華道の道具がある。
そのまま怒りの成すままに、
掴み引っ張っている後ろ髪を見境なく、雑に切り落としていく。
「やめて、やめて、痛い………いやあああ___!!」
叫び、痛覚が離れた刹那、
床にわだかまりの様に落ちていく己の髪に悲鳴を上げる。
頭が軽くなった意味が床に散らばるものが証拠だとしたら。
綾は裁鋏をを投げ棄てた。
鋏は転がり回転して、壁際で止まる。
「…………そんな、こんなの酷い………」
泣きながら楓は振り向いたが、その涙すら止まる。
目は血走り、皺が縦横無尽に走る形相だったからだ。
飛んだ貼り手に突き飛ばされた。
「あたしを恨まないで!!
先に酷い事をしたのは、楓、あんたでしょう!?
そのせいでママは窮地に追いやられているの!!
親の顔に泥を塗って楽しい?
そんなのかわいいものよ」
胸を手に当てながら、リビングルームに広がる絶叫。
見境なく切り落とした為に、楓の髪型は悲惨な事になっている。
不揃いに切られ、長さもまばらだ。
綾の怒りは納まらない。
怒りに支配されると綾は剛力かつ怪力となり、
誰も手が付けられない。
面倒臭そうに嫌々降りてきた、葵は
ロビーラウンジとリビングルーム、
そして泣き腫らした妹の姿に言葉を喪い、
般若の如き母親の姿に、後退りした。
しかし遅かった。
頬を抉られたのか、という錯覚に陥る。
それが母親に叩かれたのだと理解するまで、時間がかかる。
あまりの勢いに、投げ出されて花共に葵は横たわる。
「………っ」
散らばった硝子の破片に触れてしまったようで、
水の中に赤が交じる、しまいには棘にも触れている事を悟る。
葵はこの世のものか、という眼差しで振り返った。
「あんたたちのせい!! 全部、あんたたちせい!!」
綾は、葵の前髪を引っ張り掴む。
「暴力を振るう事しか出来ない能無しが!!
そのまま落ちこぼれていけばいい!!」
葵は、血嘔吐を吐いた。
鳩尾に強烈な痛みが走ったからだ、
目眩がする程に気分が悪い中でもまた頬を叩かれる。
____そして首に手をかけられ、終わりだと思った。
葵は考えた。
母親である綾は、子供達の事には無関心で、
祖父である傑ばかりを陶酔するかの様にご機嫌取りをしていた。
母親は、自分達に、興味はない。
だから葵に不登校になっても、楓が誰かを泣かせ苦しませる
存在である事も視界には入っていない。
我が子たちの事等、どうでもいいのだ。
「何をしている____!!」
威厳のある渋い声音と共に、綾は我に返る。
振り返ると半分は怒り、半ば青褪めた顔をしている傑がいた。
葵の首から綾は手を離す。
葵は、咳込みながら、深呼吸を繰り返した。
リビングルームは見るに耐えない惨状を、綾が作り出していた。
割れた花瓶や伴う硝子の破片、ボロボロな孫達の姿。
いつの間にか迫るパトカーのサイレント。
急激な、焦燥と憔悴。
今まで、業火に煮え滾た滾り、
怒気の感情に支配されていた綾は我に返り、
そして傑に見られたと悟ると急に狼狽と共に憔悴した。
ご気分を害された読み手様
謹んでお詫びを申し上げます。
物語の構成上とはいえ、過激なシーンが続いてしまい
誠に申し訳御座いません。




