第11話 群れる魔物達との戦い:前編
フォレストロードの領域である深部を目指してロータスの森の奥へ進んでいく俺達は、魔物に出会う事もなく中域へと進んだ。 しかしそこには三種族で編隊を組んだ魔物の群れが迫って来たのだ。
「リタとハルトは俺と一緒に前衛を。 ハーリィーはいつも通り後衛からサポートをしてくれ。 姐さんは後衛にいるルージュとハーリィーを守ってほしい。 カイエとエルネストは俺達が三方向から攻撃をしていくから後方へ後退するようならそのタイミングで奇襲を仕掛けてくれ。 ルージュは俺が合図したら範囲魔法を放て――いくぞ!」
エヴァンズは俺達に作戦を伝えると行動を開始する。 これが熟練冒険者パーティーのリーダーか。 素早くて的確な判断と作戦立案力にその後姿が遠く感じる。
普段のエヴァンズは話しやすい気さくなおっさんって感じだけど、こういった真面目な所は本当にカッコいいし尊敬するわ。
駆けるエヴァンズを追う様に俺も魔物の群れへと走っていく。
「ハルトはこのまま正面だ。 リタは右を担当しろ、俺は左を殺る」
エヴァンズを見ると人よりも大きい斧を上段に構え、重さなんて最初から無い様にオークへと振り下ろした。 オークは持っていた片手の剣で防ごうとするのだが、大斧は枯れ木を圧し折るようにオークの身体ごと粉砕する。
そのまま後方にいたゴブリンも振り下ろされた斧により身体は左右に綺麗に別れ、轟音と共に打ち付けられた斧が地面を吹き飛ばす。
リタは大きい両刃剣を軽々と横に振り回し、前方にいたゴブリン三体は抵抗も出来ずに防具ごと身体を真っ二つにされた。
さすが『戦神の矛』の前衛だ。 これで中堅冒険者って言うんだからな……俺も負けてられないな!
俺は『アクセル』を使用して正面から向かっている魔物の群れに突っ込む。 まずは戦闘を走ってる三体のゴブリンだ。 意表を付かれて反応できてないゴブリン一体を逆袈裟に身体を斬り裂き、そのまま袈裟斬りに移り二体目を倒した所でさすがに反撃をされる……が。
左腕に付けている小盾でゴブリンの突きを受け流し、体制が崩れたここで……。
「そこだ!」
脳天を突かれた最後のゴブリンは鼻と口から血を垂れ流して崩れていった。
『アクセル』は本当に便利だ。 初めは世界が遅くなったのかと思ったが、そんなチート能力な訳がないのだ。 これは世界が遅くなったのではなくて俺が速くなったのだ。
それも身体を動かす速さだけではなく、おそらく思考も含めて。 そう考えればやはりチートかな? と思ったのだが、非常に大きいデメリットが存在する。
身体の色んな箇所を素早く動かす事ができるのだが、そもそも身体が速度についていけないのだ。 動かす度に身体の色んな所がブチブチと音を鳴らして激痛を走らせるんだもんな。
どんなにすごい能力だったとしても、使う人間の身体がついていけないのであれば宝の持ち腐れなのである。
フォレストロードを倒して強くなったが、それでも俺の身体は『アクセル』の常時使用に耐える事ができないのだ。
だから俺は考えた。 常時使用できないなら、ピンポイントで使えばいいのだと。
それでも多少身体に負担を強いるが、常時使用するより遥かに軽い。
これは訓練場でエルとの戦いで検証済みだ。
いつかこの力を十全に発揮できるようになればいいんだけどな……。
こう思考を凝らしている間にオークが棍棒を振り下ろして来るのだが、初めての相手なのに余裕を持って相手をできるようになっていて、自分が言うのも何だが成長しているのを感じる。
俺は小盾で棍棒を受ける。
「ぐっ……重い……けど!」
それでもあの『フォレストロード』程じゃない。
「うおぉぉぉぉぉ!」
空いた右手に持っている剣をオークの腹に突き刺した。
『レクスシーヴァ』はズブズブとオークの腸を喰い破っていき、ついに剣先を背中から突き出した。
俺はそのまま右の方向へ持っていき、オークの身体を半ばから斬り裂いた。
斬り裂かれたオークの腹から臓物が零れ落ち、絶命していった。
オークが絶命すると同時に、俺の脳内へ『タフネス』の文字が現れていく。
新しいスキルを覚えたみたいだが、もう油断は二度としない。
残ったフォレストウルフはこちらへ向かわずジリジリと後ろへ下がり、後方にいる部隊と合流するようだ。
エヴァンズとリタの方も残った魔物は後退していき、後ろにいる仲間の方へと集まろうとしていた。 俺はリタとエヴァンズに顔を向け、作戦通りに行動を開始する。
このまま俺達三人は少しずつ前へと進んで集まった魔物へと近づいていく。
残った魔物の群れは勝てないと思ったのか、このまま後方へと逃げようとするのだが、先回りしていたエルとカイエに挟み撃ちの状態となってしまう。
残った魔物の群れを包囲した所でエヴァンズが右手を上げる。
「今だルージュ!」
後方から放たれた魔法が発動して、魔物の群れが暴風に飲み込まれる。
飲み込まれた魔物の群れは暴風の荒らしによりその身体を細切れにされていく。 まさにミキサーの様だ。
さすが魔法使いである。 か弱いどころか一番強烈だよ。
今だから耐えれるけど、こっちの世界へ来たばかりの頃にこの光景を見せられたら、俺は発狂する自信がある。
全ての魔物を倒したと同時にその暴風も収まる。
後方にいた姉さん達とエル達が俺達に集まってきて。
「終わりましたね、ハルト」
「そうだね姉さん。 さすがエヴァンズだよ。 伊達に『戦神の矛』のリーダーはしてないな」
「おいおい、ハルト。 そう褒めるなよ。 もっと褒めていいぞ!」
「調子に乗るんじゃないよエヴァンズ」
「うるせぇなリタ。 それにしても何とかなって良かった。 さすが姐さんとこのパーティーだ。 ハルトもやるじゃねぇか」
「エヴァンズこそ何でその大斧を棒切みたいに振り回せるんだよ」
「はは! これが俺の取り柄だからな!」
「しかし、今回のMVPはルージュだな。 さすが魔法使いだよ。 やっぱ目の前で魔法を見ると迫力が違うわ」
「ふふん! まぁね!」
腕を組んでドヤ顔をするルージュ。 ドヤ顔してもこれは許されると思う。
「何ドヤ顔してるんです。 エヴァンズさんとリタさんや『時の絆』の皆さんがお膳立てしてくれたからじゃないですか」
「何よハーリィー。 もしかして悔しいのぉ~?」
「うっざ……」
「ハーリィーあんた本音出てるじゃん! カイエ見て見て~私頑張ったんだよ……ってカイエどうしたの?」
心配そうなルージュに釣られて俺もカイエの方を見ると険しい顔をしている。 その隣に立っているエルもカイエと同じく険しい顔をしていた。
「おい、エルも何険しい顔してるんだ?」
「――まだ……まだ終わってない!」
「みんな来るよ!」
エルとカイエの言葉に、俺達は再び緊張の糸を張り巡らしていく。
戦いはまだ終わっていなかった。
久々に新しいスキルを取得しました。
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