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第18話 届かない剣の刃

視点がハルトに戻って、16話の続きになります。

 異世界に来て、俺がこんなに殺意が芽生える相手に出会えるなんて思いもしなかったよクソッタレ。


 俺にそんな気持ちを有り難い事にプレゼントしてくれたこのフードの男は仕留めなければならない。


 不意打ちは卑怯? 上等だよ。 殺し合いに卑怯もクソも無い。 姉さんの剣を片手一本で受け止めた相手なんだ。 今の俺の全てを使ってこいつは仕留める。


 ――『アクセル』


 普段は身体の戦闘状態の事を考えて移動時にしか使ってないけど、今回ばかりは全力だ。 もちろん考え無しってわけじゃない。


 この男から魔物の群れをプレゼントしてくれたときに倒したオークから覚えた『タフネス』のスキル。 もしこれが俺の想像通りのスキルなら『アクセル』を使いながらの戦闘でも多少は耐える事ができるはずだ。


 俺は剣を振りかぶり、この男を真っ二つにする勢いで振り下ろす。 相手は俺の攻撃を事前に知っていた様にそっと一歩後ろに下がる。


 たったそれだけの軽い行動で俺の剣は軽やかに避けられた。


 避けられるんじゃないかと思っていたが、こんな簡単に避けられると凄く悔しい。 だが、俺もこのままってわけじゃない。


 避けられると分かっていたからこそ、俺は右足を一歩さらに前に突き出して逆袈裟に斬り上げる。


 そのフードの下に隠れた顔を見せてもらうぞ。


「おっと」


 男は更に一歩後ろに下がるが、二連撃は予想してなかったのか下がるタイミングが少し遅れてしまったようだ。


 俺の剣先がほんの少しフードの上部を斬り裂き、剣の風圧でそのまま隠れた素顔を世界に晒した。


 フードの男は長い銀の髪をしており、肌の色は血色が悪く少し青白い。 目の色は真紅のように深い赤に全ての光を覆い尽くさんとする黒い瞳が宿っている。


 姿形は人間であるが、決して人間と同じ存在ではないと俺の感がそう告げていた。 そんな中、後ろの方でエルの声がする。


「そんな……まっ魔族……何で……」


 俺はこの男から顔を逸らさずにエルへ声をかける。


「おい、エル。 魔族ってなんだ」


 魔族って言えばファンタジー御用達のあの魔王とか? ドで始まりトで終わるあの有名なゲームの魔王の姿が脳内を横切る。


 『世界の半分をお前にやろう』のセリフが出てくる辺り、まだこの世界に染まり切っていないみたいだ。


「それは――」


 エルの声を遮って、魔族らしき男が声を紡ぐ。


「スティグマの持ち主よ。 そんな永く時を生きるだけの虫へ意識を向けるなんてヒドイじゃないか。 そこの虫が言った通り私は魔族だよ。 と言っても、魔族なんて種族を知ってるのはヒトの中でもエルフと呼ばれる森で怠惰にも時間を浪費するだけの奴等ぐらいだけどね」


「――魔族とは、私達『ヴァレンシュタイン』家の一族がはるか昔に討滅したヒトに仇なす存在です。 といっても遥か昔……長寿であるエルフですら気が遠くなる昔のお話ですよ……。 あぁ、だからこそ貴方はあの時、私達一族を狙って……そして弟を……」


「ハハハ。 流石はスティグマの持ち主の姉だな。 やはり君達一族は()()の事を知っていたか。 確かにあの時君達一族を狙ったのはスティグマの持ち主だったからさ。 でも私の本音は変わらない。 スティグマの持ち主であるキミに逢いたかったからさ! 結構これでも私は本気なんだよ?」


「熱烈なラブコールありがとうよ。 でも俺はお前に逢いたくなんてなかったよ」


「つれないね。 でもこれからはキミから私に逢いに来てくれる。 そうだろ?」


「いや? ここでお前を殺して終わりだよ。 ――行くぞ、姉さん・ハル」


「えぇ、ここで絶対に貴方を討滅します」


「そうね。 魔族と知った以上は絶対に逃さないから」


 『アクセル』を全開にして魔族の男に突っ込んでいく。 男は俺から目を離さないみたいだし、このままこいつの注意を牽きつけるように立ち回る事にした。


 一撃二撃三撃と剣を振るうが軽く躱される。


 戦闘で大事なのは常に冷静を保つ事。 こいつがどれだけクソ野郎だったとしても、怒りに任せた剣は軽くあしらわれるし、視野がどうしても狭くなってしまうのだ。


 また大事なのはテンポを掴ませない事。


 俺はどうしても経験が浅い。 このまま同じ速度で剣を振り続けたら俺のクセを読み取ってしまうだろう。


 こいつは俺の剣を常に紙一重で交わしている。 まるで踊るように楽しそうな笑みを浮かべて。


「ほらほらどうした? スティグマの持ち主よ」


「くっ……舐めるな!」


 だからこそ。


 俺は横薙ぎに剣を振りきり、そのまま体を一回転してる最中、腰に装着している短剣を引き抜いて、それを相手の右胸に刺さるように投げつけた。


 投げつけた短剣は相手の右胸に吸い込まれるように進んでいくが、これも躱されてしまう。


 避けられると思ったのであれば、どうするのか。


 問題、自分の右胸に真っ直ぐ短剣が迫ってきてるがどうやって避ければいいのだろう。


 答えは反対方向に体を動かせばいい。


 こいつの技量がどこまであるのかは分からないが、それでも不意をついた姉さんの剣を片手で受け止めたんだ。 俺の連撃も、その間に短剣を投げつけて工夫したとしても避けるだろうと信じていたのだ。


 だから俺はこの男が左に避けていく方向に向かって剣を振り下ろせばいい。


 避けたと思った先に剣が振り下ろされたのを知った男は、先程までのニタニタした顔から一転して驚いた顔になる。


 もうこのタイミングなら避けれないだろう。


 躊躇する事もなく全力で振り下ろした俺の剣は、相手の顔にどんどん近づいていき、やがてその刃は皮膚をも通り、裂けた内側から血が流れ、骨も、その更に深くにある臓器もまとめて斬り裂いていく――はずだった。

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