飯坂温泉4!
道に迷った、というか旅館の場所さえ確認せずどこを目指して歩けばいいかもわからない私たちは、餃子の看板に釣られて路地に入るもそのお店は休業日で、更に奥へと入っていった。
この土地の名物といえば餃子を円盤型に並べて皿に載せた円盤餃子らしいので食べてみたい。ほかのお店を探そう。
人通りまばらで夜にひっそりと栄えそうな飲み屋や食堂のある路地から逸れると、私たちはいつの間にか異空間に踏み込んでいた。
「わあ、なんか江戸時代の街みたい。建物が蔵っぽい!」
蔵とか見ると旅してるって感じがする!
「ほんとだね、私、こういう雰囲気好きなんだあ」
「つぐピヨ好きそうだもんね」
「うん! ああ、いいなあ……」
つぐピヨうっとり。
石畳の道に江戸情緒あふれる建物が軒を連ねるこの場所はきっと、飯坂温泉の中心街。
数組の人通りがあってさっきの裏道より賑わっているのに、どうしてだろう、この辺りはスーッとした、独特の静けさがある。目には見えない思念が漂っているような、そんな不思議で叙情的な温泉街。
ひんやりしっとりした風が吹く度、街路や邸宅の塀からその姿を覗かせる黄金や紅が擦れて郷愁を誘う。
茅ヶ崎でも古いお店では扉がカラカラと開く音がするとか、そういうことがあると聞くけど、この辺りは古くからの人が今でも歩いている。そんな感じがする。
お、右手にお土産屋さんがある。帰り際に買って行こうかな。
少し歩くと、何やら歴史的資料のありそうな邸宅、旧堀切邸なる古き良き日本邸宅あったので、入って見学してみた。入場無料。邸宅をそのまま資料館にしたような小ぢんまりとした建物で、私たちは静かに見て回った。
「歩き疲れたし、足湯に浸かってみようか」
建物の外、塀の内には横長な足湯がある。山に登って街を歩いて疲れたから、ちょっと休憩。
「ふへぇ~、足湯もいいですなぁ~」
足だけ湯に浸かってぽちゃぽちゃぱちゃぱちゃ。迷子になったけど適当に数分歩いたら無事旅館を見つけ、チェックイン時刻まではまだ2時間以上あるので街あるき。すぐそばの旧堀切邸に戻ってその敷地内にある足湯に浸かった。
「ああ、ぽかぽかだあ」
「気持ちいいね」
ほっこりする武道と、ふふふと幸せそうな笑顔のつぐみちゃん。
「俺、足湯初めてかも」
「おやおや陸くん、温泉は初めてかい?」
「いや、温泉は何度か行ってる」
「私も初めてかも」
「まどかちゃんも温泉初めて?」
「いや、温泉は何度か行ってる」
「自由電子くんは?」
「百回目くらいかもしれません」
「おおっ! どこ行ったの?」
「福島県だと湯本に1回、あとは箱根とか伊豆の下田とか、あとはどこだったか……」
「すごい! 瘋癲の自由電子くん!」
「私も連れてってくれれば良かったのに」
むくれるまどかちゃん。フグみたいでかわいい!
「あ、いや、まだ中学生のころだったので……」
「そっか、じゃあこんど連れてってね」
「はい」
素っ気なく言う彼は、きっと心の中で微笑んでいる。
足湯に浸かって、紅葉の掠れ舞い散る音を聞いているだけの静かな時間。毎朝5時台に起きて部活の朝練に行って、勉強したりしなかったりして、夜に帰って、休日は部活の大会があったりして、そんな日常を送っていた私たちは今、こうして何もしないをしている。
のんびりするって、いいなあ。
ぐう~。
おや、誰かのお腹が鳴った。
「わりい、腹減ってよお」
武道だった。
「そろそろお昼にしよっか。私も朝、出発前にフルーツドカ食いして東京駅のニューデイズで買ったトッポを新幹線で食べて観光案内所で買った揚げまんじゅうを食べながら愛宕山公園まで歩いて以来何も食べてないや」
「けっこう食ってるな」
陸に突っ込まれた。
「そういえば女子3人と自由電子で分け合ってたな。俺は一人で1パック食い切ったが」
「食い損ねたの俺だけか」
「はい、ラスト1個」
「お、サンキュー」
私は陸にラスト1個の揚げまんじゅうを差し出して、観光案内所でもらったマップを広げて、近くの飲食店を探した。




