第3話 俺は早計だったと思うんだ
今回は少し短いです。
「――なんで……なんで当てなかったのよ」
「だってこれ……訓練だろ? 勝負ありみたいなものじゃん」
そう、これは訓練なのだ。 いくら口が悪い女だからって痛めつける趣味はない。
「く……屈辱だわ! 情けをかけられるなんて」
「情けをかけてるわけじゃねぇよ。 やる前に言ってたじゃん『勝ったら何でも言う事聞いてあげるわ』って。 きちんと約束を守ってもらおうかなと思ってな」
「ぐぬぬ……この……変態!」
「は? お前一体どんな妄想してんだよ。 お前こそ変態じゃねぇか。 鏡を見ろ鏡を」
突然黙ったエルネストは身体をワナワナさせて震えだした。 なっ泣かしてしまったか?
「なっ……」
「な?」
「なんですって! もう頭にきた! 絶対に許さないんだから」
顔真っ赤にして激おこプンプン丸である。
「待て待て、お前が言ってきたんだろ!」
「変態じゃないもん! それに私にはエルネストって言う名前があるもん!」
「あるもんってお前……」
こいつ幼児退行してるじゃねぇか。
「分かった分かった。 悪かったエルネスト」
「エルネストって言わないで!」
「だぁ! じゃあなんて言ったらいいんだよ」
「エ……ル……」
「え? なんだって?」
あぁ、このセリフを言ってみたかったんだよな俺。
「エルと呼んでいいって言ってるのよ! 特別なんだから感謝しなさい!」
「じゃあそのなんだ……エル」
なんだかちょっと恥ずかしいな。 少し顔が熱くなってるのがわかる。
「『勝ったら何でも言う事聞いてあげるわ』ってのは有効だし今使ってもいいよな?」
「は? 何言ってるのよ。 もう使ったじゃない」
「は?」
「私の事をエルって呼んでいい権利よ」
「は? てめぇふざけんなよ!」
「ふんだ!」
「こいつ……」
こちらも負けずにぐぬぬと唸っていたら誰かがこちらに近づいてくる足音が聴こえてきた。
二人してそちらに顔を向けると、そこには。
「姉さん、なんでこんな所に?」
「おっお姉さま!」
「それはこちらのセリフですよ。 ハルトにエルも二人してどうしたのですか?」
「それはその……二人で訓練してたんですよ。 ね?」
「は? 何言って……痛!」
こいつ俺の足をグリグリと踏みつけながら顔だけはニッコリ笑ってやがる。
「あっあぁ。 そうなんだよ姉さん。 (おい、貸し一つだからな)」
「それでお姉さまはどうしてここに?」
「用事終わったのでギルドに寄ったのですよ。 そしたらエミリさんからこちらに二人で来ていると聞いたものですから」
「そうだったんですか。 ――それでその……急ですがお姉さまに聞いたい事がありまして……」
「どうしました?」
「どうして……今までパーティーを組まなかったお姉さまが、これ……ハルトと組まれたのですか?」
あっ俺の事をこれって呼ぼうとしたな?
「そうですね……ハルトと出会う前までは、守るべき者を守れなかったからでしょうか。 いえ、言い訳ですね。 もう失うのが怖いと思ったからですね。 一生このまま朽ちていくだけだろうと思っていましたから。 そんな時にハルトは私の前に来てくれたのです。 なので今度こそ前を向いて歩こう。 そして彼を守ろうと思ったんですよ」
「姉さん……」
「私じゃ……私じゃ駄目なんですか!?」
「――貴方ではハルトの代わりにはなれません」
「そんな!」
「もちろん私もハルトの代わりにはなれませんし、エルの代わりは誰にでもできません。 貴方がハルトの代わりではなく、エルネストとして私とハルトと伴にしたいのであれば私は歓迎しますよ。 ハルトもそうですよね?」
「え!? うっうん……まぁ……俺も姉さんも前衛だし、後衛から援護してくれると助かる」
「うっうわ~ん。 お姉さま!」
泣き出したエルは姉さんの腰に両手を回して抱きついた。 姉さんは手のかかる妹をあやす様に頭を撫でている。
よく見るとエルは泣きながらも器用に深呼吸をしているようだ。 本当にこいつは変わらず変態だな。
「私エルネストはエルネストとしてお姉さまとオマケ……じゃなくてハルトと一緒に冒険をしたいです!」
「ふふ。 これから賑やかになりますね」
「おい、俺の事オマケって言っただろ!」
「ふん。 ハルは馴れ馴れしすぎよ。 オマケでいいのよ オ・マ・ケ で」
普段の調子を取り戻したと思ったらこれだ。
「やっぱ認めねぇ!」
エルをパーティーに加入させるのは早計だったのではと思わざるを得ない。
「ハルト、そんな意地悪を言ってると女の子にモテませんよ?」
「そうよそうよ!」
「うるせぇぇぇぇ!」
「ふふ」
「あはは」
こうして俺たち『時の絆』はエルネスト・ハルヴィという新しい仲間を加えた。
という事で新しい仲間であるエルネスト・ハルヴィちゃんの加入回でした(*‘ω‘ *)




