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第6話 漆黒の巨体 後編

ごめんなさい! 普段よりも文量が多いです。

『グルルルルルル』


 今までとは違う。 確実にこちらの息の根を止めようと威圧と殺気を醸し出している。


 左目からは血が流れ落ちているが、それすらも気に留めず、気にする素振りすら見せない威風堂々とたたずむその姿はまさに王者の証と言ってもいいだろう。


 ここまでやっても死なないっていうのかよ……。 やばいな、正直俺も限界に近い……。


 今だって剣を支えに立っているのがやっとだ。


「このままじゃ……」


 これからどうするか考えていた時、後方からガサガサと物音がした。


「よく今まで耐えてくれました、ハルト」


 その声は……その声は!


「姉さん!」


「本当によく耐えてくれましたね、そして申し訳ありませんハルト。 情けない姿を見せました」


「そんな……そんなこと!」


 と続けて話そうと思っていたら。


「ヒール」


 と姉さんが言うと暖かい光に体が包まれていく。 肩にある傷が早送りでもされているかのようにみるみる内に傷が塞がっていく。


「ハルト、傷は塞ぎましたが体力までは回復できません。 これを飲んで少し休んでいてください」


 と姉さんは事前に小分けしていたポーションを渡してくる。


「でっでもこいつ……!」


「えぇ、こいつはフォレストロードと言ってフォレストウルフを統べる者にしてこの森の王者です」


「フォレスト……ロード……」


「通常のフォレストウルフがEランクなのに対して、ロードはDになります」


「なんだって……!?」


 姉さんが言った通り、魔物にも強さのランク付けがされており、『はぐれゴブリン』だとF-。 フォレストウルフがEになる。Fが一番弱くてSが最強。つまりSは現在ヒトが相手できる存在ではない。


 『-』や『+』は強弱を指数しており、例えばF-だとFランクに比べれば弱いがそれ以下でもない。 F+だとFランクに相当する魔物に比べれば強いが、Eランク程でもない。


 『-』や『+』程度であれば、通常ランクよりも強いか弱いで済むが、これがランクが変わると魔物の格が変わる。 分かりやすく言えばトカゲだと思っていたらドラゴンだったぐらいの違いがある。 正直言いすぎだと思うが、これでなんとなく違いは分かってくれたと思う。


 つまり俺が驚愕している事はそういうことだ。


 ちなみにだが、冒険者ランクの強さ=魔物のランクではない。

 魔物の強さは個体にもよるし、それこそ天と地程の差がある。 便宜上強さの度合いをF~Sの中に収めてるに過ぎない。


 まぁ冒険者もCランク以降だと次元が違うと言われているが今はいいだろう。


「Dランクってことは……さすがに姉さんが銀プレートの冒険者と言っても……」


「えぇ、さすがに私一人では厳しいです。 なのでハルトは少しでも休んで体力を回復してもらえますか? それぐらいの時間は作れますよ。 姉さんを信じてください」


「――分かった。 姉さんを信じる」


 姉さんはニコリと笑顔をこちらに向けた後、真っ直ぐフォレストロードへ顔を向ける。 身体の胴を包むぐらいの大きさをした盾を前に向け、剣を斜めに構えるその姿はおとぎ話の聖騎士に見えた。


