第10話 俺の右手が光り輝きだしたんだが
「ハルト、どうしたの?」
頭の中に何かが入って来る。 『気配察知』?
「えっと……良くわからないんだけど、気配察知って頭の中に出て来て」
「気配察知?」
「そうじゃなくて……あっ!」
これもしかしてスキルでは? ってことは魔物を倒せば何かしらのスキルが手に入るということか? よく検証しないとわからないな。 そもそもゴブリンを倒したらなんで『気配察知』なんだよ。
にしてもどう説明したら……そうだな。
「えっと……何ていったらいいんだろ。 スキルってわかる?」
「魔法とか特技みたいな事?」
「似たような物といえばいいのか、なんというか……特殊能力と言えばわかる? スティグマが光ってから『気配察知』っていう能力が使えるようになったみたいなんだけど、姉さん何か知らない?」
「そのスティグマが当主を継ぐものに現れるという事以外は知らされていないわ」
「そうか、姉さんも知らないのか」
ってことは本当に何だろうな俺の右手。 子供の頃は『俺の右手が唸って光る!』とか冗談でやってたけどマジで光るじゃん。
この右手をなんとか上手いこと扱えるようになったらいい感じに成長できそうな予感はするが、如何せん詳細が全く分からないのでこればっかりは地道にやっていくしかない。
もっと分かりやすいチートとかだったら良かったのに……と思ったけど、無いよりは全然マシだな。 正直何もなかったら生きていける気がしないし。
スティグマってやつの秘密を他に知ってる人がいたらいいんだけど……。
「姉さん、他にスティグマに詳しい人とか知らない?」
「もしかしたらお父様やお祖父様ならご存知だったかもしれないけど、でも今は……」
「今は?」
「――今はもう……」
「あっその……ごめんなさい……」
「別にいいのですよ。 ほらっそろそろ討伐部位を剥ぎ取って次に行きましょう」
なんとも言えない気持ちは一旦心の奥に仕舞い、討伐部位を剥ぎ取って次のゴブリンを探すことにした。
ちなみに討伐部位は左耳になる。 右耳を出しても討伐したと認められないらしい。 これは討伐数を偽る者への対策だ。
さて、今回討伐依頼をこなすのに必要な数は5体なので残り4体。 このだだっ広い草原に警戒もせずゴブリンが歩いてるのかというと、実は少数だがいるらしい。
本来はこの草原の奥にある森で生活しているらしいのだが、時たま集団に馴染めずに森から出てくるゴブリンがいるみたいなのだ。 先程倒したゴブリンが『はぐれゴブリン』というらしい。
あれ、俺のことかな?
そんな馬鹿な事を考えてる間になんとなく、こう……なんとなくいる方向が分かる。 これはもしかしてさっき手に入った『気配察知』のおかげかな?
まだ詳しい能力等はわからないが、まだはぐれゴブリン1匹に右往左往してる俺には有り難い能力だ。
こういう時に『ステータス!』とか言って情報が出てくれたら便利なのだが、この世界にそんな物はないのだろう。 いや、ほんとスティグマに能力があるだけで助かるし、何もなかったらぶっちゃけ冒険者なんてできる気がしないと思っていたのは内緒だ。
こんな感じではぐれゴブリンを1匹ずつ討伐する事数時間、夕暮れには十分な数の討伐部位を集めることができた。
初めての討伐依頼にしては十分じゃないかと思う。 それもこれも右手のお陰だな。 生まれて始めて感謝したよ。
ちなみにだが、何か新しい能力でも手に入らないかな? と考えて戦っていたのだが、これといって新しいスキルを覚えたとかはなかった。
「さて、これで依頼の数は集まりましたし街へ帰りましょうか」
「そうだね、帰ろうか」
帰る途中に、魔物を倒した時に体に何かが入ってくる感覚があると話してみたら、これがソールというものらしい。
以前姉さんが話してくれたが、自分より強い物を倒すと、その糧をソールという形で得る事ができるのだ。 つまりは経験値みたいなものだ。
ただ、ゲームで出てくる経験値と違って、自分より弱い相手を倒してもソールは得られないのである。
つまり俺はまだはぐれゴブリンより弱いということだ。
「地道にやっていくしか無いな」
「どうしました?」
「いや、なんでもないよ」
こんな事を考えてる間に冒険者ギルドへ帰ってきた。 受付であるエミリさんに今回の討伐部位を渡す。
「ひーふーみー……確かに5つありますね。 お疲れ様でした。 これが今回の報酬になります、ご確認ください」
数えるとはぐれゴブリン1匹につき1銀貨になる。 命をかけたのに割に合わないなと思ったが、この感覚は俺が平和な現代で生きていたからなのだろうか。
「それでは、以上になります。 お疲れ様でした」
とのことで今回の依頼はこれで終了だ。
「姉さん、これ今回の報酬」
「それはハルトの物ですよ」
「えっでも……」
「私は今回見ていただけだから。 これはハルトが頑張って稼いだお金なのですから、大事に使いなさい」
「うん、ありがとう姉さん」
姉さんは俺なんかより遥かに強いのだろう。 あの時俺を助けてくれた時の強さは俺の頭に今でも刷り込まれている。
本来姉さんは『はぐれゴブリン』の討伐なんてやらないだろう。 もっと稼げる依頼を受けるはずなのだ。
それでも俺にゴブリンの討伐依頼を受けさせ、しかも報酬を全て俺に譲ってくれる姉さんには足を向けて寝られない。 俺が出来ることは、何よりも早く強くなり、姉さんの隣に立つ事だ。
「それじゃあ疲れてると思うし宿に帰りましょうか」
二人並んで宿に帰る。
もう日が落ちかけていて空がオレンジ色に輝いている。 こうしてると夕暮れを歩く恋人同士に見えたりするのだろうか。
いや、見えてるといいなと感傷に浸っていると宿に着いた。
今日のメニューはそろそろ味が想像つくぐらいには食べてきたおっさんの手料理。 この濃い味付けは疲れた体によく馴染む。
おっさんの手料理をペロリと完食すると、余程疲れていたのかあくびが出てきた。
食べ終わって部屋に戻り、ベッドにダイブすると一気に眠気が襲ってくる。 天井に向けて右手のスティグマを見上げるが、昔も今も変わらないまま堂々と右手の甲に刻まれている。
「明日も依頼頑張るか……にしても本当になんだろうな、この右手」
そう独り言を愚痴りながら深い眠りについた。
ということで第10話にて第1章完結となります。
第2章は2019年4月から開始となる予定です。




