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第3話 リアルな異世界

 俺は全力で草原を走った。 捕まったら絶対に殺されるだろう。


 いやだ、ここが何処かもわからないのに、まだ何もしてないのに死にたくない!


「ハァ、ハァ……」


「クッソ、いつまでついてくるんだよ。頼むから諦めてくれよ!」


 もうかれこれ数十分は走ってるだろう。 何時間も休憩無しに歩いてきた後だ。しかも水も飲んでないし朝から食べてないのでこれ以上体力が持たない……。


『ゲヒャ!』


 追いかけてきたゴブリンは石を投げてきたお返しとばかりに持っていたこん棒投げつけてきた。 運が悪かったのだろう、こん棒は俺の頭に命中した


「ぐぁっ!」


 当たった衝撃で前方に転倒する。


「痛っ!」


 頭からは血が流れており、転んだ衝撃で足首を挫いたみたいだ。 これ以上走れそうにない。


『ゲヒャヒャヒャ』


 ゴブリン達が近づいてくるのが分かる。


 新しいおもちゃでも見つけたようにニタニタ笑いながら歩いてくる。 近づいてきた一匹のゴブリンは。


『ゲェーヒャ!』


「うごっ!」


 お腹にゴブリンのつま先が深くえぐり込み、痛みと苦しさで俺は(もだ)えた。


「オェッ、ガハっ」


 口から血と胃液が出てくる。そんな様子を見たゴブリン達は俺を嘲笑(ちょうしょう)しながら見下している。


『『『ゲヒャヒャヒャヒャ!』』』


 腹を抑えながら笑っている。


 そんなに俺が苦しんでる姿が面白いのかよ。


 おもちゃが泣くのをまた聴きたいのか、残りのゴブリンが俺を踏みつけてくる。


『『ゲヒャ、ゲヒャ!』』


「ぐぁ、やめっ……」


 チートもねぇこんな訳わからない世界に飛ばされたと思ったらこんな思いしてさ……。 異世界に行きたいと思ってる人間なんて日本には他にいるだろ。よりにもよってなんで俺なんだよ。


 ゴブリン達に蹴られ・踏まれまくり、もう声は出せそうにない。


 このまま死ぬんだろうな……。 母さん・親父。親より先に死ぬだろうけど許して欲しい。


 ふと体の衝撃が止んだのでゴブリンの方を見ると


「あぁ……」


 もう遊び飽きたんだろう。 折れた剣を持ったゴブリンが笑顔を向けながらその手をこちらに振り下ろそうとしている。


「何もできなくてごめん……」


 振り下ろされる衝撃に備えて目を強く瞑った。


 しかし、一向にその衝撃は無く、変わりに『ボトッ』と何かが落ちる音がした。


「――え?」


 目を開けると、ゴブリンには振り下ろそうとした腕は肘から先が無く、『ブシャ、ブシャ』と絶えず血を流し、綺麗な断面図を外に見せていた。


『グヒャ?』


 理解ができないのか首を傾げた時、そのまま『ボトッ』と間抜けな顔を晒しながら頭が地面に落ちていく。 首からは噴水のように大量の血液を出しながら、胴体が後ろに倒れていった。


「その醜い姿を血肉に変える時が来ました。神に許しを請いながら死して逝くとよいでしょう」


 貶されていると分かったのか、残り二匹のゴブリンは視線をおもちゃから自分達を貶す対象へ怒りの視線を向けた。


 人形のように整った顔に目で射殺すような瞳、ふわりと長い髪を揺らす女の顔を見たゴブリンは極上の獲物でも見つけたのかニタリと卑しい顔を浮かべた。


『『ゲッヘヘヘヘ』』


 どうせ卑猥な妄想でも浮かべたのだろう。 散々痛めつけていた俺の事なぞ粗暴の石の価値も無いのか眼中に無く、視線はその女性に釘付けだった。


 腰蓑からチラリと見える熱り立った肉棒がどんな想像をしているのか嫌でも想像つく。


「シッ!」


 女性は素早く剣を頭目掛けて突き刺した。 鼻から後頭部にかけて剣は突き抜け、卑猥な妄想に耽っている1匹のゴブリンは自分が刺された事にも気が付かずそのまま絶命した。


 残り一匹は剣筋のあまりの早さに(おく)し、勇敢に戦おうともせず、後退ろうとしている。 だが、そんなゴブリンの動きを見逃すはずもなく残り一匹に向かって剣を真っ直ぐ振り下ろした。


 頭から真っ二つに崩れ落ち、三匹のゴブリン達は言葉通り全員血肉となった。 女性は剣にこびり付いた血を汚物でも払うかのように地面に振るい、血の花を咲かせた。


 その惨劇を目の当たりにした俺は。


「ヒュッ――」


 声が出ず、体も動かず、股間が暖かくなっているのが分かる。




怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い




 途轍もない恐怖が頭の中を駆け巡る。


「たっ助け……」


 口は震え、声が上擦り、顔が引き攣っているのが分かる。


 女性はこちらに近づき声をかけてきた


「大丈夫――えっ。 そんなまさか……!」


「え?」


 俺の顔を見た女性は突然泣きながら知らない人物の名前を口にする。


「クルシュ……。 クルシュなのですね?」


「えっいや……あの……」


 冷徹で相手を射殺すような瞳は崩れ去り、優しい瞳に変わっていく。 その優しい瞳からは涙が溢れ、二度と逢えないと思っていた人に再開したような顔を浮かべている。


「逢いたかった!」


 ふわりと突然抱きつかれ、甘く・花のようで優しい香りが俺の鼻を刺激する。 その刺激に顔を赤らめた俺は頭を強く打った事を思い出したのか、はたまた興奮して頭に血が登ったのか、意識が遠のいていくのを感じる。


「ねぇ、どうしました? クルシュ!? クルシュ!」


 誰かを心配する声を最後に俺は意識を手放した。

主人公にチート能力があったらな~(棒読み)

※次回は土曜日更新します。

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