第12話 群れる魔物達との戦い:後編
20体もの魔物の群れを返り討ちにした俺達は勝利の余韻に浸っていたのだが、まだ戦いは終わっていなかったのだ。
「1……10……だめ! すごい数でこっちを囲むように向かってきてる!」
「エル、何が来てるか分かるか?」
「この速度……フォレストウルフ!」
「みんな構えろ!」
エヴァンズの号令と共にお互いの背中を守るように輪になっていく。
「リタ、姐さん、カイエ、エルネストはルージュとハーリィー守ってやってくれ、ハルトは俺と一緒に蹴散らすぞ!」
「おう!」
幾許もしない内にフォレストウルフの群れがやってきた。
『グルルルルルル』
「なんて数だよ……」
フォレストウルフが俺達を囲むように周囲に展開している。
「怯むんじゃねぇ! 弱みを見せると死ぬぞ!」
俺はエヴァンズの叱咤で気を取り戻して剣を構える。 そうだ、こんな所で死ぬわけじゃない。
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
真正面から向かってくるフォレストウルフを斬り殺し、そのまま右後方にいる個体を横薙ぎに一閃する。
しかし、数が多くて俺の側をフォレストウルフ達が通り過ぎていく。 数で押して後方にいるやっかいな魔法使いから先に噛み殺そうと考えるぐらいこいつらは賢いのだ。
「くっ……」
後方に戻ろうとする俺に声が掛かる。
「前を向きなさい!」
「姉さん……」
姉さんは持っている盾でフォレストウルフの顔を殴りつける。 衝撃が強かったのかボキッと首の骨が折れる音が聴こえる。
「後方は私達がいます。 安心して敵を蹴散らしなさい!」
俺が呆けている間にフォレストウルフが俺の首に噛み付こうと飛びかかってくる。
この距離ではもうアクセルを使っても避けきれない。 こんな所で俺は終わるのか? そう考えていたら一本の矢が飛びかかってくるフォレストウルフの横顔に突き刺さる。
「ハル、何ボーッとしてるのよ。 ほらっ行きなさいよ! 後方からあんたを援護してあげるから」
本当に皆強くて頼りになるよ。
「おう! 背中は任せた」
もう後ろは見ない。 俺は前を向いて敵を倒すだけだ。
背中は姉さんやエルに『戦神の矛』の皆がいるんだ。
いくぞ、レクスシーヴァ!
「おぉぉぉぉぉ!」
『アクセル』を使って地を踏みしめる。 土が捲り上がるままフォレストウルフの元へと駆けていく。
レクスシーヴァを逆袈裟に斬り上げて前方の個体を斬り殺す。
「一体!」
そのまま身体を回転させて横の一閃して飛びかかってくるフォレストウルフ二体を一閃させる。
「これで三体!」
今度は腕を上段に構えて袈裟斬りにする。
「四体目!」
しかし、先程斬り殺した個体の後ろに隠れていたのか別のフォレストウルフが現れて右腕に噛み付いてきた。
「ちぃ!」
俺は直ぐ様左足に装備していた短剣を取り出して右腕に噛み付いているフォレストウルフの首元に差し込んだ。
このまま深く差し込んで命の灯火を消していく。
致命傷を受けたフォレストウルフはそのまま右腕に差し込んだ牙を引き離して地面に崩れた。
地面に倒れたフォレストウルフを強く横へと蹴り、別の個体に蹴り当てた。
怯んだ個体とまとめて突き殺していく。 剣を引き抜いて後方から襲ってくるフォレストウルフを左手の小盾で防いだらそのまま袈裟斬りに斬りつけ殺していく。
「はぁ……はぁ……」
少し心を落ち着けて周りを見回すと、静かだった森は数多の死体と血に塗れて、幻想的な景観を表現していた森の中は一転して地獄へと変わり果てていた。
先程までの戦闘で前に出過ぎていたのか、みんなと少し距離があった為、向かってくるフォレストウルフを斬り殺しつつもみんなの元へと戻っていく。
「戻ったかハルト。 そっちは順調か?」
