第4話 VSフォレストウルフ
並走していたフォレストウルフは自分達の存在がバレたのが分かったのか、忍のを止めて左右に分かれこちらに向かってくる。
考える事はこちらと同じく各個撃破ということか。
フォレストウルフはその体躯を使ってこちらに素早く駆けてきた。
「早い!」
速度を緩めることもなく、駆けてきたフォレストウルフは大きく飛び上がり、鋭い爪がついた手をこちらに振り下ろしてくる。
盾でその爪をなんとか防いだ俺はすかさず剣で斬りつけようとするが、それを察したのか素早くこちらと距離をとって警戒をする。 盾を見ると鋭い爪の後がハッキリと盾に刻まれていた。
「やっばゴブリンと違って一筋縄ではいかないか」
さすがゴブリンなんかよりも上位の魔物だ。 伊達に『森のハンター』等と呼ばれてないし、素早さも攻撃力もゴブリンなんかより格が違うな。
俺は距離をとって警戒しているのか、動こうとしないフォレストウルフに向かって素早く駆けていく。
待っていても戦況は不利だ。 相手の方が格上なんだから、受け身のままじゃ駄目だ。
俺は土を踏みしめフォレストウルフに向かって駆けていく。
剣を左斜め下に構え、そのまま右斜めに斬り上げた。
しかし、フォレストウルフは後方素早く後退して容易く避けていく。
「それは読んでいたよ!」
俺も避けられると分かっていたので更に一歩前に進んで、今度は剣を振り下ろすのだが、それすらもフォレストウルフは察していたのだろう、素早く横に避けて剣筋から逃れていく。
俺は剣を勢いよく振り下ろしたのもあり、ほんの一瞬動きが止まってしまった。
それをフォレストウルフは逃さず、今度は口から生えている鋭い牙で左手に噛み付こうとしてきた。
危険を察知した俺は盾の表面を相手に殴りつけるように左手を横に薙ぎ払う。 フォレストウルフの牙が腕に噛み付く寸前だったのもあり、盾の表面から顔へ見事にクリーンヒット。 フォレストウルフを薙ぎ払った。
『ギャウン!』と鳴いてフォレストウルフは地面に転がる。
口から少し血を流しているようだが、あまりダメージを受けているようには見えない。
さっきのはかなりヤバかった。 これが同等か格上との戦闘か。
いくら格上といってもゴブリンなんかとは全然違う。 一歩間違えれば俺はあのまま喰われていただろう。
喰い殺せなかったフォレストウルフは『グルルルル……』と唸り声を上げながらこちらの隙を伺っている。
こちらも剣を構えて慎重に距離を置く。
互いに睨み合っていたのだが、そんな状況も永遠には続かない。
フォレストウルフは居ても立ってもいられなくなったのか動き出した。 左右に素早く動いてこちらに読まれないように前に進んでくる。
くそ、こんなに素早く動かれると迂闊に攻撃できない!
フォレストウルフはそのまま飛び上がり手を振り上げてきた。
「また爪の攻撃かよ! そんな攻撃当たると思うなよ!」
俺は盾を構えて反撃しようとしたのだが……。
「うっそ……!」
なんと攻撃するのではなく、盾に刻まれている爪痕を引っ掛けて器用に盾に登っている。
「重っも……!」
左手一本で大型犬サイズの体重を支える事なぞ出来るはずもなく、そのまま体が後ろに倒れていった
「ぐはっ!」
フォレストウルフは倒れた俺を跨がり、前足を器用に使ってこちらの両腕を拘束してきた。
前に突き出た大きな口を開けて4つの鋭い牙がその姿を現す。 そのまま牙は俺の右肩に喰らいつき、尖った牙が体を貫いていく。
「ぐぁっ!」
4つの牙が埋まった傷口から血がフォレストウルフの口内に流れてその口を潤していく。
「このままじゃ……」
俺は目線を足に向けると、左の太ももに付けていた小振りのナイフが目についた。
これなら……!
フォレストウルフはそのまま肩に喰らいついており、骨ごと肉を咀嚼しよう考えていたのか、口に力を入れてその牙を更に深く埋め込んできた。
「痛てぇ……が!」
油断していたのか、それとも喰うことに集中しようとしていたのか、両腕の拘束が少し緩んでいった。 喰い込まれてる肩はすごく痛いが、これなら腕を動かせそうだ。
「素直に俺が喰われるだけだと思うなよ!」
その隙を付いて俺は小振りのナイフを引き抜き、体毛に覆われた横腹を素早く押し込んでいく。
『ギャァァン!』
予想外の事だったのか、肩に埋め込んでいたその牙を口から引き抜いて叫んでいる。
「ザマァ見ろ! これでも喰らえ!」
勢い付けて俺は右足を使ってフォレストウルフのお腹を蹴り上げた。
『ギャン!』
と鳴いて後ろから無様に倒れていった。
「ざまぁ見やがれクソ犬!」
フォレストウルフは起き上がろうとするのだが、脇腹に刺さったナイフの痛みで思うように立ち上がれそうにないみたいだ。
俺は剣の柄を力強く握ろうと思うのだが、肩の傷口が邪魔をしてくる。
少し離れた方で『キャン!』と鳴く声がした。 目線を少し移すと姉さんが1匹のフォレストウルフを倒したようだった。
その後ろ姿は綺麗で、しかしその姿が遠く……すごく遠くにいるように感じた。
今はまだその後ろに手を伸ばしても俺の手は届かない。
それでも……それでも……!
「俺は……俺はこんな所で負けられない」
痛みを我慢して両手で柄を持つ。
姉を追うように、少しでも……少しでも前を歩んでその後姿に手が届くように。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
そうだ、足を前に……前に動かせ! どんなに遠くても……遠くても! 俺は……俺は!
「これで終わりだぁぁぁぁぁぁ!」
俺は力強くその剣を首に振り下ろした。
フォレストウルフの首と胴が離れ、その切り口からは血が絶え間なく流れ、地面を紅く濡らしていった。
「はぁ……はぁ……」
ゴブリンなんかよりも断然濃いソールが俺の体に入ってくるのが分かる。 腕が……そして足が……体の細胞が作り変えられていく様に感じる。
「俺の……俺の勝ちだ!」
と独り言をその死体に向かって叫ぶと右手のスティグマが輝き、脳内に『アクセル』の文字が現れていく。
「よし……よし!」
新しいスキルを覚えたようだ。 相変わらず文字しか現れないのでどんなスキルか使ってみないとわからない。
スキルを覚えたのも嬉しいが、それよりもなんだか一つ自分の壁を超えたように感じる。
勝利の余韻に浸っているとこちらに走ってくる音が聞こえる。
「姉さん! 姉さん勝ったよ俺!」
と振り向いて向かってくる姉さんに声をかけたのだが、必死な顔をしている。
どうしたんだろう?
「ハルト! ハルト逃げて!」
姉さんは何かから庇うように俺を両手で突き放した。
「え?」
突き放された俺は俺は後ろに倒れながらも姉さんの顔を見ると、安心したのかニッコリと微笑み笑顔に変えた。
よ か っ た
すると突然世界を包み込むかの様な大きく黒い影が現れ、目に見えない速度で駆けぬける。
『ドン!』と大きな音を出して姉さんを吹き飛ばしていく。
吹き飛んだ姉さんは大きな木にぶつかり、あまりの威力だったのか『ギギギ』と音を立て、その木は幹から崩れていった。
「ガハッ!」
「姉さん……? 姉さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
勝利の後って油断しやすいよね。




