第4話 偏屈な爺さん
武具屋の爺さん回になります。
エルネスト・ハルヴィことエルを加えた新生『時の絆』はさっそく冒険に出ようと一致団結したのだが、ここに一つ問題を出そう。
冒険に出るのに必須な物は何か。
ポーション? 確かに傷を負うかもしれないだろう、だが違う。
採集道具? 確かに採取依頼を受けるには必須な物だろう、だが違う
勇気? 確かに危険だらけの外に出るには勇気が必要だろう、だが違う。
そう、今の俺と姉さんには……。
「武器と防具がない!」
「何をいきなり叫んでいるのですか」
「あっ……。 ついに頭がおかしく……」
「ふたりとも、残念そうな目でこっちを見ないで」
現在俺達は行きつけの武具屋の前に来ている。 もちろん俺と姉さんの武器と防具を造ってもらおうと思ってだ。
エルとの訓練騒動後、後日冒険者ギルドからフォレストロードの買い取り額と依頼料の報酬が手に入ったので、こうして武具屋に足を運んだのである。
「ほらっ入りますよ」
相変わらず店内には無愛想な爺さんがカウンターへ腰掛けている。
「こんにちは、グスタフさん」
「……なんじゃお前達か」
この無愛想で偏屈な爺さんはグスタフさん。 ここカリスの街に『龍の牙』という店を構えている。
「何の用じゃ」
「はい、私の鎧の修理と盾を全損したので新しい物を。 彼には剣を一振打っていただきたく」
「――お前さんの鎧と盾はいい。 しかしこのヒヨッコに儂が剣を打てと?」
「えぇ」
「何故儂が冒険者に成り立てのヒヨッコに剣を打たねばならん。 この小僧なぞそこらの安売りしておる物でまだ十分じゃ。 それとも……たかが一月程度冒険者を始めただけで儂が打つ程にまで成長したと抜かすか? まだ儂は呆ける程堕ちておらぬ。 帰るがいい」
「おい、爺さん。 俺が強いと証明できたら打ってくれるのか?」
「ちょっとお姉さまにハルも!」
エルが俺と姉さんを咎めようとするのだが、俺にも男としてのプライドがある。 確かに爺さんの言う通り俺はまだ1ヶ月そこらしか経ってない冒険者だ。
それでもこの短い月日で得た経験を、何も知らない爺さんに馬鹿にされて黙ってられる程俺は賢くない。
「ほう? 小僧……言うではないか。 お前さんは儂に力量を示せると?」
「あぁ」
「――今この場で力量を儂に示せ。 でなければ、二度と貴様らに武器も防具も売らん」
「……それでいいぞ。 勝手に決めてごめん、姉さんにエル」
「わっ私はいいけど……それでいいの? ハル」
「私もそれで構いませんよ」
「ということだ。 どうすればいい?」
「――ついてこい」
グスタフの爺さんはそう一言話すとカウンターの奥へ進んでいく。 奥の部屋には工房があり、海外の映画やドキュメンタリー番組で見た職人の仕事場である風景が広がっていた。
部屋の済には折れたままの剣や何か分からない鉱石にゲームで見た事あるインゴットが乱雑に置かれていて、まだ火を焚べられている炉に金床や重たそうなハンマーもある。
そんな部屋の奥にある扉を開けて進んでいくと、丁度店の裏口に出た。
店の裏庭に少し手入れもされていて、広さも十分で剣を振ったり訓練をするにも丁度よく、奥には鍛造したばかりの武器の試し切り等に使われていると思われる丸太がポツンと立っている。
「ここで少し待っておれ」
と言い残して爺さんは店の中に入っていった。 戻ってきた爺さんは見覚えのある剣を手にしていた。
「これはお前さんが最初に買ったロングソードと同じものじゃ。 この剣を使って、あそこにある丸太を両断してこい。 それが出来たら剣を打ってやる」
「ああ、分かった」
「ちょっとハル……あの丸太……ヒッ!」
