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第35話 兵器

「〝起動(チェック)〟」


 五十基の【ターレットマン三号】(この時代では資材の規格が合わなかったので再設計したマイナーチェンジ版だ)を一斉起動して配置する。

 さらに、それをガードする【盾でまもる君】も並列で五十基、同様に起動して配置しておく。


 魔力をごっそりと持っていかれたが、魔法道具(アーティファクト)と魔力をケチって数で押し切られるよりはましだ。


「ノエル様がすごい」

「そりゃノエルがやる気出すとああなるわよ。“魔法使いに世間話の時間を与えるな”なんて格言があるけど、ノエルの場合は“魔技師に猶予を与えるな”ね」

「ひどい言いようだ……」


 魔力回復薬(マナポーション)をあおりながら、思わず苦笑する。

 ひどく苦くて、後味は吐き気がするほど甘いこの飲み物は、父が調合レシピの特許を持つ強力な薬だ。

 残りは三本。それが僕という人的リソースの限界となる。


「【鉄の猟犬(メタルハウンド)】起動。続いて【プロト番天印(マルチミサイルポッド)】起動」


 二つの攻撃的魔法道具(アーティファクト)を起動状態で取り出す。

 【鉄の猟犬(メタルハウンド)】は、前回も使用した長細い長方形をした魔法の弩弓。

 【プロト番天印(マルチミサイルポッド)】は、1メートル四方ほどの立方体だ。


「ねぇ、ノエル。宿でもずっと触ってたけど結局この真四角のは何なワケ?」

「『兵器』だよ」


 そう、【プロト番天印(マルチミサイルポッド)】は魔法道具(アーティファクト)にして兵器である。

 広義には武器の範疇ではあるが、これは僕の理念に合わないと考えて途中で開発をやめていた。

 あまりにも、傷つけることに特化した魔法道具(アーティファクト)だったから。


「これの事は、父さんに黙っていてほしい」

「どうして? どんなものなの?」


 姉の質問に、少し詰まってから僕は答える。


「この内部には攻撃的な魔法薬(ポーション)、第四階梯レベルの攻撃魔法が詰まった【魔封石】、破裂して周囲に破片を撒き散らす【魔石礫(タスラム)】なんかが詰まっている。それを複数の目標へ向かって正確に射出して……殺す兵器だよ」


 僕の言葉に唖然とした様子の姉が、僕と【プロト番天印(マルチミサイルポッド)】を見比べる。


「魔技師の技術を高めるのが面白かった。何ができるのかと突き詰めるのが面白かった。魔法を使える姉さんを、父さんを見返したかった。……でも、こんなもの作るべきじゃなかった」


 だってこれは、人を幸せにしない。


 僕の目標は、人を幸せにする魔法道具(アーティファクト)だったはずなのに。

 僕のように魔法を使えぬ人が、魔力(マナ)の恩恵に預かれるようにするための技術だったはずなのに。


 これは、そんな人たちを大量虐殺者に変えてしまえる兵器だ。

 だから、開発を中止しながらもずっと自戒として持ち歩いてた。

 魔法の鞄(マジックバッグ)の底、これが指先に触れるたびに自らの初心と目的を思い出すことができるから。


「でも、出してきたのね?」

「うん。これが僕たちの後ろにあるものを守る力になるから」

「うん。やっぱりノエルって……」

「──きた……!」

 姉の言葉を遮って、僕は【鉄の猟犬(メタルハウンド)】を構える。

 右目につけたモノクルには【ゴプロ君1号】が捉えた走蜥蜴(ラプター)の大群が移動する様子が映し出されていた。


 そろそろ【鉄の猟犬(メタルハウンド)】の射程内だ。


「姉さん、チサ! 僕が合図するまで前には出ないで!」

「足止めは?」

()()()()()


 映像の向こうで大群の先端が崩れる。

 草原の土の上、突然つるりと転倒した先頭に(つまづ)いて、次々転倒する走蜥蜴(ラプター)達。

 そして、それらは後続に踏み荒らされて瞬く間に肉片に替わっていく。


「〝起動(チェック)〟、ファイア」


 やや動きが鈍った先頭集団に狙いをつけて、【鉄の猟犬(メタルハウンド)】を発射していく。

 引き金を十回ほど引いたところで、色とりどりの走蜥蜴(ラプター)達が視界に入った。


「ノエル様!」


 前に出ようとするチサをそっと制止して、小さく息を吐きだす。


「チサ。今からとてもひどいことをするけど、僕を嫌わないでね──……〝起動(チェック)〟」


 【プロト番天印(マルチミサイルポッド)】に触れて起動魔力を流し込む。

 膨大な魔力消費に浮遊感と眩暈が同時に訪れて足をつきそうになるが、食いしばって走蜥蜴(ラプター)の大群を視界に留める。


 この魔法道具(アーティファクト)が引き起こすことを、僕は受け止めねばならない。

 がぱりと上部を勢いよく解放した【プロト番天印(マルチミサイルポッド)】から、大量の攻撃的魔法道具(アーティファクト)が射出されていく。


 必中魔法〈必中投石(ストーンスロー)〉の亜種魔法を仕込まれたこの箱は、内部に収められた災いを『視界内の対象』に容赦なく的確に放る機能が備わっており、僕の視界は【ゴプロ君1号】によって広域に担保されていた。


「すごい……!」


 遠見もできるチサが、どこか放心した様子で前方を見ている。

 同じ光景を僕も見ていた。自身と【ゴプロ君1号】の目によって。


 悲鳴と共に焼け落ちる走蜥蜴(ラプター)

 爆ぜる【魔石礫(タスラム)】に強かに撃ち抜かれて倒れる走蜥蜴(ラプター)

 毒煙でのたうつ走蜥蜴(ラプター)


 阿鼻叫喚の地獄がそこに在った。

 それを見ながらも二本目の魔力回復薬(マナポーション)を口にする。

 気付けがわりにちょうどいい。まだ、戦いは終わっていないのだから。


「崩れた! 行ってッ!」


 状況に呆然としていた姉とチサ、そしてアウスがハッとしたように動き出した。

 僕も【鉄の猟犬(メタルハウンド)】に残り少なくなった魔法の鏃を込めて構える。


 大群中央部に放った今の一撃で、走蜥蜴(ラプター)達の数は半減している。

 加えて、仕込んだ〈転倒(スネア)〉の魔法の巻物(スクロール)による足止めはまだ有効だ。


 走蜥蜴(ラプター)が持ち直す前に姉とチサが切り込めば一気に崩せる。

 こちら有利のまま、この“溢れ出し(オーバーフロウ)”を止めることができるだろう。


 ──……アレさえ、何とかすれば。


 そう考える僕の視界には、悠然と歩いてくる大走竜(ダイノラプター)の姿が見えていた。


いかがでしたでしょうか('ω')

物語も終盤、「面白かった!」「続きが気になる!」という方は、是非下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ幸いです!


よろしくお願いいたします!

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