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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
卒業旅行!

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飯坂温泉6!

「ごちそうさまでしたー!」


 うーん! まんぷくまんぷく! ここはフルーツもラーメンも餃子もうまうまな街ですな!


「お姉ちゃんたちどこから来たの?」


 私がお会計をしていると、お店のおばあちゃんが問いかけてきた。


「神奈川県の茅ヶ崎です!」


「ああ、上原うえはらけんの」


「そうです! その茅ヶ崎です!」


 上原謙は俳優、加山かやま雄三ゆうぞうの父。ゆかりの有名人がわんさかいる茅ヶ崎だけど、高齢者は茅ヶ崎といえば上原謙や香川屋分店のメンチを愛した小説家の開高かいこうたけし。ふむふむ福島の人にも知られているとは、茅ヶ崎はこれといった観光スポットのない小さい街だけど、それなりに知名度があるようだ。


「よく来たねぇ、きょうはどこさ泊まるんだべ?」


「この近くの旅館ですよ!」


「そうかい、なんもねぇとこだけど、ゆっくりしていきなんしょ」


「うん、どうもね! ありがとね!」


 それから少しの間、私はおばあちゃんとお話しをしてお店を出た。当てもなく街を歩いていると、いつの間にか川沿いに出た。階段を伝って東屋やベンチが設置されたスペースに降りると、摺上川をとそこに沿って立つコンクリートの建物を間近に臨める。


 胸の高さまであるフェンスに身を預け、澄んだ空気を吸う。


 いつもと違う世界の中にいて、少し茅ヶ崎が恋しくなったりもして、そんな想いを抱きながら穏やかに流れる川とオレンジに染まりゆく空を仰ぐ。しっとりやさしい風が頬を撫でればひらりふわりと数十の葉が舞って、少しずつ、少しずつ手を引いて、白い季節を連れてくる。そんな東北の晩秋を、私は生まれて初めて肌で感じている。


 やけにガヤガヤしているでもなく、どちらかといえば静かなこの飯坂温泉は、傷心を癒やしにひとりでぷらっと訪れるのもいいかもしれない。


『心を癒しにきなんしょ! 福島の奥座敷、飯坂温泉』


 なんてキャッチフレーズが合うような。電車とかポスターとかおばあちゃんの言葉から方言をちょっと覚えたフルーツの香りがする夢のような女子、白浜沙希。


 そういう意味では、人がちょっと少なめで、心を癒しに来る人も多い茅ヶ崎に似てるのかも。



 ◇◇◇



 沙希は今、何を考えているんだろう。


 しっとりした風にさらさらと髪をなびかせ、私の隣でたそがれる沙希。


 いつもあっけらかんしていて、さっきの食堂のおばあちゃんとか、初めて接した人ともすぐに仲良くなって、とにかく元気なイメージのある沙希。


 そんな沙希だけど、にこにこしながらも常に人の様子を窺っていて、たまにズバッと鋭いことを言う。私が陸上競技で挫折して音楽の道を進もうか思い悩んでいたさっきの食事中も、笑顔でさらりと私の背を押した。ふわっと軽い力を込めて核心をズキンと押してくる沙希に、私は人間力で敵う気がしない。


 己の無能に絶望していると、スマホのバイブが刹那に鳴った。通信アプリの着信だ。相手はつぐみを隔てて2つ隣に立つ自由電子くん。


『僕は不器用で頑固だけど、弱い僕を守ってくれるまどかさんが好きです』


「なっ!?」


「どしたまどかちゃん」


 沙希が首を傾げて、つぐみはにこにこ微笑んでいる。武道と陸は無表情で私を見ている。自由電子くんは川の流れを見ている。


「いや、なんでも。こっちの話」


「ふむふむ、そっかそっか」


 と、素知らぬフリをして川に目を遣った沙希だけど、顔がにやけている。くそ、察したなコイツ。

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