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短編

妖精が悪魔に変わるとき

作者: 夕鈴

大きな眼鏡とそばかすと三つ編みがトレードマークのラタン公爵令嬢ティオーナは、年下の婚約者である王太子タルロがエスコートしている、さらに年下の色白の肌に整った顔立ちの伯爵令嬢リンジーと目が合い微笑んだ。眼鏡で瞳は見えないが真っ赤な唇が弧を描き笑っているのを教えてくれる。

震えるリンジーにタルロが気付き優しく肩を抱き寄せ、怯えさせたティオーナを睨みつける。


「ティオーナ・ラタンに王妃の資質はない!!私はお前との婚約を破棄してリンジーを婚約者に迎える。未来の王妃を傷つけた罪で―」


タルロが長々とティオーナの罪を語っている場は、学園の卒業パーティ。ラタン公爵家は王宮魔道士を排出する一族であり、ティオーナも同世代では群を抜いて実力のある魔道士。幼少時は妖精のようだと言われていたティオーナは、魔法に失敗してからは眼鏡なしでは生活できず、外見も年々衰えている。外見が王妃として相応しくないと言われても、魔法の実力と聡明さは令嬢の中で飛び抜け卒業生首席である。幼い頃から受けていた王妃教育も終わり、公務も手伝い外見以外は評判はいい。

ティオーナは昔から空気の読めないタルロにため息を我慢して、いつまでも終わらなそうな迷惑な語りを遮る。


「発言をお許しくださいませ。かしこまりました。私は幼い頃より王家に尽くして参りました。ですので最後に恩情を。心優しく慈悲深い殿下に一つだけお願いがございます。非の打ち所の無い王族で―」


タルロは婚約者からの珍しい称賛に荒げていた声を弱め、照れた様子で口を開く。


「き、聞くだけなら聞いてやろう。正直に申せ」


ティオーナは幼子に言い聞かせるようにゆっくりと優しい声で言葉を紡ぐ。


「感謝致します。私を監獄の森に送ってくださいませ。ラタン公爵家の血を引くのは私と弟のみ。まだ殿下の婚約者ではないリンジー様、伯爵令嬢を公爵令嬢が傷つけた罪で罰する法はありません。ですが殿下の心を裏切った私は重罪人。ラタン公爵令嬢ではなくティオーナ個人として罪を受けます。もしも弟に子ができないときだけは私に血を残すことだけお許しください」

「ティオーナ、そこまでは」


幼い頃から監獄の森がどんな恐ろしい場所かティオーナに教わっていたタルロは、王侯貴族にとっては国外追放よりも厳しい罪に顔を青くすると、ティオーナは首を横に振りタルロの言葉を止める。


「いいえ。私は王太子殿下の心を曇らせるという婚約者として最大の禁忌を犯しました。平凡な私よりも殿下のお心に添える美しいリンジー様のほうが相応しいと存じます。タルロ様、今までありがとうございました。どうか私が監獄の森で生きることだけお許しください。最期のお優しさをくださいませんか」


ティオーナをタルロが許してしまいそうな雰囲気に男子生徒達が口を挟む。タルロの友人達は少女の恋を叶えるために協力し、優柔不断な王子をようやく婚約破棄にまで決断させた。そして王妃になった暁には家を優遇してもらう計画があった。


「殿下、監獄の森ならリンジーは彼女に傷つけられることはありません!!」

「その悪魔も監獄の森なら」

「彼女はリンジーを泣かせたんですよ。酷い言葉で!!」


野次に反応せず黙り込むタルロ。ティオーナはゆっくりとリンジーに顔を向けるとリンジーが肩を震わせる。


「リンジー様、謝罪して許されるなど思っていません。ですがラタン公爵家は優秀な魔導士を輩出する一族。血を絶やすのは国の損害ですわ。王妃を目指すならわかりますわよね? 弟が後継を残すまでの時間で構いませんの。貴方の視界に入りませんわ。どうか生きることだけお許しください。もしも許されないなら、私は血の誓いを」


魔石を埋め込んだ剣で心臓を突き刺した時、願いが叶うとラタン公爵家では言われている。

ティオーナは胸元を探り、タルロに見覚えのある短剣を取り出すと、タルロはさらに顔を青くする。


「やめろ!! ティオーナ、わかった!! 監獄の森に送るから、それから手を放せ。頼むから」

「かしこまりました。では皆様、お騒がせして申し訳ありません。殿下、リンジー様とお幸せに。スフィン、ごめんなさい。私は貴方を信じてますわ。殿下、サインをくださいませ」


