飯坂温泉2!
観光案内所で買った揚げまんじゅうを片手に駅前を流れる摺上川に架かった橋を渡って左に進み、住宅地の脇に伸びる坂がある。ここが愛宕山公園の入口らしい。黄や紅の間からの木漏れ日はほんわかやさしくて、純粋に心が和む。少しキツイ勾配の道からは飯坂の街を見下ろせる。あそこが温泉街の中心部かな。
それにしてもここは、緑が深い。紅や黄色もあるけど、みんなきれい。東北の冷え込む夜が木や葉をキュッと引き締めて、濃くて鮮やかな発色になるんだろうなあ。
そうそう、楓の血液型、紅がO型で黄色がAB型なんだって。
そんなことを考えながら坂を登りきると、左後方に祠が現れたので、スイッチバック的にその前に立った。
「ふむ、賽銭箱はないみたいだね。じゃあ、挨拶だけして行こうか」
パンッパン!
みんなで二礼二拍手一礼。さらさら擦れる葉の音に混じり合う、弾ける拍手の音。心が洗われる。
神聖な気持ちで茂みを抜けると、見晴らしスポットに出た。
「おや、ここには神社がある。こっちも神社がある。ていうかこっちが本殿?」
数メートルほどの参道がある小さな赤い神社。
「こっちも賽銭箱ないんだ」
と、まどかちゃん。
「ほんとだ。なんでだろう」
「さあ。沙希みたいにカネにまみれてないんじゃない? 世の中カネだよカネ! みたいな雰囲気を漂わせない神様なんだよ」
「私はともかくほかの神様を怒らせるような言い方ですな」
こちらの神社にも二礼二拍手一礼。
福島の神様こんにちは、福島県はフルーツが名産で、私もよく福島のモモを食べていますフルーツの香りがする夢のような女子、白浜沙希です。きょうは神奈川県茅ヶ崎市から仲良しのみんなと遊びに来ました。どうかこの旅が良き思い出になるよう見守っていただければ幸せにございます。それではまた、失礼いたします。
「景色いいし、ちょっと休憩しようか」
「おお! 広い景色だなあ!」
山男っぽい武道がその筋骨隆々な肉体に空気を取り込んでいる。
「うん、いいね! ここの景色、わたし好きだなあ」
「景色を愛でるつぐピヨ可愛い!」
「つぐピヨ!?」
「ピヨピヨ!」
「え、えええ……」
「つぐみ困ってるぞ」
「じゃあまどがお」
「がおってなんだよ」
「がおーっ」
「ぎゃおおおっ」
「ノッてくれるまどかちゃん可愛い!」
「な、なんだよ、急にそんな……」
まどかちゃんは頬を少し赤らめムッとして、視線を逸らしている。
お社さまを背に、福島の街を臨む。山の風は澄んでいていいですなあ。なんだかスーッと全身に染みわてっていく感じ。
神奈川県の高い山、丹沢の頂上から見下ろす景色のように街の向こうに海や江ノ島はなく、ずっと向こうに山がある。中学の遠足で行った青木ヶ原樹海を街に置き換えたような感じで、ずっと先まで陸地になっている。
ああ、こういう景色もあるって、何年ぶりに思っただろう。
海がないのに、広大な景色。
「ずいぶん遠くまで来たね」
海が見えなくて、空気が澄んでしっとりひんやりしているこの街。関東の空気は少しざらざらしているから、土地の違いをいやでも思い知らされる。
「そうだな」
隣にいる陸が私に応えた。
「島国日本の国土がこんなに広かったとはね」
「海辺にいると島国を実感するからな」
「ここは海より湖のほうが近いらしいよ」
「猪苗代湖か」
「そうそう、白鳥の湖。明日か明後日にでも行ってみようよ」
「おういいな。みんなが良ければ行ってみるか」
「ねえねえみんな、明日か明後日、猪苗代湖に行ってみない?」
「あ、私、行ってみたかったの」
「いいんじゃない?」
「僕も、せっかく近くに来たなら」
「なんだかよくわからんが行ってみるか」
みんなの同意を得て猪苗代湖行き決定! 千円札の野口英世のふるさと!
でもその前に、せっかく来た飯坂温泉! 山に登るだけじゃなくて、もっといっぱい楽しもう!
私たちは広大な眺望を目に焼き付けて山を下り街に出た。




