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第19話 光と翠緑の輝き

 もうこのタイミングなら避けれないだろう。


 躊躇する事もなく全力で振り下ろした俺の剣は、相手の顔にどんどん近づいていき、やがてその刃は皮膚をも通り、裂けた内側から血が流れ、骨も、その更に深くにある臓器もまとめて斬り裂いていく――はずだった。


「――は?」


 しかし俺の目に映っているその光景は臓器も骨も斬り裂かず、皮膚すら裂けず黒く細長い細剣のような物で止められている。


この男の技量は俺の想像を遥かに超えていたのだ。


「あぁ、あぁ! いいねぇその驚いた顔! もしかしてこのまま斬り裂けると思ったかい? ふふ、そんなに私は柔じゃないよ」


 チッチッチッと人差し指を横に振るう。


 黒く細長い細剣のような物は指先から伸びており、この男の爪のようだった。


 なんだよこいつ、アメコミヒーローかよ。 少し格好いいと思ったのは秘密だ。


「そんなに長い爪を伸ばしてお洒落のつもりか?」


「少し怯えた表情も唆るね。 以外とこれは便利なんだよ。 武器を持たなくてもいいし、油断してる相手のスパッとね」


「……そうか――よ!」


 幾度か剣で叩きつけようとするが、その全てを両手の指先から伸びた黒くて長い爪で受け止められる。


 俺は剣を下から斜めに全力で斬り上げて後方に飛ばす。 その飛ばした先に……。


「はぁぁぁぁぁ!」


 姉さんは全力で剣を叩きつけようとするが、視覚外の攻撃なのに横へそれて回避した。


 しかし『時の絆』は二人だけのパーティーじゃない。 攻撃の手を緩める事もなく、エルが矢を放ち、男を射抜かんと攻撃する。


 男はその矢すらも乱暴に右手を振るい、叩き落とした。


「ちっ。 逢瀬の邪魔をする奴等だ。 邪魔だな……」


「おいおい、俺の前で余所見するんじゃねぇよ!」


 俺は剣を横薙ぎに払って絶え間なく剣を振るう。 こいつに休ませる隙は作らせない。


 今度は上段から振り下ろすが、これも右手の爪で受け止められる。 そこに反対方向から姉さんが斬り込んでくるが、左手で受け止められてしまう。


 男の両手が塞がった所でエルが風を纏わせた矢を放つ。


「『風の精霊シルフよ、疾風と為りて我が仇敵を穿ち貫け!』」


 これはエルが俺と訓練場で戦った時に使った技だ。 通常の矢と違い、風の精霊シルフの力を借りて風を纏わせ、威力を上げて追尾の矢を放つ事ができる。


 威力は既に俺の身体で実験済みで折り紙つきだ。


 男は矢が当たる前に俺と姉さんの剣をその爪で弾き、身体を横に動かして避けようとするのだが、風のシルフの力が宿った矢は威力を増して男の胸元を抉るように突き進もうとする。