ティオーナは大量の書類とペンを出し、タルロにサインと血判を押させる。すでに自分のサインを終えている婚約破棄の書類をタルロの手に握らせ2枚を自身の懐に。残りの書類を宰相の息子に渡し礼をして立ち去った。国王夫妻は留守なためティオーナと王太子が国を任されていたため、これで婚約破棄は成立した。


「ティオーナ」

「殿下、姉が申し訳ありません。どうぞ、パーティーの再開を皆のものが心待ちにしております。お言葉を、いえファーストダンスをどうぞ」


ティオーナの弟のスフィンは魔法で美しい音楽を奏で、呼んでも振り返らずに出ていったティオーナの背中を見たまま何も言葉が出ないタルロにダンスを促す。幼馴染みの頼りになるスフィンに明るく笑いかけられ、タルロは頷き踊り出す。天才魔道士スフィンは姉が断罪されたような雰囲気は一切感じさせず、パチンと指を鳴らし会場内に光や花で幻想的なムードを演出する。そして美しい紫色の瞳を細め甘い笑みで令嬢をダンスに誘い踊り出す。スフィンの魔法に感嘆をあげながら生徒達が動き出し卒業パーティーは再開される。優秀と言われている王太子が楽しそうにリンジーと踊っている姿を、良識ある子女は笑みを浮かべて眺めていても決して瞳は笑っていない。

学園では監獄の森は恐ろしい場所と囁かれ、そこに友人が送られるなんてと淑女の仮面が壊れ、顔を青くしている令嬢も。

ティオーナが突然の婚約破棄にもかかわらず書類を用意していたことに疑問を持つ者は誰もいなかった。


監獄の森は高貴な者を幽閉するために作られた王宮の最奥にある森。

監獄の森に幽閉されている人物は一人だけ。もともとその人物を幽閉するために作られた場所。

監獄の森のゲートにティオーナはタルロにサインさせた書類を置くと光り、敷き詰められている茨が動いて地面が見えて道を作る。ティオーナが足早に道を進むと茨はもとに戻り道を塞ぐ。監獄の森は魔法によって守られているある意味国で一番安全な場所。

外から見れば茨に囲まれた暗い森。中に進むと木々が生い茂り、花が咲き誇る王宮のどこよりも美しい場所である。

ティオーナがスキップしながら三つ編みをほどくと、キャラメル色の髪がふわりと風にたなびく。

澄んだ泉に勢い良く飛び込むと褐色の肌が色白に変わり、顔のそばかすが落ちる。真っ赤な唇はほんのり桃色に。泉に全身を投げ出したまま空を見上げ、思いっきり息を吸う。


「終わった!!」


パシャンと水しぶきが上がり水面に浮いているティオーナの手が力強く引かれてる。


「本当に君は」


ティオーナは極上の笑みを浮かべ、呆れた顔で抱き上げる青年の首に手を回す。


「18歳になりました。お嫁さんにしてください。約束を守りましたよ。ご褒美くださいませ!!」

「バカじゃないか」

「酷いですわ。外してくださいませ。もう貴方の心に私はいませんの?」

「ティー」

「私はダンスとエスコート以外は何も許しておりませんの。もう離れません。スフィンも大きくなりました。最年少天才魔道士ですのよ。ここでオルト様のお嫁さんになってずっと一緒におりますわ。拒むなら殺してくださいませ」


青年がティオーナの眼鏡を外すと美しい紫色の瞳が潤み、ほのかに頬がそまる。


「ようやく会えましたわ。オルト様、私は貴方さえいれば何もいりません。どうか」

「私の負けだよ」


漆黒の髪と瞳を持つ青年オルトは元婚約者の額に口づける。

満面の笑みを浮かべるティオーナはこの瞬間のためだけに全てをかけてきた。




国王は隣国の漆黒の髪を持つ姫に一目惚れされ正妃として迎えた。妃の容姿を引き継いだオルトは王太子として育てられ、婚約者に選ばれたのは王宮魔導士の一族であるティオーナ・ラタン公爵令嬢。

ラタン公爵家特徴のキャラメル色の髪と美しい紫色の瞳を持つ内気な少女。突然婚約者に選ばれ、厳しい教育に怖い教師に睨まれるといつも助けてくれるのは年上の頼りになる黒髪の王子様。

