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プロローグ
思春期というものは厄介なもので、何でも無い様な用事であっても異性に呼ばれただけで何かあるのではと淡い期待をしてしまうものだ。
そしてそんな状況に置かれた男子生徒が一人、夕日が照らす教室で同じクラスの女子に呼び出されて高鳴る鼓動を抑えながら女子生徒の前に立っていた。
「あの、用事って?」
努めて平静を装っているつもりでも自然と声が上ずってしまい、変な声が出る。
「あの…」
女子生徒の方も緊張しているらしく、目の前に居る男子生徒を直視出来ていない。言いかけた言葉を止め、一度深呼吸をしてから意を決した様に言葉を口にする。
「私を、振って頂けないでしょうか!」
「………へ?」
予想外の発言に思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
今、振って欲しいって言われた?俺が?彼女を?
女子生徒の発言の意味が分からず困惑し、気付くと男子生徒は上手く回らない思考のまま返事をしていた。
「いや、あの…少し…考えさせて下さい!」
そう言うと、恥ずかしさのあまり脱兎の様に教室から逃げ出した。
夕陽に染まる教室には、一人取り残された女子生徒だけが立ち尽くしていた。