幕間 Side.??? - ロータスの森 深部:某所 - 暗躍する男
本筋ではありますが、話数には換算しない幕間みたいなものです。
三人称視点に変更となっておりますので読みづらかったらすみません。
時は少し遡り、ロータスの森へハルト達が足を踏み入れていたその頃、ロータスの森のそれもただの冒険者では足を踏み入れない深部のとある場所に一人の男が立っていた。
「さて、前回のテストでは予想以上の結果を出したが、コントロール出来ない様ではあまり意味が無いな……」
今感づかれても困るからこそ小規模に行きたいが……はてさてどうしたものか……。
ん? あれはフォレストロードか……。 ゴミしかいないこの森ではそこそこ戦闘力も高かったはずだ……ふむ。
「少し勢力図が変わってしまうが、まぁ問題無いだろう」
そう言うと男は何の警戒も無しに、フォレストロードの領域に我が物顔で足を踏み入れる。
周囲のフォレストウルフは自分達の住処に侵入してきた男を当然許容できない。 それ故に男が逃げられぬ様に囲い込むのも当然であった。
「唯の犬が私を本気で殺せると思っているのか?」
言葉は分からない、しかし男を取り囲む数十体のフォレストウルフ達は自分達が馬鹿にされているのは分かった。
フォレストウルフの社会では、弱肉強食の世界。 他者から舐められては群れでは生きていけない。 故にフォレストウルフ達が怒りを表すのも通りだった。
その中から一体のフォレストウルフが躍り出た。 主であるフォレストロードを除けば自らが次代のロードと成りうるであろうと思っている。 このまま順調に多勢力である数が多いだけの小鬼共と図体がデカいだけの軟弱な豚共を喰い殺して行けばロードになれると信じていた。
だからこそ、こうして誰よりも先にこの男を喰い殺し、皆に、そしてロードに自分の強さを見せつける事が出来ると思っていた。
この個体に足りなかったのは運だっただろうか、それとも力量を図る事が出来なかった故なのか。 いや両方足りなかったのだろう。
その個体は男に自らの牙を見せつけ、唸り、自らの力を男に見せつけた。
「まぁ所詮は魔物と言っても犬よな」
我慢が出来なかった、だからこそ自らの全速力で持ってあの男に牙を刻み付けると。
自らの自慢の足を動かし、地を蹴り、駆けあがり、後はその牙を喰い込ませるだけ。 そう考えた所で意識は途絶えた。
「私の手が汚れてしまったではないか」
男の右手は赤い血に塗れていた。
一体何があったのか、周囲のフォレストウルフは分かっていない。 分かるのは男が手を振った瞬間に仲間の首が無くなった事だけだ。
周囲のフォレストウルフは思考し、出た結論はこの男が危険であると。 どうやって仲間を殺したのかは分からない、それでもこの人数で同時に牙を埋め込めば勝てると思っていた。
考えたら動くのは早かった。 周囲のフォレストウルフ達は男へ一直線に駆けていく。 仲間と連携して男を取り囲む。 もう周囲にお前の逃げ場はないとそう伝える様に。
しかし。
「本当に学習能力の無い犬だ……」
と群れてくる邪魔なハエを振り払うが如く手を振り回した。
男やったのはたったのそれだけで周囲のフォレストウルフはその命を全て失った。
◇
フォレストロードは自らの寝床で王者の如く、惰眠を貪っていた時、自らの領地に不相応な者が侵入してきたのが分かった。
どうせ弱い人族であろう。 眷属で対応できないのであれば、いつも通り我が爪か牙で切り裂くか喰い殺せばよいと。
待っていれば自ずと獲物自らがやってくる。 群の王たるフォレストロードは自らの寝床で寝ていると、その時は来た。
「こんな所に居たか。 犬風情が王気取りとはなんともまぁ……」
立ち上がったフォレストロードは、弱者が囀るなと言わんばかりにその鋭い爪が生えた腕を男に振り下ろした。
人も小鬼も豚も、それだけで体が千切れ飛ぶ弱い生き物だ。 そう思っていたのだが……。