ティオーナが恋をするのは当然だった。


「ティー、遊びに行こうか」

「オルト様?」

「お勉強は休み。教師は帰らせた。ダンスは私がリードするから心配いらない」


オルトは教師に怒られていたティオーナの手を握って庭園に誘い、腰を抱いてダンスを踊る。ティオーナは苦痛だったダンスが楽しくなり、花が綻ぶ笑顔を見せて軽やかに踊る。


「体の力を抜いて。そうだよ。ティーは緊張すると動けなくなるのを知ってるよ。やればできるのに」


内気な少女は恋する婚約者に相応しくなるために努力を惜しまず、聡明な婚約者果ては妃と言われるようになるために、ゆっくりと階段を昇り始めた。


「ティーの瞳は綺麗だな。光が差すと特に」


ティオーナはオルトを見つけると無邪気にニコリと笑う。

小さい体でふわふわの髪をたなびかせ、楽しそうに魔法を使い空を駆け回る姿は妖精と囁かれた。


ティオーナの両親が亡くなったのは6歳の時。


「私が殺した。私の魔法が効かなかった!!」

「ティー、違うよ。ドラゴンの炎に」

「お父様、お母様、ごめんなさい、私が」

「ティー、大丈夫だよ。スフィンもティーも私が守るよ。公爵夫妻は国を守ってくれた。代わりに私が君達を」


国を襲ったドラゴンの討伐により多くの者が亡くなった。ティオーナの治癒魔法はドラゴンの負わせた火傷を治せず、冷たくなった両親の手を握りずっと泣いていた。オルトはティオーナとスフィンを抱き締め慰め、当主不在の公爵家をまとめた。そして窮地を救ってくれたオルトはティオーナにもスフィンにもかけがえのない存在になった。

ラタン公爵家の爵位は王家が一時的に預かり、嫡男のスフィンが成人したら返すことに。そして子供だけでは生活ができないとオルトの強い希望と国王夫妻の恩情で王宮で育てられた。

両親を亡くしたティオーナとスフィンの庇護者はオルトと王妃。傷ついた二人が王宮の庭を駆け回り魔法の練習を始めたのは、いつも側で優しさをくれたオルトと我が子のように愛情を向けてくれた王妃のおかげ。


ティオーナは空からオルトを見つけるといつも腕の中に飛び落ちる。王宮の空で自由に魔法を操り無邪気な笑みを振り撒くティオーナ。

妖精のような愛らしい婚約者に優しく寄り添う王子の姿は多くの者の頬を緩ませた。ティオーナは国王夫妻にも可愛がられ、厳しい王妃教育もオルトとの未来のためなら苦ではなく順風満帆な生活を送っていた。




王妃が病で亡くなり、すぐに王は新たな妃を迎えた。

母のような王妃の死をティオーナやスフィンが乗り越える前のことだった。

母が亡くなったオルトよりもスフィンやティオーナのほうが動揺していた。子供達は三人で寄り添い傷を慰め合っている時に新たな国王夫妻は絆を深めすぐに生まれたのが第二王子タルロ。

タルロのお披露目が近づいた時にオルトは第二王子暗殺未遂容疑をかけられ投獄される。


「国王陛下、誤解です。どうかお考え直しを」

「妃は隠していた。何度かオルトが手を上げるところを、それに侍女からも報告」


ティオーナは捕えられたオルトの弁明のために頭を下げ必死に無実を訴えた。

証言だけで証拠は何もなく、ティオーナが裏を取るとまた証言を変えられる。明らかな冤罪でも国王を敵にしてまでオルトの味方をする者はいなかった。

隣国の姫の次に迎え入れたのはずっと国王が慕っていた令嬢。

国王は豊満な体と美しい顔の欲深い妃に夢中で全て言いなりに。妃が邪魔なオルトを処分したいのがわかったティオーナは、必死にオルトが生き残る方法を考え、屈辱でも顔に出さずに口を開く。


「陛下、恐れながら王族の血を引くのはオルト様とタルロ殿下だけですわ。血を残すために死刑はお考え直しを」

「妃が」

「拷問用にスフィンが恐ろしい森を作りました。そこに投獄させればよろしいかと。外との繋がりができないように森を茨で囲みます。自死もできないように私の操り人形たちに世話をさせます。私も中で常に見張りますわ。タルロ殿下や妃殿下に害をなさないように」