「弟が大変お世話になりました。 覚悟して下さい」


 とフォレストロードに向かって話す姉さんは形を維持したまま駆けていく。


 フォレストロードはもう油断も慢心もしないのだろう。 相手の盾ごと斬り裂くように鋭い爪が生えている前足を強烈な早さで振り下ろした。


 姉さんはその爪を盾で左方向へと華麗に受け流す。


 フォレストロードはまさか自分の攻撃が受け流されると思っていなかったのか、体制が少し崩れてしまう。


 その隙を姉さんが逃すはずもなく、前へ詰めてフォレストロードの右頬を斬りつける。


 鋭い早さの斬撃にさすがのフォレストロードの顔にも一線の傷が付く。


『ギャン!』


「さすがに硬いですね。 もっと深く斬れる想定だったのですが……」


 フォレストロードは相手の戦力を見誤ったと思ったのか、後ろに飛んで距離をおいて警戒をする。


 姉さんもそれに気づいているのか、闇雲に突っ込まずに盾を構えて睨み合いに応じる。


 さすがは銀プレートの冒険者だな。 あのフォレストロードに傷を付けたなんて……。 一体俺はどうすれば……。


 こうして俺が思考してる間に世界が止まってる訳もなく、凄まじい攻防戦が繰り広げられる。


 姉さんは相手の攻撃をいなしながらも着実に傷を与えていく。


 フォレストロードはその鋭い爪が生えている前足を器用に使って左右に攻撃するが、その全てを姉さんは受け流していく。


 一見姉さんの方が優勢に見えるが、その顔は険しい。 一撃でも食らうと命が終わってしまうその激しい攻防に一体どれぐらいの集中力が必要となるだろうか。


 この激しい攻防は着実に姉さんの精神力を削っていった。


 ――そしてついにその攻防に終わりが見えた。


 前足を起用に使った攻撃を止め、リズムを変えたのかと思っていたら、突然身体をグルリと回転させ、その勢いを利用して尻尾を叩きつけた。


 さすがの姉さんもこの攻撃は予想外だったのか、盾でなんとか受け止めるが衝撃が強すぎて地面を引きずりながら後方に押し込まれていく。


「ぐぅっ!」


「姉さん!」


 くそ……何かないのか……何か……。


 ふと右手を見たらスティグマがやんわりと光を帯びて主張していた。


 スティグマ……? こんな時に何故――っあ! あぁ、俺は本当に察しが悪い人間だな。 フォレストロードと戦う前に新しいスキル『アクセル』があるじゃないか。


 実際にどんなスキルか分からないが、もしこれが俺の想像した通りのスキルならば……。 一か八賭けてみるか? いや、しかし……。


 こうして悩んでる間にフォレストロードは姉さんに詰め寄らず、四肢に力を入れて『ウォーーーン!』と遠吠えを始める。


 なんだ? と思っていたらフォレストロードの前に緑色の魔法陣が突然現れた。 すると鋭い爪が風を纏ったように包み込んでいく。


 なんだか嫌な予感がする。 俺は「姉さん!」と叫んで駆けつけようとするのだが。


「来てはダメ! 『光の守護者よ、自愛の光で我が子らを包みたまえ』エンハンス・プロテクト!」


 魔法が発動し、姉さんの体を守るように光が包み込んでいく。


 フォレストロードの魔法陣が光り輝きだし、こちらも準備が出来たのか鋭い爪を虚空に振り下ろす。 振り下ろした先から凄まじい速度を出して爆風と共に風の刃が一直線に飛んでいった。


