飯坂温泉13!
「あー、飲んだ騒いだ!」
21時半にお店を出て、私たちは旅館に向かって歩き出した。暖色の街灯が、古風な木造建築の街を照らす。
「地元の人たちはまだ飲むんだね」
困ったように笑うつぐピヨは、夜の街灯りにほんのり照らされて、ちょっと色っぽい。
「遅いときは2時くらいまで飲むんだってさ」
「まどかちゃんも2時くらいまで飲むかい? 私とサシで」
「そういえば沙希、フルーツポンチ食べなくて大丈夫なの?」
さらっと流され暗に断られた。
「大丈夫じゃないよ! 実はあちこちで買い物して桃やらリンゴやら福島のフルーツを既に宅配便で家に送ってるよ! 帰ったらフルーツ満喫するんじゃい!」
福島はフルーツ大国! フルーツの香りがする夢のような女子(最近これ言ってて、自分頭おかしいなって思うようになってきた)が茅ヶ崎から遠路遥々上陸するのも必然やも知れぬ!
お店から少し離れると、そこは店舗兼住宅が並ぶ、静けさが心地よい大人の街。大声を出していた私は近所迷惑と情緒を鑑みて、静かに街の空気を感じることにした。
「なんかいいね、この静かな感じ」
思わず心がほころぶ。
「茅ヶ崎だったら夜の駅前は酔っ払いだらけでうるさいからな」
「まどかちゃん、頭悪そうなアンチャンにナンパされたよね」
「沙希もだろ」
そう、あれは夜8時の茅ヶ崎駅南口近くでのこと。北口のエメロードにあるドーナツ屋さんからの帰り、地下道から出て小さな飲み屋が並ぶ狭い通りを歩いていたら、店先で飲んでいたバカクズクソのトリオにナンパされた。
お前らに見せるマンピーはないと思っていたら、まどかちゃんが「うるせーブッ◯すぞクズ!! 野郎同士でチ◯ポでもしゃぶり合ってろ!!」とか言って中指を立てたらバカクズクソに喧嘩を買われたから、慌てた私はまどかちゃんの手を引いて走って退散した。バカクズクソは怒鳴って追いかけてきたけど、バカはふらふらして電柱にぶつかり、クズは逆走チャリに轢かれ、クソは犬の糞らしきものを踏んで滑って転んだ。
そんな、ほんの数ヶ月前の思い出がある。
なんだか、茅ヶ崎が懐かしくなってきた。




