第8話 クレア・バードウェイ
カリスの街へ戻ると、傷だらけの姉さんとボロボロになっている俺が来たもんだから「何事か!?」と衛兵に止められた。 もちろん浴びた血だけは森にある川で洗い流してある。
「ええと、森にギルドの依頼で向かっていたのですが、フォレストロードと出くわしまして……」
「なに!? ロードだと!? こうしてはおけん、ギルドに報告と討伐隊を編成しなければ!」
「あっフォレストロードはもう倒しました。 ほらっ」
と鞄から爪を取り出して見せた。
「その大きさ……確かにロードの物だ。 よく二人で倒せたな」
「何とか運よく……」
と如何にか追及を逃れようと思っていたら。
「すみません、私達は見ての通りでして、ギルドに報告と治療を済ませたいのですが……」
「おぉこれは済まない、余りの事に気が回らなかった。 だが一つだけ聞きたいことがあるのだが」
「なんでしょうか?」
「どの辺りでフォレストロードと出くわしたのだ? ロードがいたのであれば、クイーンも徘徊してる可能性もあるだろうからな」
「そうですね……森に入って2刻か2刻半ぐらいだったかと。 まだ森に入って深くは潜っていません」
「そんな浅い所で! 後でこちらからもギルドに人を寄越すと伝えておいてほしい。 お前達はギルドに報告したら後ゆっくり休むといい。 ご協力に感謝する」
「ありがとうございます。 それでは失礼します……行きますよハルト」
と衛兵に会釈をした俺達は街に入り、ギルドに戻って報告することにした。
当然ながらギルド内でも周囲からざわめきが聞こえてくる。 ギルド内を見渡したが、あの変態はいないみたいだな。 いたなら姉さんの元へ殺到する姿が想像つく。
受付嬢であるエミリさんの元に向かうと……
「どっどうしましたお二人とも! そんな傷だらけで!」
と驚いてるエミリさんにフォレストロードについて話す俺達。
「――だからそんなに傷だらけだったんですね。 よく無事に生きて帰って戻ってくれました」
「それで、こちらが証拠の爪と牙です」
と受付に大きな爪と牙を置いた。 エミリさんはこれを両手で重そうに持ち上げて、色んな角度で見ると……。
「――確かに、このサイズはフォレストロードの物ですね。 それで死体は森……ですよね?」
「えぇ、そうですね」
と答える姉さん。
「おそらく巨体だと思いますし、お二人で解体していては死体が腐るか、他の獣や魔物に食べられてしまうかと思われます。 もしよろしければ、フォレストロードの死体をギルドで買い取りをさせていただけないでしょうか」
「それは大丈夫なのですが……」
「あぁ! 人手の事でしたらご心配には及びません。 今回は獲物が獲物なので、こちらで死体を買い取りさせていただけるならサービスとさせていただきますがどうでしょうか?」
「――分かりました。 ですが、フォレストロードの毛皮を二人分は残しておいていただけますか? こちらで防具の素材にしたいので」
「承知しました。 それでは二人分の毛皮を除いた残り全てをギルドで買い取りでよろしいですか?」
「はい、それで大丈夫です。 場所は……」
エミリさんと姉さんはいくつかやり取りとギルドへ衛兵から使いが来る事を離した後、受けていた依頼の完了報告も済ませた。
「――はい、確かに。 こちらで依頼の完了を確認させていただきました。 お疲れ様です。 報酬はフォレストロードの分と合わせてでよろしいですか? それともこちらの依頼分だけ先にお渡しした方がよろしいですか?」
「いえ、まとめてで大丈夫です。 ハルトもそれで大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「それでは後日、依頼の成功報酬分と合わせてお支払いさせていただきます。 準備ができましたらこちらから宿にお知らせに参ります。 現在お泊りの宿は……」
「『ハニーベア』です」
「承知しました。 それでは後日『ハニーベア』に使いの者を送らせていただきます。 本日はお疲れ様でした。 またお待ちしております」
といつもの挨拶を終えた俺達はギルドを後にする。
そのまま宿には向かわず、人々の視線を無視しながら医療院へ向かった。
医療院とはキリシュハイト教会が運営している施設の事で、簡単に言うならば病院である。
教会のシスター達は見習い時代に医療院で働き、そこでヒールと云った神聖術を鍛えるらしい。
ちなみに神聖術とはキリシュハイト教に属する者のみ教えてもらえるみたいだ。 まぁ教えてもらえるといっても、素養の無い者は使えないのだが……。
そのお陰と言っていいのか、それともキリシュハイト教がやり手なのかどの国も国教をキリシュハイトにしている所が多いらしい。 このセルライン王国も国教はキリシュハイトだ。
ちなみに聖国キリシュハイトと同じ名前なのは、当然ながら聖国が世界を生み出したキリシュハイトという神様が創った国と言われており、そこから各地に聖国に所属する司祭や司教が派遣され、教会と医療院が運営されている。
まぁ現代に例えるなら病院付き大使館みたいなものと思ってもらったらいい。
「はぁ……ここへ足を運びたくはありませんでしたが……」
そう、姉さんはこの医療院が大層近づきたくないらしい。 理由は俺もよく分からないし、一人で行ってはダメだと言われている。 この理由も知らないが、俺は宗教に興味は無いし大きな怪我をした事も無かったので行く事がなかった。
医療院は横に大きく広がっている2階建ての白い清潔感の漂う建物だ。 その正面にある大きな扉を開けて中に入る俺達。
中に入った早々一人の女性がこちらを見ると近づいてくる。 誰だろ? 姉さんの知り合いかな。
その女性は淡い桃の様な髪色をしたミディアムヘアに、猫の様なクリっとした目をしている。 口元にあるホクロがセクシーさも醸し出していて可愛らしくもちょっとセクシーな人だ。
「あらっレティシアじゃないの。 ふふっ、なんともまぁ随分と無様に傷だらけだこと」
「お久しぶりですね、クレア。 まさか入った途端貴方の顔を見るとは思いもしませんでした。 まだ生きていたんですね」
「それはこちらのセリフですわ。 レティシアさんもまぁ……随分とこれだけの傷を負いながら生きていましたね。 さすが生命力はコックローチ並みですわ」
あぁ、まさか姉さんが近づきたくない理由ってこの人がいるからなのか? にしても、姉さんがここまで口が悪いのを見るのは新鮮だ。 腐れ縁みたいな関係なのかな?
「それで、そちらにいる人はどな……たか……」
突然クレアさんは俺を見るや呆けた顔をしながら動きが止まった。 どうしたんだろ?
「始めまして、弟のハルトと言います。 よろしくおねがいします」
と挨拶したのだが、突然クレアさんは裾をギュッと握り、足をモジモジさせていた。
「……っん! んはぁ……♡」
なんか突然色っぽくなったんだが、どうしたのだろうか。
「はぁ……こうなると思っていましたからハルトを連れて行くのが嫌だったのです……」
「ハルト……ハルト様と仰いますのね。 ……んぁ! わたくしはクレア……バードウェイと申します。 ……んん! ずっと……ずっとお慕い申しておりました、ハルト様!」
ちょっとえっちぃ(すぎる)お姉さんの登場です。