エルは俺に何か言おうとしたのだが、爺さんに凄まれて怖気づき言葉を言いよどんだ。
「心配すんな。 あの丸太を斬ればいいだけだ」
丸太に近づき剣を構える。 使い込まれているのだろうか、斬撃による傷を負っているが、どれも浅く今にも倒れそうには見えない。
「スゥー……ハァー……」
深呼吸して心を落ち着ける。 相手はフォレストロードでも、訓練場で戦ったエルじゃない。 あれはただの丸太だ。
フォレストロードとの戦いで俺の体がまた少し成長しただろう。 一応鈍らない様に体を動かしてはいるが、本気に殺す気で剣を振るうのはあの戦い以来だし丁度いい。
爺さんに馬鹿にされたんだ。 ここは一つ驚かせてやるとしよう、そうしよう。
フォレストロードを斬りつけたあの時を思い出せ。
『アクセル!』
小鳥はゆっくりと羽を上下に動かし、風に扇がれた木はゆっくりと横に揺れ動こうとし、街の喧騒は遠ざかり、世界はゆっくりと流れていく。
手に力を入れ、剣の柄を強く握りしめる。 刀身を斜めに構え、持てる力をその一撃に籠める。
「はぁ!」
剣の刀身は丸太に吸い込まれ、何も阻まれる事もなく右に右へと進んでいき、やがてその刀身は丸太をすり抜けた。
振り抜き終わると『アクセル』を解除し、世界が元の速度に戻っていく。
「……ふぅ。 今の俺が出せる全力をこの一撃に込めた。 どうだ爺さん」
俺は背後にいる爺さんの方へ体を向けると同時に両断された丸太は大きな音を出して崩れ落ちた。
「ほぅ……」
爺さんは関心したような顔をして丸太の方を見ている。 あれ? あまり驚いてないな。
「――やはりフォレストロードを討伐した噂は本当じゃったか。 いいだろう小僧、お前さんに一振り打ってやる」
やはり噂は本当じゃったかって爺さん知ってて試したのかよ。 顔に似合わず食えない爺さんだよ。
でも人に認めてもらえた事って今まで無かったから凄い嬉しいな。
「よっし!」
こうしてガッツポーズの一つや二つぐらいしてもバチは当たらないだろう。
「姉さん見てくれた!?」
と嬉しくなって声を掛けると。
「えぇ、よくやりました。 流石は私の弟です」
鼻を高くしてご満悦の様子。
「あんた……」
エルの奴も度肝抜かれてる様子で、これはもうドヤ顔してもいいだろう。
「見たかエル!」
「『見たかエル!』じゃないわよ。 あんたあの丸太をただの丸太だと思ってるんじゃないでしょうね」
「えっ丸太は丸太だろ?」
俺には何処からどう見ても丸太にしか見えない。
「あれはロータスの森の深部に少数生えている『ドゥーラムウッド』と呼ばれている木の丸太よ。 普通の木よりも硬度があり、火の耐性もあるから家の建材に使われたりしているわ。 そんな丸太を初心者用のロングソードで両断できるわけないのよ」
「は? なんだよそれファンタジーかよ……いや、この世界ファンタジーだったわ。 なら先にそれ教えてくれよ」
「言おうとしたわよ。 したけど……あのおじいちゃんにその……」
俺はグスタフの爺さんの顔を見ると、悪びれる様子も見せてない。
「ふん。 この程度を両断できないのであれば儂に剣を打たせる資格はない」
爺さん、反省の色無しである。
「それに両断できたんじゃからいいじゃろう。 それでどのような剣が欲しい?」
「このロングソードで慣れているから、これと似たような重さの直剣で仕上げてもらいたい後は……」
姉さんは爺さんにとある素材を渡した。
「グスタフさん、この素材を使っていただきたいんです」
姉さんが渡した素材はフォレストロードの爪と毛皮だった。
絶対誰も覚えてないだろう武具屋の爺さんがサブキャラクター化しました(´・ω・`)




