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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
最後の陸上大会!

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人生で負けなければいい!

 ここは茅ヶ崎の隣、藤沢市善行(ぜんぎょう)にある陸上競技場。


 外周は横須賀の不入斗いりやまず競技場と同じくテントを張れるが木陰はない。直射日光カンカン。小田急線の善行駅から少し離れた小さな山間(といっても宅地開発されている)にあるこの競技場は、開放的かつ閉鎖的な二律背反で、なんだか不思議な感じがする。


 そんな善行での予選大会に、私たち3年生はそれぞれの想いを背負ってきた。


 これから私はきっと人生最後の百メートル走。どうせ予選落ちだけど、最高記録を叩き出したい。不入斗の記録会では目標低めの15秒に設定してぶっちぎり1着だったけど、今回はビリになってもそれより速く走りたい。目指せ12秒台!


 まどかちゃんと陸は、決勝に進むかな。


 2年生の自由電子くんも懸命に2百メートルを走って、武道は砲丸投げドッカーンで、つぐみちゃんはピヨピヨ。


 まあそんな感じで大会は幕を開けた。


 今回も我らが湘南海岸学院と、つぐみちゃんと陸がいる鵠沼海岸学院は隣同士にテントを張った。自由電子くんはすっかりハンマーの振り方を覚え、オレンジ色したプラスチック製のペグをリズミカルに打ち込んでいた。


 さてさて、それではちょっと走ってきますかな、最後の百メートル走。


 大会は記録会とは異なり、出走順は目標タイムごとではなく、走者の過去の記録を参考にして編成される。私は判定員にタイムを計測してもらえる上位2名に入ったことがないので無記録。


 記録会と違って緊張した雰囲気が漂い、わちゃわちゃせず黙々とストレッチをしたり靴紐を結び直す他校の面々。


 あれよあれよと私の走る番が来た。


 内陸のジメッ、さらっとした風が吹き上がる青空の下、スタブロを調整。


 これで最後かあ。


 陸上選手を目指しているわけでもない私がトラックを走るのは、きっとこれが一生で最後。そう思うとなんだか名残惜しい。でも、時は戻せない。やりたかったら大学に行ってもやればいいのかもだけど、新しいことを始めてみたい気もする。


 いまいる場所が、世界のすべてじゃない。


「位置について」


 この合図もこれが最後。


「よーい」


 地に指を突き立て、腰をピンと上げる。自由電子くん曰く、トンボが暑さをしのぐときに尻尾を立てる『オベリスク』と似ているとか。ナツアカネのようなポースの白浜沙希、これで見納め。誰か見てるかい?


 パン!


 ピストルが鳴った。


 おおおりゃああああああ!! 走れ走れ最後の全力疾走フルーツの香りがする夢のような女子白浜沙希!! 両サイド前に出てるもしかして私ビリ!? でもそんなの知らん他人と比べるな人生は自分との闘いだ前回の記録会でぶっちぎりだったじぶんをぶっちぎれおらああああああ!!


 ゴール!! ゴールしました白浜沙希!! ダントツビリの6位!!


「ハァ、ハァ、ハァ、うえっ、うえっ、うえっ……」


 前傾姿勢で両手を膝につくお約束。酸素が、酸素が欠乏している……。


「おつかれさま沙希ちゃん」


 ぴよぴよと、私に駆け寄るつぐみちゃん。


「つぐぴよ、た、タイムは……」


「うんと、13.6」


「お、オーマイガー……」


 前回のタイムが12.9秒だった。自分に負けた。今回はビリだから速い人の背を必死で追いかけたのに。


「え? わ、私、計り間違えちゃったかな」


「だ、大丈夫、私は自分に負けてもうた」


 トホホとトラックを後にするドリーミングガール白浜沙希。


「おつかれ沙希」


「ま、まどかちゃん、ううう……」


 トラックから上がって階段を上がり、観客席前の通路を歩いていると、反対側から来たまどかちゃんと出合った。


「大丈夫だよ、沙希は沙希の人生で負けなければいい」


 まどかちゃんは察していた。だからそれだけ言って、ポンと肩を叩いた。

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