 直撃したのか姉さんの姿が爆音と共に砂塵に塗れる。


「姉さぁぁぁぁん!」


 姉さんの元へとっさに駆け寄る。


「姉さん! 姉さん返事して!」


「くぅっ」


苦悶の声を上げた方向に駆けよると、そこには全身におびただしい数の斬撃帯びた痛ましい姿をする姉さんがそこにいた。


 直前に使った魔法のお陰だったのか、幸いにも致命傷は避けられていた。 しかしそのおびただしい切り傷から出る姿は痛ましい。


「危ない所でした……。 しかし、これ以上は魔法を使えませんか……」


「姉さん、もうこれ以上は……」


「何を言っているのです。 体力も十分に回復していない貴方に何ができると言うのです?」


「……具体的な作戦を話してる時間は無いから一か八かの賭けになるけど、信じてみる気はある?」


 一瞬だけ目を閉じて考えを巡らせた姉さんは目を開けると俺の方を見て。


「――えぇ。 貴方を……いいえ、ハルトを信じます。 だって私の()()()()()()()ですもの」


 と最愛の人に笑いかけるような笑顔を向けてくる。


「そっか……。 じゃあ失敗したらその時はごめんね」


「いいのですよ。 ()()()()死ぬ時は一緒よハルト」


「うん」


 俺は剣を構えてフォレストロードと対峙する。 姉さんも傷だらけの身体を物ともせずに立ち上がる。


「それで私は何をすれば?」


「難しい注文だと分かってるけど、あいつの動きを止められる?」


「――仕方ないですね。 お姉ちゃんに任せなさい」


「任せた」


 俺は全てを任せてたった一度のチャンスを待つ。


 姉さんは全身の傷を物ともせずに地面を踏み込んで駆けていく。


 フォレストロードへ駆けていった姉さんはそのまま剣で幾度も斬りつけ敵を自分だけに向けるよう誘導していった。


 フォレストロードは当初俺の方にも警戒をしていたようだが、さすがに姉さん相手に余所見をしている余裕は無かったのだろう。


 姉さんはフォレストロードを誘導しながら()()()()()()()()()()()()。 後方へ下がった姉さんは背を大木に塞がれて逃げ道を無くしてしまう。


 これは……あの時の俺と同じ状況? いや、そんなまさか姉さんが同じミスをするとは思えない。


 フォレストロードは今度こそ逃がさないとばかりに大きな口を開けて姉さんと食べようとするが……。


 姉さんはなんと持っている盾をすかさずフォレストロードの口に入れて閉じられないようにした。


 姉さん、なんて無茶苦茶な!


 しかし既に激戦をしていたのもあり、盾はボロボロになっていてフォレストロードの咬合力(こうごうりょく)には長時間耐えられそうになかった。


 姉さんは腕を盾から素早く離すと同時に、少しだけ距離をとってフォレストロードの牙から難を逃れた。


 フォレストロードも口に支えられた盾なんかもろともせず噛み砕いたのだが、そこへ。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


 と姉さんは叫び飛び上がながら剣を地に向けた。


「これで終わりです!」


 姉さんはそのまま閉じられたフォレストロードの突き出ている口を地面に縫い付けた。


 地面と口を剣で縫い付けられたフォレストロードは口を開けられない為、くぐもった声を出しながら暴れている。


 すぐさま後方に飛び距離を開けた姉さんは。


「ハルト、今です!」


 こんな方法でフォレストロードの動きを止めるだなんて! なんて無茶苦茶な人なんだ。


 俺は全ての力を右手に注ぎ込むように力を入れる。 頼むぞスティグマ、お前が与えてくれた新しいスキルが俺の想像どおりならば。


 『アクセル』


 と心で唱えて俺は走り出すと、世界がスローモーションの様にゆっくりと動き出す。 いや、これは世界が遅くなったのではなく、俺が早くなったのだろう。


 これなら……これなら!


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺の攻撃ではあいつの身体に傷をつける事はできないだろう、それでも『アクセル』の速さと合わせれば!


 誰よりも……誰よりも早く、足を前に突き動かして進んでいく。 その度に俺の視界が変わっていくが、身体がこの速度に順応できないのか、足からブチブチと繊維が千切れる音が聞こえる。 骨が軋み悲鳴を上げるが、それでも俺は止まる事を許さない。


 フォレストロードは縫い付けられた地面から口を引き剥がしたが、もう遅い。


 間合いに入った俺は剣を真上に構え、速度を載せた斬撃をフォレストロードの首元に斬りつける。


 刃は今度こそ、その体に阻まれる事も無く斬り進んでいくが、俺の両腕もやはり耐えられないのか筋繊維がブチブチと千切れた音を出し、骨は軋み悲鳴を上げていく。


「これで……終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!」


 持てる全ての力をその刃に注ぎ込み、肉を血管をそして骨を断ち切るように剣に全ての体重を乗せる。 そしてついにフォレストロードの首を半ばまで斬り開いた。


 切り開かれた首元から血の雨が俺と世界を紅に染め上げていく。


「グギャァァァァァァァァァァァ」


 と泣き叫んだ後、フォレストロードはゆっくりと倒れていき、そのまま瞳から光を失っていった。


「俺達の勝ちだ!」

「私達の勝ちです!」


分割も考えましたが、ここは一気に書き終わらせたかったんです(´・ω・`)

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