 その威力はあの時と違い、確実に相手を撃ち貫こうとしているのか、矢は土煙を纏いながら突き進んでいく。


 避けれないと判断したのか、男は両腕を交差させてその矢を受け止めた。


 威力の上がった矢は男の爪に喰らいつき、どんどん後方へ押していくのだが……。


「これも受けきるなんて……」


「ハルに撃った時よりも倍の魔力も使ったのに……」


「しかし諦めてはなりませんよ」


「そうだね」


 交差した腕を解いて顔をこちらに向けてくる。


「楽しいなぁ……楽しいな! スティグマの持ち主よ。 ――それでも……本当に邪魔だなぁ……そこの害虫二匹は。 私達の逢瀬を邪魔しないでほしいよ」


「姉さん、『フォレストクイーン』の時に使ったスキルはまだ使える?」


「えぇ、ただし1回だけです」


「――エル、いいな?」


「うん。 分かってる」


「じゃあ姉さん……頼んだ」


「私を無視した相談事はもういいのかい?」


「うるせぇよ!」


 この男を休ませない為に俺は『アクセル』を使って攻め続ける。


 今『時の絆』で一番火力があるのが姉さんだ。


 何とかエルと協力して、こいつを足止めしないといけない。


 この男も流石に姉さんのあの魔法が直撃すればただでは済まないだろうと思う。


 今の俺とエルに出来る精一杯で何とかこいつを止める。


 右方向への横薙ぎも繰り出すが、躱される。 俺は止まらずに左足を一歩前に強く踏み込み、下から上に向かって剣を振り上げる。


 男の鋭い爪でこれを防がれるが、丁度いいタイミングでエルが精霊の力を纏わせた矢を放つ。


「『風の精霊シルフよ、疾風と為りて我が仇敵を穿ち貫け!』」


 男は左手でその矢を受け止めようとするが、やはり精霊の力を宿した力は強烈だ。 片手で防ぎきれずに体は後方へと押され始めた。


「くぅっ……」


 初めて男は苦悶な表情を俺達に晒した。 これはチャンスだ、このまま流れを掴む!


「うおぉぉぉぉ!」


 剣を両手で強く握り、剣を強く上に振り上げる。 男が苦悶な表情を見せていたからなのか、ついに剣は男の爪を弾き返して体が仰け反った。


 この状況では致命的だ。 体の体制が崩れた事で左手で抑えつけていた力も弱まり、矢の進行を許してしまう。


 エルは少し苦悶の表情を見せながら、もう一本精霊の力を宿した矢を放った。


「もう一本喰らいなさい! 『風の精霊シルフよ、疾風と為りて我が仇敵を穿ち貫け!』いけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 放たれた矢はどんどん加速していき、やがて男の左肩と右肩に突き刺さった。 突き刺さった矢はそのまま男の体に突き刺さったまま、威力は弱まる事もなく後方へ押し上げていき、体を壁に縫い付けた。


「がぁぁぁぁぁ!」


「これで最後よ! 私のありったけの魔力!」


 エルは両手を地面に叩きつけ、全ての魔力を放出した。


「『風の精霊シルフよ、我が仇敵をこの地へ縛りつけ、その身を束縛せん!』リガートゥル(樹木の)アルボス(繋縛)


 男の周囲の壁と地面から突如樹木の枝や蔓が生えていき、男の両手・両足を縛り付けて動けなくした。


「くっ……!」


「はぁ……はぁ……うっ――」


 エルは全ての力を出しきったのか、体がうつ伏せに倒れていく。


「エル!」


 エルは顔をこちらに向けて。


「ハル! お姉さま、今よ!」


 姉さんはありったけの魔力をその剣に込め、天高く上げられた剣からは、強い光りを放ち空を突き抜けんとする光の柱を伸ばしていく。


姉さんが『フォレストクイーン』と戦った最後に見せたあの魔法を思い出す。


 スティグマは俺に呼応したのか光り輝きだした。


 俺はそんな姉さんの隣に立ち、両手で剣を上に掲げて力を込める。 魔力は俺の両手から剣に纏わりつき、無色の魔力は翠緑に染め上がっていく。


 染め上がった魔力は翠緑に輝いて、その光の柱は空へと突き抜けるように伸びていく。


 やがて光り輝く柱と翠緑に輝く柱、二本の光が穿たれている天井を突き抜け空へと伸びていった。


 俺は姉さんの方へ顔を向ける。


 姉さんも俺の方へ顔を向けていた。


 もう言葉はいらない。


 男を睨みつけて、俺達は最後の力を振り絞る。


 右手のスティグマが光り輝いてその名と詠唱文の存在を俺に示す。


「『レティシア・ヴァレンシュタインの名において彼ノ者に終焉の輝きを燈さん! アウラ(新たなる)ノヴァ(終焉の)フィーニス(輝き)』!」


「『クレシュ・ヴァレンシュタインの名において彼ノ者に翠緑の輝きを燈さん! アウラ(新たなる)ノヴァ(翠緑の)ウィリディス(輝き)』!」


 俺と姉さんは同時に両腕を振り下ろす。 振り下ろされた光と翠緑二本の柱は混じり合って一つに溶け合う。


 溶け合った光り輝く翠緑の柱は奔流と共に男の全てを飲み込んでいった。

合体技ってロマンありますよね。




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