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第9話 リベンジ

 ただいま私は草原に来ております。 そう、この草原ではゴブリンにボッコボコにされたのは記憶に新しい。


 何故俺がこうして再びここに降り立ったのかと言うと、当然ながら討伐依頼を受けたからだ。


 あの後冒険者ギルドで歓迎を受けてから、初心者向けの基礎知識を叩き込まれ、俺が生きていくのに必要な魔物退治をすることにしたのである。


 もちろん冒険者なんて職業をやらなくても、もしかしたら他に適した職業があるかもしれない。


 それでもせっかく異世界に来たのだ。 ここでしか出来ない体験をしないのは非常に勿体ないと思う。


 その為に魔物を倒す依頼という名の訓練をするのだ。 といっても、魔物なんて相手にしたこともないので最初はゴブリン退治からだ。 この世界で最弱と呼ばれるゴブリンさえ倒せないのであれば俺はそこまでの人間である。


「ハルト、準備はできてますか?」


「うっうん……」


 正直言うとビビってる。


 よくあるWEB小説だと異世界に降り立ったばかりの日本人が持ってるチート能力を使って盗賊や魔物を殺したりといった定番のシーンがあるが、正直俺には無理だ。 現実にこうした場面に降り立ったからこそ分かる。


 足と手が震えるし、あの時複数のゴブリンに追いかけられ、殴り蹴られた映像がトラウマになっていて脳内に駆け巡る。 恐怖という名の重石が足にへばり付いているのか、何度脳で命令を出しても足が言う事を聞かない。


 それに、俺にはチートなんて便利な物はないのだ。 持っているのはこの健康な体に持っている剣と盾のみであり、それ以外は何もない。


「今回私は貴方を助けません。 私がここで手を貸してしまえば貴方は今の状態から脱することはできないでしょう。 相手は『はぐれゴブリン』一匹。 貴方なら出来ると信じています」


 助けないと姉さんは言ったが、ここで甘えるのは簡単だ。 泣いて縋り付けばいい。


 真剣に頼み込めば彼女は手を貸してくれるだろう。 だが、それと同時に彼女と俺の旅が終わるだろうということがなんとなく予感できる。


 しかし、本当にそれでいいのか?


 彼女に何度俺は助けられた? 容姿が似ているだけの赤の他人の命を救い・介護され、こうして俺に生きる術を教えてくれる。


 一体何度縋りつけばいいのだろう。 段々と甘えてばかりの自分に腹が立ってきた。


 こうして考えてる間ずっと相手が待ってくれるわけがなく、こちらに気づいたゴブリンは俺に向かってくる。


 俺の方が弱いと本能か何かで感じたのだろうか、ニタニタと笑い馬鹿にした顔をしながらこちらへ小走りに駆けている。 こちらへ相手の刃がこちらに届くまで後数十メートルも無い。


 勇気を示せ、男を見せろ。 ここで甘えて縋ればこの先もずっと逃げるだけの人生だ。


 ゴブリンに向かって大きく腕を振りかぶり、後は剣を振り下ろすだけの簡単な作業だ。


 剣を持ち、地を踏み駆ける。 相手に接近するのに30秒もかからない。


 余計な事は考えるな。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 急に雄たけびを上げながら向かってきた人間に驚いたのか、ゴブリンは驚いてその足の歩みを止めてしまった。


 もう剣が相手に届く距離まで近づいている事に気づいた。


 イメージ通り、イメージ通りに右手で剣の柄を握りしめ、その手を天高く手を振り上げ、力いっぱい振り下ろすだけだ。 それだけなのだが、今から殺そうと思った相手と目が合ってしまい余計な感情が俺の手を足を鈍らせる。


 俺は躊躇してしまった。


 近づいたものの、お互い動きを止めてしまったのだが、先に動いたのはゴブリンだった。 例え最弱と呼ばれていても魔物である事に変わりはないのだろう。 攻撃するのを躊躇する何てことがあるはずもなく、こちらが何もして来ないのが分かったのか、手に持っていた棍棒を躊躇なく振り下ろす。


『ギギギ!』

 

 無我夢中で俺は左手に装備した盾で棍棒を防いだ。


 その小さい体のどこにそこまでの力があるのだろう。 盾越しでも躊躇なく振り下ろされた力強い棍棒の威力で『ガン!』と音が鳴り響く。


 俺に攻撃を当てる事ができなかったのに苛ついたのか、顔を顰めながら後ろに後退しようとする。


 「根性ぉぉぉぉぉぉぉ!」


 と俺は力いっぱい叫んで一歩前に詰め寄り、その右手の剣を前に突き出した。


 剣は空気を突き破り、そのままゴブリンの鼻先に届き、躊躇なく抉り掘り進んでいく。 グシュっと音が鳴り、血が吹き出し、肉の繊維を乱暴に突き破る感触が剣から手に伝わって来た。


『ガッ……グギャ――』


 力尽きたのか、ゴブリンは瞳から光を失い手と足の力も失う。


「はぁ……はぁ……」


 ゴブリンの顔から剣を引き抜くと、勢い余ったのか、それとも剣に纏わりついた血が飛び跳ねたのか、血の水滴が俺の頬に付着した。 手でそれを拭うとべったりと赤黒く染め上げられていたその手を見た俺は……。

 

「あっあぁ……」


 人ではない人に似たナニカを殺してしまったんだと今更ながら痛感した。 恐怖がこみ上げてくると同時に喉から胃液がせり上がってきた。


「っゔぇ……ぐぇっけほ……。」


 俺は……俺は自分の為だけに今一つの生物を殺してしまったのだ。 相手は魔物で話も通じない、互いが互いを殺そうとしていた。 それでも……それでも俺は!


 言語化できない色んな思考が頭の中をグチャグチャに心もかき混ぜていく。


 剣を落とし、足が震え悪寒が走る。


「ハルト……恐怖しているのですか?」


「うっうん……俺……俺!」


 顔を上げようとすると姉さんは優しく俺を抱きしめてくれた。


「恐怖してもいいのです。 いいのですよハルト。 その心はこれからも貴方の助けになります」


「恐怖が?」


「えぇ、人は恐怖するからこそ生き残る為に強く、そして思考し努力をするのです。 その恐怖を忘れてしまっては人は人では無くなり、獣と化します。 恐怖を無くした獣は見境無しにその牙を突き刺し、化物と成り果て、いつかその命を散らす事になるでしょう」


「でも……俺は自分の為だけに相手の命を奪って……」


「いいのです。 人と魔物は相容れません。 どちらが命を奪い奪われるかです。 今ハルトがゴブリンを殺した事で、この世界の誰かが救われたかもしれない。 殺さなかったら貴方か私か……もしくは他の誰かが死んだかもしれません」


「他の誰かが?」


「そうです。 貴方はその誰かを救ったのです。 人々を魔の物から救い、そしてこの世界で生きる為に戦ったのですから誇ってよいのです」


 あぁ暖かい――身も心も包まれてる気持ちになる。 俺は瞳から雫を流し濡らしていく。

 

「俺……強くなれるかな?」


「えぇ。 貴方が今の気持ちを忘れない限り」


 俺は右手でその涙を拭いて愛する人に誓う。


「俺、強くなるよ。 今はまだ姉さんに支えてもらってばかりだけど、いつかその横に並んで歩けるように」


「えぇ、いつまでも待っていますよ」


 と頭も思考もスッキリしたのか、元気になったので立ち上がると右手のスティグマが光り輝いた。


「ねっ姉さん……スティグマが光ってるんだけど……えっ!?」

ようやくハルトさんの戦闘シーンを書けました。

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