「あぁ、エヴァンズこそヘマはしてないだろうな?」
「ハハッ! まだ1ヶ月程度の新米の癖に言いやがる。 俺を誰だと思っている?」
「『戦神の矛』のリーダーエヴァンズだろ?」
「ほらっ男二人してサボってんじゃないよ!」
「うるせぇなリタ。 サボってるわけじゃねぇさ。 ほらっ! ちょっと場を温めてやってるだけさ。 な?」
エヴァンズはリタと会話しながらも大斧を振り下ろして後方にいた個体ごとまとめて真っ二つにする。
「いや、俺はきちんと倒してるぞ? サボってたのはエヴァンズだけだろ?」
俺もエヴァンズに語りかけながらフォレストウルフを斬り殺す。
「あってめぇハルト。 裏切りやがったな?」
こうして雑談しながら戦えるぐらいには戦況はよくなっている。
「ハルトにエヴァンズも数が減っているとは言ってもまだ戦いは終わっていませんよ、集中なさい」
「すいやせん姐さん……」
「ごめん、姉さん……」
「クスクス、ハルのやつ怒られてやんの」
「うるせぇなエル!」
「こらっハルトにエル! いい加減にしなさい!」
「本当にごめん姉さん……」
「ごめんなさい、お姉さま」
そうこうしている内にフォレストウルフの数も数えるぐらいに減っていた。
もうすぐ片付くと思っていたのだが、突然フォレストウルフ達が動きを一斉に停めて後方に下がっていく。
「あ?」
「急にどうしたんだあいつら?」
怪訝に思っていたら、森の奥からガサガサとしている。
俺達は武器を構えて音のする方へ向くと、フードを被った人物がこちらに歩いてきた。
フードを深く被っており、男なのか女なのかも分からない。
そんな人物に殺気を向けてエヴァンズが語りかける。
「誰だてめぇ……」
しかし男は黙って話そうとしない。
「おいおい、無視かよ。 しかしてめぇ……誰だか知らねぇがこのタイミングで出てくるって事は……今回の事件はお前が犯人でいいよな?」
フードの人物はエヴァンズの声を無視したまま、俺の方に顔を向けている。
そんな視線を見たエヴァンズは。
「おい、ハルト。 念の為聞いておくが知り合いか?」
「そんなわけないだろ。 こんな怪しいやつ……」
俺が知ってるのは姉さんやエルにエミリさんやグスタフの爺さん、『戦神の矛』みんなとカリスの街でお世話になってる人達だ。
こんなフード深く被った女なのか男なのかも分からない人物に心当たりはない。
フードの男は右手を前に突き出すと、左右の奥から魔物の群れが俺達を挟み込むように現れた。
「なっ! いつの間にこんな数が」
フードの人物はそのまま後ろを振り返り黙って奥に去っていこうとする。 一瞬振り向いたフードの奥からニヤリと笑い横に口を広げたのが見えた。
「逃がすわけねぇだろ!」
エヴァンズが男を追おうとするが、魔物の群れがエヴァンズに群がる。
「くっそ……。 姐さん……ハルト、エルネスト。 ここは俺らに任せてお前達『時の絆』はあのフード野郎を追ってくれ!」
「でも……!」
「ここでアイツを逃がすわけにゃいかねぇ。 それに『戦神の矛』はこんな所で殺られる程弱くねぇ。 片付いたら俺らもお前らを追いかける……頼んだハルト」
「エヴァンズ……死ぬなよ。 行こう、姉さん・エル」
「えぇ」
「うん!」
エヴァンズ達は俺達向かってくる魔物の群れを蹴散らして道を作っていく。
「おらぁ! 邪魔だ雑魚ども! いけぇ!!」
後ろからエヴァンズ達が声を張り上げて戦っている音が聴こえる。
俺達はエヴァンズ達が作ってくれた道を進み、フードの人物を追いかけていく事にした。
ついに邂逅するハルトとフードの人物。
にしてもエヴァンズのそのセリフ、よくある死亡フラグだと思うんですよ(´・ω・`)
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