飯坂温泉5!
「うーん、つるつるうまうまー!」
これぞ中華そばオブ中華そば! チャーシューやや硬めで噛むほどに味が滲み出てくる! 麺によく絡む鶏ガラしょうゆスープは薄すぎず濃すぎず適度な濃さ! これはうまい!
「昔ながらのラーメンだね」
つぐピヨ、なんかこう、福島県がすごく似合う素朴な可愛さ。
「でも、麺がつるつるでのど越しなめらか」
私たちは飯坂温泉の名物、飯坂ラーメンと円盤餃子を食べに近くの食堂に入った。コンクリートの床にテーブルが並べられた、昔ながらの食堂。いいねぇ、なんだかタイムスリップしたみたい。テレビが映しているのはたぶんローカルワイドショー。これもまた地域ならではの味。
さっきから餃子もつついている。ニンニクたっぷりでじゅわパリッじゅー! これは白飯と麦の炭酸飲料が欲しくなりますな!
隣のテーブルの男どもは黙々と食ってやがるぜ。よっぽどお腹空いてたんだな。
テレビに表示されている時間は2時30分。飯坂温泉駅に着いて観光案内所に寄って愛宕山公園に登って下山してしばらく歩いたり立ち止まったりして旧堀切邸を見学して、けっこう歩いてきたのにまだ2時間くらいしか経ってないんだ。
ここにはのんびりした時間が流れてるんだなあ。
茅ヶ崎にものんびりした時間を求めて観光しに来る人は多いけど、その茅ヶ崎人である私は部活とか学校で「まだこんな時間!?」みたいな悪い意味で時間の流れが遅いことが多いから、きょうみたいに何もしないでのんびりできているのはベリベリハッピー。
お店のおばあちゃんものんびりしていて、気さくな田舎のおばあちゃんっていう感じ。なんだか心が和む。正に日本のおばあちゃん。
おや? まどかちゃんがぼんやりしてる。
「どしたのまどかちゃん」
「え? ああ、うん、ちょっと考えごとしてた」
考えごと。まどかちゃんは夏の大会で陸上競技での挫折を味わった。その中で、これから自分はどんな道を進んで行けばいいのか悩んでいる。いまもそれについて考えてたのかな。
「そうかあ、まどかちゃんは頭いいからね」
「そう?」
「そうだよ、陸上できるし音楽できるし」
「フッ、そうだね」
いたずらっぽく笑うまどかちゃん。陸上ダメなら音楽はどう? という私のメッセージをどうやら受け取ったようだ。まどかちゃんはもうその方向で考えているような気がしたから、私はその背をちょっと押してみた。
なお、私は最初から何もなく、生まれも育ちも湘南茅ヶ崎、瘋癲の沙希ちゃんになっている。このままだと月曜の夜ふかし番組にインタビューされかねない道を辿りそう。
でも、この旅に出て、さらさら揺れる紅葉を見上げ、その背景の青空を仰いで、山の上から福島の街を見下ろしていたら、そういうことはどうでもいいなあって、じわじわと思い始めてきた。前に進み続けて、こうやって休んで、また進んで行けばなんとかなる。そんな気がしている。
レンゲでスープをすすり、舌に染み込ませて味わいながら、気付けば私も物思いに耽っていた。




