飯坂温泉11!
「ふはーあ、温泉だあ、ごくらくごくらく極楽寺……」
男どもが風呂から出てしばらく、こんどは私たち湘南のピチピチギャルが湯浴みをしている。今ごろ彼奴らはお食事&三味線タイムだろう。旅館の夜を存分に楽しみたまえ。
「ぽかぽかで気持ちいいね。からだの芯まで温まりそう」
からだの芯まで温めているつぐピヨが可愛くて、私の心もぽっかぽか。
「ぽかぽかっていうか、熱くない?」
「私の情熱で沸かしたお湯だからね」
まどかちゃんの言う通り、冗談抜きでけっこう熱い飯坂温泉の湯。でも、なめらかでお肌がスベスベになりそう! いい湯だなぁ。ここはふ~くしま飯坂の湯♪
「情熱かぁ……」
「どしたのまどかちゃん」
「情熱を傾けてきたものを失ったばかりだからさ」
「まどかちゃんには音楽があるさ。若い私たちには夢がある!」
「そっちの才能は沙希のほうがあるんじゃない?」
「ふむふむ、だがしかし、仮に私のほうが才能があったとして、それがまどかちゃんが音楽をやらない理由になるかい?」
「ならないね」
「そうだろう? むしろ私らのシナジー効果でもっといい音楽ができそうだろう?」
「二人とも、音楽やるの?」
つぐピヨが天然上目遣いで私たちを見ている。
「卒業式で歌う卒業ソングをつくるんだよ。私たちの学校は選ばれた生徒が卒業ソングをつくることになってるんだ」
「選ばれたの? すごい!」
「いやあ、それが、コンテストはこれからで……」
「頑張って! 私、応援してる!」
「ありがとおつぐピヨ! 元気億倍アソパソマソだよ!」
「ふふふ……」
どう反応したらいいかわからくてとりあえず愛想笑いするつぐピヨも可愛い!
「つぐピヨは何かやりたいことあるの?」
「私は漫画家になりたい」
「いいじゃん漫画家! 漫画はロマンだよ!」
「私も読んでみたいな、つぐみの漫画」
「え、えええ!? 恥ずかしいよぉ……」
「恥ずかしいことをさらけ出すのがクリエイターだよつぐピヨ。つぐピヨの漫画が世に出回ったら、知らない人だけじゃなくて私たちも読者になるよ」
「うぅ、ありがたいけど恥ずかしい……」
「それで、漫画は描いてるの?」
まどかちゃんが訊ねた。
「うん、最近ちょっとずつ描き始めたけど、ストーリーを考えるだけじゃなくて、コマ割りとか仕草とか風景に小道具、難しいことがいっぱいあって大変だなって」
「ほうほう、でも、大変な思いをして描いたつぐピヨの漫画は、きっと素晴らしい作品になるよ! こんなに可愛くてやさしい子が描いてるんだもん」
「なるといいなあ、読んでくれた人が幸せになる作品に」
「なるなるハッピーなある! みんなハッピーライフを送ろう!」
まどかちゃんとつぐピヨが呆れたようにクスリと笑んで、私はニヒヒとはにかんだ。
自然な流れで会話が途切れると、ちょろちょろと源泉滴る音が浴室にやさしく響き、湯気が天井に舞い上がってゆく。
これは、嵐の前の静けさか。陸上競技から身を引いた私たちが次のステージに進む前の幕間か。
しかしまあ、まどかちゃんもつぐピヨも、将来のビジョンを描いててすごいなぁ。私なんか日々場当たり的で具体的に何をして生きて行こうかなんて全然決めてない。
高校を卒業したら就職する人も多いわけで、私もそろそろ将来のビジョンを具体的に描いていかないと、人生詰みそうな気がする。
常に『今』が楽しければそれでいいけど、人生は修行の場。残念ながらそうはいかない。大変なときも前向きに立ち向かえる生き方ができるように、この濃霧の中でも舵を切らないとなぁ。
元気が取り柄の私はひとり、こうして不安と闘っていたりもする。でも、人生は笑っていたほうが楽しい。だから私は、このメンバーの中ではだいたいいつも笑顔! キープスマイル!




