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第23話 エピローグ

 一体いつまで俺は意識を失っていたのだろう。


 見知らぬ天井……というわけでもない。 一度ここに来た事があるな。


 確か……『治療院』の一室だったか。


 俺は気がつくとベッドの上で寝ていた。


 俺の体は全身に鉛でも縫い付けられてるかのように動かない。


 すぐ側で人の気配がするので首を横に動かすと。


「姉さん……エル……」


 『んぅ……』っと可愛い寝言を言う姉さんとスヤスヤ眠っているエル。


 一体俺はどうなったんだっけ……?


 可愛い寝顔を晒している姉さんとエルの方から天井の方に顔を向けて思考する。


「俺は――」


 そう、俺は負けたのだ。 最後に『インサニア』と呼ばれたあの男に。


 あの男は狂人で異常者だった。


 魔物を使役する実験を行い、『フォレストロード』や『フォレストクイーン』を俺達を襲わせた。


 もし、襲われたのが俺たちではなく新米だけで組まれたパーティーだったら……。


 『インサニア』の暗躍が少しでも遅れていたら……と思うとゾッとする。


 そう考えると結果論であるが、『フォレストロード』が襲ったのが俺達でよかった。


 何とか『フォレストロード』を倒せたから調査をする事ができた。


 だから森の異変を見つけるのが早かった。


 今回の事件を起こした男を見つけて、追い詰めたと思った。


 でも、追いつめられたのは俺達の方だった。


 いや、俺が弱かったからだ。


 『インサニア』の野郎が人の気持ちも生命も何も考えず、自らの欲望だけを満たそうとしてる態度に俺はキレて『死んどけよ』等とイキっていたのにこのザマ。


 自分で言うのも何だが『フォレストロード』や編隊を組む魔物たちに『フォレストクイーン』との戦い。


 この異世界に降り立ってまだ一ヶ月か二ヶ月しか経ってないのに濃い人生を送ったと思っている。


 だから俺はここまで強くなった。


 毎日欠かさずトレーニングをやって、魔物と生命の奪い合いをして『アクセル』というスキルも覚えた。


 『フォレストロード』を倒して『エアリアルブレード』というスキルも覚えた。


 グスタフの爺さんに『レクスシーヴァ』という剣も打ってもらった。


 編隊を組んだ魔物と戦った時に倒したオークから『タフネス』というスキルも覚えた。


 『フォレストクイーン』をエルと姉さんと協力して無事に倒す事もできた。


 これらのおかげで、この世界に降り立った時とは比べられない程に強くなったと思っている。


 だけど、あの男には届かなかった。


 あの男は強かった。 いや、強すぎたのだ。


 姉さんの不意をついた剣も安々と受け止める。


 技量の高さを見越して相手の行動まで予測して戦ってみたが、それでも届かない。


 姉さんとエルと協力してインサニアを追い詰め、動けなくした上で大技を放ったが、やはり届かなかった。


 男は無傷で立っていたのだ。


 その姿を見て、俺は……正直半ば諦めていた。 この男には絶対に勝てないのだと。


 俺が油断してエルがやられた。


 俺が諦めたから姉さんがやられた……。


 悔しくて悔しくて、血でも肉でも記憶でも何を捧げてもいいから力が欲しいとスティグマに誓って……。


 それでもあいつを殺すことはできなかった。


 気がつくと俺は殺される一歩手前で――そして見逃された。


 そう、見逃されたのだ。


 今思えば、あいつは最初から遊んでいたのだろう。


 エルも姉さんも……そして俺も殺すチャンスなんていくらでもあった。


 いつでも俺達を殺すことができたのだ。


 思考に陥っていると、側にいる姉さんとエルの方から「「うぅ~ん」」と声がする。


「ハル……ト?」


「んにゅ……ハル? ……ハル!」


「姉さんにエル……おはよう」


「目覚めたのね、良かった……」


「おはようじゃないわよ! ハルの癖に心配させて……」


「エル、泣いてるのか?」