「お待ちなさい。ティオーナ、貴方はオルトの婚約者よ」

「婚約者の過ちを正せなかった私にできるのは」

「王家のためにと?」

「はい。王家のために、亡き両親に代わり誠心誠意お仕えします。育てていただいたご恩に」


ティオーナは王家への感謝を語り続けたがオルトへの付添は許されなかった。

それでもオルトの処刑は免れたので、ティオーナはスフィンとともに夜な夜な必死に魔法で見た目は恐ろしく中は快適な森を作り上げた。仕上げはスフィンに任せ、ティオーナはオルトが投獄されている牢に食事を持って忍び込む。


「きっとお救いします。だからお待ちください」

「ティー、私は気にしないでいい」

「社交デビューのときに成人したらお嫁さんにしてくださるとお約束は」

「情勢が変わった。二人は父上のお気に入りだ」

「二言はないという昔のオルト様の言葉を優先します。ティーの心はオルト様のもの」

「疑われたら殺されるよ。決して近寄らないで。スフィンもまだ幼いだろう?」


生きるのを諦めているオルトにティオーナは抱きつき宥めるように背中に回る手に笑みを浮かべる。


「私の瞳は美しいですか?」

「美しいよ。私の好きな色だ」

「私の瞳はオルト様のもの。貴方以外を鮮明に映しませんわ。オルト様が死ぬなら私も後を追います」

「馬鹿なことは言わない。ティー、人が来るよ」


ティオーナは食事を置いて牢から抜け出し、オルトの新しい家の確認に行く。そして新しく作った大きな眼鏡をかける。

オルトのために磨いた容姿にひかれる求婚者ができないように。


オルトが監獄の森に入ってからティオーナはスフィンを連れて王宮を出て、公爵邸に帰った。大嫌いになった国王夫妻ともタルロとも一緒にいたくなかった。それでもティオーナは妃の気まぐれでオルトが殺されないように頻繁に王宮に通い機嫌を取りながら情報を集める。

計算が狂ったのは妃に気に入られすぎて、第二王子タルロの婚約者に選ばれたこと。


オルトが投獄された時、成人してないティオーナの言葉は誰にも届かなかった。タルロの婚約者に選ばれた時の辞退の言葉も。

ティオーナは眼鏡だけではなく、肌の色を変えて地味な化粧をして、魔法の失敗で容姿が変わったと嘘をつく。

そしてオルトを殺させないために、第二王子を傀儡にする計画を始めた。


あまり勉強のできないタルロの課題も公務も陰で全面的に手伝い、数年後には一見優秀に見えるのに、実はおバカな王子が誕生した。

スフィンは姉の計画と渡された小説に、乾いた笑みを浮かべた。


「姉上、本気?」

「仕込みは終わりました。あとはよろしくお願いします」

「殿下がうまく国を治められるならこのまま、もしも駄目なら」

「ええ。あの方は無駄な血が流れることを望みません。勤勉な方ですから。希代の天才魔導士の姉に生まれて幸運です」

「僕よりも」

「ごめんなさい。スフィン、愛しているわ。でもあの人は特別なのよ。よろしくね。いつでも遊びにいらっしゃい」



ティオーナは第二王子タルロが年下の可愛らしい伯爵令嬢に恋したので、小説で流行しているヒーローになれる舞台を用意した。ティオーナは悪役になりきり、お膳立てをして二人が口づけをかわした場面を上機嫌な笑みで見ていた。スフィンはタルロ達のお助けキャラであるが、肝心なところは傍観者で手は出させない。大事な弟を巻き込むつもりはなく、安全な場所にいてほしい姉心だった。ティオーナがしたのは、行儀や成績の悪さを厳しく責めたくらいで、残りはリンジーの自作自演に乗っただけで法に裁かれることは何もしていない。いざと言うときのために自作自演の裏をとり、自宅に保管してある。取引に使う時が来るとき用に。さらに保険としてタルロには王妃の機嫌を取るポイントを伝えてある。

そして脚本通り断罪されて、最愛の人の傍にいる。

オルトと共に生きるためだけに全てを利用してきた。



「先に騙したのはあちらですわ。私は一度も自分からは仕掛けておりませんわ」

「ティーはまだ怒っているのか」


冤罪にかけられても怒らない器の広すぎる元婚約者。ティオーナは優しい所も好きでも、共感はできない。

あのいまいましい事件の時はティオーナはタウロに意地悪されたか確認したら知らないと言われた。そのときにタウロへの情は一切なくなった。当時はティオーナはオルトとスフィンとばかりいたので、タウロとは顔見知り程度の関係。それでも会えば将来の義弟として特別優しくしていた。


