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第4話 見知らぬ天井とレティシア・ヴァレンシュタイ

 嗅ぎなれない匂いに目が覚めた。 目を開けると見知らぬ天井が見える。


「壮大な夢オチだったらよかったのに」


 上半身を起こすと頭に痛みが走る。


「痛っ……」


 触った感じ誰かに手当てをされたようだ。


「何処だろここ」


 部屋の中を見渡すと、木材の壁に天井、例えるならキャンプ場にあるコテージみたいな感じと言えばいいのだろうか。 ちょっとした棚と机、それに俺が座っているベッドぐらいしかない質素な部屋だ。


「ってことは昨日の事はやっぱ現実だよな……」


 確か見知らぬ草原でいつの間にか大の字に寝ており、歩けど歩けど人に会うこともなく、ようやく見つけたら肌が緑色の化物だ。


 あの時腹が立ったからといって石なんてぶつけずにそのまま逃げていれば……。 結局走って逃げたけど追いかけられてボコボコにされて、そこで……


「そうだ、あの女の人――」


 誰だ? と声を出そうと思ったらドアが『ガチャリ』と音を立て開いていく。


 とっさに布団を肩まで持ち上げる。 俺は怖がってる女子かよっと内心ツッコミを入れながら、中に入ってくる人物の顔を見た。


 風に流れる綺麗な長い髪に、小さな顔には大きな瞳と小さい口が綺麗に収まっている。 見たこと無い美人で俺はつい見惚れてしまった。


「起きましたね、心配しましたよ」


「――」


「どうしました? まだどこか痛む所がありますか?」


「えっと……その……」


「あんなことがあったばかりですものね。 今日はもう日が落ちてるからこのまま休みなさい」


 あんなこと? 俺は昨日あった出来事を思い出す。


 ボコボコにされて、もうすぐ死ぬと思った所でこの人に助けてもらったんだ。


 それで気絶したばかりか……。 チラッっと布団の中を見ると、既に着替えさせられた後のようだ。


 俺は顔が熱くなっていくのが分かる。 そうだよ、この歳になって漏らすなんて……。


 あぁ……


「死にたい……」


「そんなこと言わないで。 折角――折角こうして逢えたのよ!」


「え? いや、その……すみません……。 じゃなくて、貴方が助けてくれたんですよね? 本当にありがとうございます」


 そうだ、何恥ずかしがっているんだ。 助けてくれた命の恩人じゃないか。 俺と誰かを勘違いしてるみたいだけど。


「あと……大変失礼で申し訳ないのですが、俺達どこかで遭いましたか? その……多分初めてだと思うのですが……」


「え?」


「え?」


「「……」」


「そういえば……あの時頭から血を流していましたから記憶が混濁しているのでしょう。 大丈夫です、これからは私がいつまでも一緒ですよ」


「いや、そうじゃなくて、記憶を無くしたとかじゃなく、本当に知らないんです、貴方の事を……。 そういえば自己紹介がまだでしたね。 俺の名前は『天城 春斗(あまぎ はると)』と言います」


「あ……まぎ……はると? 何を言ってるのでしょう? 貴方の名前は『クルシュ・ヴァレンシュタイン』。 私『レティシア・ヴァレンシュタイン』の弟です」


「クルシュ・ヴァレンシュタイン?」


「そうです。 姉である私が貴方の顔や声を忘れるわけがないでしょう。 それに右手の甲にあるスティグマ。それは我がヴァレンシュタイン家を継ぐものに現れるもの。 この世に2つと無いものです」


「すてぃ……ぐま?」


 熊か何かの一種だろうか? この右手にある痣は物心ついた時からあったもので、いつもどこでもナニをする時でも常に一緒の相棒だ。 熊の一種でもなければ、令呪でもなければ、スティグマなるものでもないはずだ。


 もしかして、俺の中に眠っていた隠されたチカラが現れたのか!? まぁそんな訳ないんだけど。


「えぇ。 ヴァレンシュタイン家当主を継ぐもののにみ現れるもので、私達のお父様やお爺様含め、かつてのご先祖様全てがそのスティグマを右手に宿したと伝えられています」


 レティシアさんは心の底から信じているのか、優しくも、だけど少し悲しそうな顔をして俺に語りかけてくる。


 どこかでクルシュ……弟さんとはぐれたのかな? 残念だけど俺は天城 春斗(あまぎ はると)であってクルシュ・ヴァレンシュタインじゃない。 ここはハッキリ言っておかないと……。


「レティシアさん。 記憶が混濁しているわけでもなく、記憶喪失でもなく、本当に俺はクルシュ・ヴァレンシュタインではないんです。もう一度言います、俺の名前は天城 春斗(あまぎ はると)。地球……日本に住んでいる18歳の大学生です」


「いやだわ、レティシアさんだなんて。 お姉ちゃんでしょ、クルシュ」


「いや、あの……レティ――」


「お・姉・ち・ゃ・ん」


「――ね……姉……さん」


 うわー恥ずかしい! 初対面の美人の人にお姉さんプレイなんて! なんだよこの恥ずかしい罰ゲームは。


 本当にありがとうございます。


 ってそうじゃなくて、これ絶対俺の言ってること信じてないじゃん。


 赤らめた顔をチラッと上げるとほっぺをプクーッっと膨らませて怖い顔(怖くない)して俺を睨んでいる。




 か わ い い




 あぁ~可愛すぎて尊みが深いわ(語彙力)。


 なんだよこの反則級の可愛さ。 俺を生んでくれて母さん・親父ありがとう!


「こちらの顔をジーっと見つめてどうしました? やだ、もしかしてご飯でもついてるのかしら?」


 そう言いながら顔をペシペシ触っている。




 か わ い い




「もう、何もついてないじゃないですか。 そんな意地悪していると女の子にモテませんよ?」


 と言いながら恥ずかしがっている。


 そんな顔をされるとこちらも恥ずかしくなってきた。 ずっと心臓がドキドキ鳴りっぱなしだ。


「ほら、色々ありましたからもう寝なさい。 私は隣の部屋にいますから、何かあったら呼ぶのですよ」


 そう言い残してレティシアさんは部屋を去っていった。


「なんだったんだろう……アレ」


 体をベッドに倒して天井を見上げる。 結局レティシアさんとの勘違いは解けずに終わってしまった。


「いや、アノの顔は……」


 笑っている顔も、恥ずかしがってる顔の時も、どこか悲しみと憂いを帯びていたように見えた。


「それに……いや、もう寝よう。 あっここが何処か聞き忘れたけど……まぁいっか。 今日の俺は終了、全ては明日の俺に任せるとするか」


 いつもより硬いベッドに身を包んで俺の意識はまどろみの中に消えた。

レティシア「18歳だろうといつまでも可愛い可愛い私の弟です(プンプン)」

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