「なっ泣いてないわよ!」


「それはそうと、姉さんにエルは体大丈夫なの?」


「私もエルも大丈夫ですよ」


「流石に治ってるわよ。 私やお姉さまより、ハルの方が重症なんだから」


「そうですね。 かれこれ……あれからもう一月も経っているのですから」


「――え? 一月? 俺一ヶ月も寝てたの!?」


 一ヶ月も寝ていたというのを聞いて、頭が一発で冴えた。


 まさにタイムスリップでもした気分だ。


「えぇハルト、貴方はあれから一ヶ月も寝ていたのですよ。 外傷が癒えても目覚めないのですから、本当に心配したんですよ」


「あいつにやられて……一ヶ月も……そうか、そうなんだ――」


 悔しい、悔しい。


 あんな男に。


 自らの欲望を満たす事しか考えてないあのクソ野郎に。


 俺の技量も、強さも、そして俺達の絆も。


 全てをあの男に蹂躙された気分だ。


 俺の全てをあいつに否定された気分になる。


 悔しさや俺の弱さに涙がとめどなく流れていく。


「どっどうしたのよハル!」


「ハルト……」


 泣いてる子をあやす様に姉さんは俺の頭を撫でてくれる。


「姉さん……姉さん、俺……俺のせいでエルが……姉さんが……」


「ハル……あんた私を勝手に殺さないでよ」


「エルの言う通りですよ。 あんな男に殺される程柔な鍛え方はしていませんよ」


「でも……俺が……俺がもっと強かったら……」


「ハル……あんた何自分のせいだと思ってるのよ。 ふざけんじゃないわよ!」


「エル……?」


「あの男が魔族だと分かって日和ってしまったし、精一杯やっても、あの男を牽制して足止めしかできなかった。 私が弱かったのは私のせいよ」


「私も……私も、あの男が敵だと分かった途端にわれを失ってしまいましたし、あんなに憎い敵なのにも関わらず、手も足も出せませんでした。 私に出来たのはハルト、貴方を守るだけでした。 だからハルト、貴方だけのせいじゃないのです。 エルも、そして私も。 『時の絆』みんなの力が足りなかったのです」


「姉さん……でも……俺、俺……!」


「悔しいですか? ハルト」


「うん……う”ん、姉さん……! 俺、俺……悔しい……悔しいよ!」


「こうして貴方は泣いているだけですか? あの男がどうして私達の命を奪わなかったのか。 それは分かりません。 ですが、こうして私達は生きています。 まだ立ち上がる事ができるはずです。 それとも……ハルト、貴方は此処で立ち止まりますか? あの男に負けたままで悔しくないのですか?」


 そんな訳ない、悔しいに決まってる。


 いつの間にか俺はシーツを強く握りしめていた。


 鉛のように重い体にムチを打つように奮い立たせて姉さんに詰め寄って。


「んなわけねぇだろ! 悔しくないわけないだろ! 俺は……俺はこんな所で――」


 続きを紡ごうとしたが。


「立ち止まれない。 そうですよね? ハルトもエルも、そして私もこんな所で立ち止まるわけにはいかない。

なら強くなりましょう……もっともっと誰よりも強く。 一緒に『時の絆』みんなの力で今度こそ」


 姉さん……本当に姉さんには敵わないな……。


「そうよ、ハル。 今度は……今度はあんな奴に負けない。 今度こそあいつに勝つのよ!」


 既に勝つ気満々の顔をして……。


「姉さん……エル、ごめん。 俺、どうかしてたよ。 二人のいつ通りだ。 もっともっと強くなって、今度こそ、今度こそ負けない。 手伝ってくれる?」


「当然です。 次こそ倒しましょう」


「当たり前じゃない! 今度は絶対に負けないんだから!」


 窓から見えるこの青空のどこかに『インサニア』お前はいるのだろう。


 待っていろ。


 今度こそ、今度こそ俺達『時の絆』はお前を倒す。


 絆を更に強く深めた俺達は手を強く握り合って誓いあった。

今話で三章終了となります。

次章は4章! 連載再開は年内中ということで……(がんばります)。




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