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第17話 初めから壊れていた男

視点が主人公のハルトから、フードを被っている男視点になります。

時系列的には少し昔のお話になります。


また、全体的に凄く陰湿で暗くキツいお話なので、そういうのが無理な人は次話をお待ち下さい。

 私が初めて命を奪ったのは幼少の頃。 飼っている愛犬を眺めていてふと考えた。


 この愛犬が死んだらどんな感情を私は抱くのだろうかと。


 我々の種族は魔族と呼ばれている長命な種族である。かつて人間の英雄と呼ばれる者達と戦争をしていた。


 そんな中、魔族の王である魔王は英雄に敗れ、世界から魔族は根絶やしにされたと人間の間には伝えられている。


 しかし、魔術に優れていた我々魔族は英雄を騙し、世界を騙して生き残り、少ない人数が隠れ住み、こうして今も僅かながら生き残っていた。


 そんな生き残った魔族は長命な為に記憶から消える事もなく、今でも皆ヒトに怯えて生活をしている。


 ヒトに干渉せず、世界にも干渉せず、閉じた小さい世界の中で奮えて怯えて死に怯え、臆病になっており、かつてのヒトを見下し、世界の全てを手にする等といった野望は魔王が堕ちた時と同時に跡形もなく消え去っていた。


 そんな暗く閉じた世界で、生物の『生』と『死』に興奮している私は、この暗く閉じた世界の中で異質で異物だった。


 感情がとめどなく溢れ、自らの欲望という名の気持ちに抗う事はできずにいる私は、集落の傍にある立ち入り禁止の森へ入り、元気に走り回る無邪気にじゃれつく愛犬が私の目を見つめていた。


 そして……そして……愛おしく――愛おしく――愛おしく――愛おしいからこそ私は手を血に染めた。


 地面に落ちていた少し大きな石を使う。


 魔法が得意だった私は愛犬を魔法で束縛して逃げられないようにした。 そして大きな石を愛犬の頭に振り下ろした。


 石を通して手からグチャリと肉と骨が潰れる感触が伝わると同時に、何とも言い難い感情が私の脳髄を駆け巡る。


 身体の中へ何かが入ってくる。 入ってくる度に私の身体は苦しむのだが、逆に心が満たされていくのを感じた。


「ん……///」


 何とも言いようのない苦しみと快感に自身の下着がいつの間にか濡れていた。


 自然に口を横に広げて笑っていたのに驚いた私は、この感情無くさないように自らの身体を抱きしめた。


 集落戻ると、禁止されている森へ立ち寄った事を集落の皆から怒られ、そして母と父は愛犬の死を悲しみ、私の無事を喜んで涙した。


 私は早々とベッドで横になり、涙を流す両親の姿を見て私は笑っていた。


 初めて他者に愛情を注いだ生物を自らの手で殺した時の感情は、悲しいでもなく、怒りでもなく、恐怖でもなく、後悔でもなく、悔いる事もなく、乾ききった口の中に一滴の水滴が舌を通して全身を駆け巡る時の、嬉しさ・喜び・感動・快感。


 窮屈で窮屈でたまらない小さな世界の住人でしかなかった私にとって、始めて心が満たされたのだ。


 しかし幼い私にとってそれ以降大人達に見張られ、森へ入る事もできずにいた私は、心へ一滴の水滴でさえも満たす事は出来なかった。


 あの満たされた感触を味わう事が無いまま月日だけが無情にも過ぎていき、やがて一人の女性が私に恋をする。


 幾度も幾度もお互いの体を重ね合わせても私の心は一向に満たされなかった。


 ベッドの上で仰向けになる彼女は、生まれたままの姿で乳房を秘所をこちらにさらけ出して見つめてくる。


「愛しているわ……」


 彼女の目は熱を帯びた目をしており、そんな彼女の顔を見ると幼少の頃の記憶が再び蘇る。


 肉や骨が潰れる感触や血の臭いが。


 私は彼女を抱きしめ、体を重ね、そして一つになる。 何度も上へ下へと動く度に、甘美な声を上げている。 私が彼女の奥へ奥へと突き進む度に、私の手が段々彼女の首へと近づいていく。


「あっ……が……!」


 そして――。


「あ”っ……」


 いつの間にか私は一心不乱に腰を押し付けて、彼女の奥へ白濁した体液を出して果てていた。


 気がつくと彼女は瞳を上に上げて白目を晒しており、口からは多量の泡を吹き出して絶命していた。


「あぁ……」


 私の渇ききっていた心は今満たされている。


 あの時、あの場所で愛しい愛しい愛犬をこの手で殺した時と同じだ。


 やはり私は間違っていなかった。 愛する者をこの手で殺めた時の感情や身体の苦しみが私の心を満たしている。


 しかし、私の心という名の水瓶には底に穴が空いているのか、せっかく満たされたにも関わらず徐々に減り、やがて枯れていく。


「嫌だ……」


 もう嫌だ。 乾ききった飢える生活に戻るのは。


 この時にようやく私は分かってしまったのだ。 この小さく暗い陰湿な世界で、異物は生きていけないのだと。


 それを自覚する途端に私の世界は明るくなった。


 自らの生を求めるように、野生の動物が生きるために他者を食い殺すように、私は自らの心を満たす為に一人ずつ一人ずつ肉を裂き、内蔵を引きずり出し、血を滴り眺め、悦に浸る。


 より効率的に行えるように魔力で斬り裂く爪を伸ばし、自らの身体も作り変え、また一人また一人と心の糧にしていく。


 親も幼馴染も友人も隣人も一人一人、丁寧に丁寧に心の糧にしていった。


 血を啜り、肉を喰らい、いつしか心の赴くままに獣と成った私は世界を見渡すと、いつしか一人になっていた。


 孤独になった。


 一人になった。


 また暗くなった。


 また心が渇いた。


 だから壊れた。


 だから求めた。


 そして私は小さな世界を壊していた。


 そしてより大きな世界を求めた。


 小さな世界から一歩踏み出すと、空は広大だった。 こんなに広いならどれだけ私の心を満たしてくれるのだろうか。


 しかし、広大な世界は私にとって残酷な世界だった。


 余りにも脆弱だった。 我々魔族を滅ぼしたと言われていたヒトという種族も、そしてそんな脆弱な種族に一方的に搾取される魔物も。


 私は悟った。 広大なこの世界でも私の心は満たされないと。


 だから自らが壊した世界の残骸から知識を吸い出し、読み取り、知った。


 そして知ってしまった。 我ら魔族の王である魔王を滅ぼしたスティグマの持ち主である英雄が今でも存在していると。


「逢いたい。逢いたい。逢いたい。逢いたい。逢いたい。逢いたい。逢いたい。逢いたい。」


 だから。


「逢いに行こう。 私の心を満たしてくれる存在に。 私の愛しい愛しいスティグマの持ち主へ」

次回から時系列が元に戻ります。



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