「危ない危ない。 このままでは殺してしまう所だった。 これじゃあ今回の実験に合う個体をまた探しなおさないといけない所だ」
男は本当に心の底から安堵していた。 フォレストロードなぞ最初から小物であったのか。 爪を片手で易々と受け止め、余った手を空間に突っ込み小さな水晶を取り出した。
その水晶はまるで宝石の様な小さい煌めきをしていたが、、己の魔力を込めていくと水晶は段々黒く濁んでいく。
「さて、こんな所で良いだろう。 ――さてと」
男はフォレストロードをそのまま片手で持ち上げ、地面に叩きつけると地面に亀裂が入ると魔力か何かでそのまま地面に減り込んで一歩も動けなくなる。
『グギャアアアアア!』
フォレストロードは思った。 『何なんだこの生物は、余りにも非常識だ』と。
地面に叩きつけられた後、魔力か何かで押しつぶされて一歩も動けないフォレストロードはここで自らの死の予感をした。
「さて大人しくなったようだし、これをこいつの口に入れて……」
男はフォレストロードの口をこじ開け、黒く濁った水晶を放り投げる。
黒く濁った水晶はフォレストロードの体内で溶け出し、溶けた場所から黒い霧が内側から侵食を初めていく。 フォレストロードはあまりの激痛に転げ回り『グギャアアアアア!』と叫ぶが、黒い煙は内側の侵食が終わると、今度は目・耳・鼻・口等体中から漏れ出し、フォレストロードの全身を包み込んでいく。
黒い霧が晴れると、そこにはかつて森の王者と言われていた者ではなく、主に従順に従う1匹の犬が立っていた。
『ウォーーーーーーーン』
「おぉ! 成功だな」
さて、どこまで命令が有効かテストでもした方が良いだろうと思考する。
男はちょっとしたお使いを頼むようにフォレストロードに命令を告げる。
「森に入る冒険者を狩ってこい」
命令通りに1匹の犬は森の奥地から出ていく。
男は遠見の魔導具でフォレストロードを監視すると。
「――男一人に女が一人か。 丁度稚魚と戯れているではないか……ん? あいつ等はどこかで見たな……。 よし」
いい獲物でも見つけたのだろうか、男はニヤリと口を三日月の形に変えて不気味に笑う。
「フォレストロードよ、我が命じる。 あの冒険者共を狩ってこい」
◇
フォレストロードは稚魚である。 ただそれはあくまでも男とフォレストロードを比べたらの話だ。
この森や周辺で活動する冒険者とフォレストロードでは格が違うしそもそも相手にならない。
故に幾許も時はかからないと男は予め予想していたのだが、一向に戻ってこないのを疑問に感じていた。
「この辺の冒険者では相手にならないはず、今頃こちらに戻ってきてもおかしくないはずなのだが……」
男は手に持った遠見の魔導具で様子を伺うと、未だに冒険者相手に遊んでいるフォレストロードが見えた。
「あの駄犬風情が……。 いや、私の命令が駄目だったのか?」
と自分の中で何かしらの答えを出したのだろう。 男は考えるのを止めて見世物でも見ているかのように冒険者達とフォレストロードの戦いを観察する。
よく観察すると、一人の冒険者の右手に紋様が光り輝いていくのが見えた。
「――あれは……あれはまさかまさかまさか!」
男は自分の目で確認したいのか、冒険者にもフォレストロードにも気づかれない様に近づいた。
その目で瞳で冒険者の手に刻まれている紋様を確認した男はケタケタと笑いつつも恍惚した表情をしていた。
「あぁ……そうだ。 そうだろう、そうでなくては余りにも張り合いがないではないか。 あの程度で死ぬはずが無かったんだよ」
今この戦闘について指しているのか、それとも別の何かを指しているのか、男は恍惚した表情のまま長年探していた愛しい人をようやく見つけた時のような顔をしてこう言った。
「あぁ――逢えて嬉しいよ。 楽しくなりそうだね、スティグマの持ち主よ」
ついにこの男を出せた(´・ω・`)




