第21話 覚悟と決意
モノクルに送られてくる映像を確認しながら、僕は危機感を募らせる。
今なお、大走竜の周辺には多種多様な走蜥蜴が集っており、数を増していた。
「もう三十を超えてる……!」
「エファ様、ご判断を」
「避難か応戦かってことね? えっと、ノエルどう思う?」
そこで僕に振るのかよ!
いや、現況を確認しているのが僕であるからか。
しかし、そんな判断つきやしない。
僕はまだ冒険者としてぺーぺーで、実戦だって数えるほどしかないんだから。
「わかんないよ! 勝てるかどうかなんて!」
「違うわ、守れるかどうか聞いてんのよ」
並走しながら、姉が僕を見る。
期待のこもった目。また、これだ。
大人たちも、父も、母も、そして姉も僕にこれを向ける。
〝出涸らし〟の僕に、過剰な期待をかけないでくれ。
「もう仕事はこなしてる。君達はこのまま抜けて、ウィルソンのところに行ってくれ」
「アウスさん?」
「あいにく俺は、妻と子供を守らねばならないんでね」
覚悟した目で、狩人の青年が告げる。
その迷いなき鳶色の瞳が、どこか父を思い出せて僕はハッとする。
こんな時、父ならどうするだろう。
数々の冒険を乗り越えて、〝英雄〟と称された父は。
ここで逃げれば、僕はきっと〝出涸らし〟の呪縛から抜けることなどできない。
「……ッ」
映像の向こう側で走蜥蜴が動き出す。
この動き……やはり、集落を襲う気だ。
まるで統制の取れていない興奮状態の走蜥蜴がてんでばらばらに、さりとて村に向かって進行を始めている。
「……守る」
口から漏れた言葉は、できるできないでなく、“やる”だった。
少しばかり自分でも驚いているが、これが僕の答えだ。
「オーケー。A+の解答よ」
「戦闘指示、承りました」
そんな僕らを、アウスが驚いた顔で見る。
「いいのか?」
「ノエルがやるって言ってるんだもの、できるわよ」
「ノエル様は昔からやる時はやる方ですので」
そんな風に二人が言うものだから、僕は少し恥ずかしくなって苦笑してしまう。
でも、そんな風に思ってもらえるならば応えねばなるまい。
「できることを、できるだけ」
そう呟いて、思考を回転させる。
幸い、これは不意打ちではない。イニシアチブはこちらにあるのだ。
僕は魔法使いならぬ魔技師だけど、やれることはある。
そうとも。
僕はこのために魔技師を目指したのだ。
大好きな魔法道具を、人の役に立てるために。
では、どうする? 何ができる?
魔法の鞄に詰められた僕の魔法道具は何があったか?
焦ると思考がまとまらない。
「ノエル様。そう、気を張らずともチサがここにおります」
隣を走るチサが、僕の肩にそっと触れる。
「時間稼ぎはわたくしが。ノエル様を信じております」
「あら、あたしもいるのよ? 最悪、【灰色硝子】を最大開放すれば、何とかなるわ」
「それは姉さんが倒れちゃうだろ。でも、ありがとう。プランは決まった」
相手は魔物だ。
遠慮はいらない。人に向けるのを憚られるような魔法道具の実験に付き合ってもらうとしよう。
「ごめんね、姉さん。ちょっと燃費の悪いことをするよ」
「あら、あたしそういうの大好きよ?」
姉の笑顔に背を押されて、僕は魔法の鞄に手を突っ込む。
すでに僕らは村と走蜥蜴の群れの中間地点に居り、ここは僕の戦場とするのにピッタリの場所だった。
「〝起動〟!」
僕のキーワードで、小型の脚立のようなものがカチャリと動き出す。
|小型の矢を高速発射する弩を上部に備えたこれは、攻撃対象を自動的に追尾して攻撃する設置攻撃型魔法道具【ターレットマン二号】である。
その数、十基。これでカバー範囲を広げて走蜥蜴を足止めをする。
腰のポーションホルダー──魔法薬を携帯するためのベルト──には、治癒の魔法薬に加え、火炎瓶と痒み瓶を数本挿す。
痒み瓶は強烈な痒みを引き起こす薬品で、野生動物などには効果覿面だ。
魔法の巻物は状況即応できるように複数をベルトに挿し、袖にも仕込めるだけ【超小型魔法巻物】を仕込んだ。
「あとは……」
鞄から、筒状の得物を取り出す。
「ノエル様、それは?」
「簡単に言うと、矢じりだけ飛ばす弩だよ」
数年前に父と共同開発していた試作品。
まだまだ調整不足ではあるが、僕が戦力で貢献しようと思えば使うしかない。
ぱっと見は、1メートルほどの細長い長方形をした鈍器。
内部は中空になっていて、魔法式と特殊な魔導回路で回転加速させた金属製の矢じりを撃ちだす魔法道具だ。
「それ、パパと一緒に作ってたやつよね?」
「うん。完成したわけじゃないけど、僕もこれで戦うよ」
僕の言葉に、姉の口角がぐいっと持ち上がる。
「姉さん?」
「嬉しいのよ、あたし。ノエルとこうして一緒に肩を並べられるのが」
それはこっちの台詞だ。
こんな事態でもなければ、姉と肩を並べて戦うなんてことはなかったように思う。
「それで? その子の名前は? またヘンな名前?」
「変とは失敬な……」
黒い魔法道具を肩に担ぎあげて、僕は苦笑する。
「──【鉄の猟犬】。それがこれの名前だよ」
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