「殿下が否定すれば違いました。優しい兄に傷つけられたことなど一度もないと。全てを優遇される王太子が羨ましかったからって、ちょっとの悪戯でも許されませんわ。それにもう覚えてないんですよ!?あの頭の軽い殿下は」

「内気なティーが変わったな」

「私を変えたのはオルト様です。責任とってください」

「淑女は人を押し倒さない」

「私は魔導士ですよ。オルト様、私にご褒美をくださいな」

「先に食事にしよう」

「お子様ですわ。これから時間もありますしね。もう離しません」


ティオーナの念願の二人っきりの生活は3か月で終わりを告げる。優柔不断な第二王子はティオーナがいないと公務もできない。罪のないティオーナを私刑に追いやった第二王子に批難の目が向き、王太子に相応しくないと囁かれる。

王家の使者としてスフィンが森に足を踏み入れ、幸せそうな姉に苦笑する。


「姉がすみません」

「諦めたよ。スフィン、大きくなったな。ティーを迎えに来たのか?」

「お二人をお迎えにあがりました」

「妃殿下は」

「亡くなりました」

「ティー、何をした?」


オルトは腕の中にいるティオーナに問いかける。


「なにもしてませんよ。伯爵家の作る美容クリームに妃殿下にとっては有害なものが含まれていると教えなかっただけですわ。殿下のお気に入りのご令嬢が取り入るために妃殿下に献上して間違った使い方をして儚くなったなんて、偶然ですわ」

「人を騙すなら騙されても仕方ないですよね。それは姉上も同じですが」

「私は守ってもらいますもの。ね?」


オルトの苦笑を見て、ティオーナとスフィンは顔を合わせて笑う。

面倒見のいいお人好し王子が自分達を放っておけないのを知っている。


「殿下が不適格だったのは自業自得ですよ」

「甘ったれの殿下に王位は無理だろう?」

「私はここで生涯のんびり過ごしてもよろしかったのに」

「バカに育てたのに?」

「私より賢くなって裏をかかれてば困ります。オルト様が殺されないようにしただけですよ。それに誘導しても一度も強制はしてません。選んだのはご本人です。証拠もありませんわ」

「念願の子供もできておめでとう」

「計画通りですわ」


ティオーナの最初の人生設計通りオルトが王太子に戻り、ティオーナは王太子妃になった。

眼鏡を外し、美しい外見を隠すのをやめたティオーナに欠点はない。オルトのためだけに未来の王妃として相応しくなるために努力してきた。いつ戻ってきてもいいように。

タルロは臣下に落とされ、伯爵家に婿入りした。王妃を目指していた伯爵令嬢だけが不満な顔をしていたが、ティオーナは関係ないと知らないフリ。

力のない伯爵家が王家に逆らってもすぐに取り潰せる。いざとなれば、王妃殺害で立証する準備もできている。

仔犬のようなおバカな義弟は怖くない。妃の突然死に嘆く国王に真実は教えず早々に退位してもらう予定である。

ティオーナは愛しい人が生きるために陰謀を巡らす。

内気な妖精は庇護者を失い悪魔に育った。

ドラゴンも瞬殺する天才魔導士一族に王宮が乗っ取られても国は平和だった。恐ろしい天才魔道士一族が従うのは漆黒の王だけ。


「オルト様を傷つけるなら覚悟があるのよね。ふふふ」

「新しい魔法が」

「二人とも落ち着こうか」


温和な王は美しい紫の瞳を持つ悪魔を従える。

ラタン公爵家は国一番の魔道士一族であり怒らせたらいけない一族である。

気に入られれば絶大な庇護者に。ただしその逆は…。


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― 新着の感想 ―
[一言] これこそ悪役令嬢ですね。さすがです。 応援してます。
[気になる点] 登場人物の年齢(特に第二王子)が明確に書かれていないため、冒頭シーンはよくある卒業パーティーかデビュタントあたりだと想像し、また第二王子の口調や浮気相手とのキスなどのワードから、第二王…
[良い点] 話の内容は面白かったです! [気になる点] 年齢的にちょっと無理があるような。第2王子が若すぎて。 第2王妃を側室設定にして同世代にしていたら違和感がなかったかな?と思いました。
2021/01/20 07:59 退会済み
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