茅ヶ崎の金〇先生
「よくできた子だなあ! これからも、気が向いたらよろしく頼む。向かなかったらポイしてくれ」
「は、はぁ……」
暑いのに冷や汗をかいて苦笑するつぐみちゃん。
「つぐみちゃん困ってるじゃん。それに、つぐみちゃんに捨てられたらショックで立ち直れない」
「シャインマスカットみたいにきらきらしたハートが一瞬で潰されるか?」
「いかにも。フルーツっていうのはデリケートなんだよ」
「だ、大丈夫だよっ、むしろ私のほうが愛想尽かされちゃうんじゃないかって……」
な、なんだって!?
私は思わずバッと起き上がってつぐみちゃんのほうを向いた。衝動が抑えられない! そのままベッドを降りてつぐみちゃんに頬ずり。
「捨てない! 捨てないよお!! 捨てるわけないじゃんかあ!!」
「なあ、あの二人はいつもあんな感じか?」
背後でまみちゃんがまどかちゃんに何か言っている。それよりいまはつぐみちゃん可愛い! ああ可愛い!! がわゆいゆょおおお!!
「そうだね、沙希が一方的かつ過激に可愛がってるね」
「そっか、可愛がってるほうが逆に可愛いって思われてるパターンか」
「そう、よく見抜いたね」
「これでも教師だ。勉強なんざろくに教えらんないし、人を見る能だけで雇われてるようなもんだからな」
「勉強しか教えらんない教師よりだいぶマシじゃん」
「そうだな、塾通いが当たり前になった昨今の教員としてはな」
「まみちゃんのクラスは授業聞いてる子、いる?」
「私の授業はほとんどトークだ。指導要領ガン無視のな。その中にさりげなーく、美しい日本語の意味を解説したりしなかったりする」
「沙希からよく聞かされる。『遅刻』とか」
「そうだ、私はよくサーフィンに夢中になって遅刻する。だが遅刻するヤツがいなかったら『遅刻』っていう言葉は死んじまう。だからといって生徒が遅刻しまくったら将来に響く。だから私が減給されてでも遅刻して、『遅刻』という言葉を守ってるんだ。身を呈して言葉を守るなんて、教師の鑑だろう?」
「ああ、そうだね……」
「そうだ、私は茅ヶ崎の金〇先生だ」
「うん、そうだね」
「なんだその冷ややかな視線は。まあいい、私はちと海の家でラーメンとビールにするわ。じゃあな、楽しめよ青春」
まどかちゃんと何かを話して、まみちゃんはひらひら手を振ってどこかへ行った。去り際、つぐみちゃんがぺこりすると、まみちゃんはニカッと笑って手を振った。
嵐のようにまみちゃんが去ると、周囲は騒がしさと波音をBGMに、静かな時間が流れ始めた。
ああ、私もまみちゃんみたいに、大人になっても自由奔放に生きたいなぁ。私も教師になろうかな。あ、だめだ、あんな教師、一人抱えてるだけでもお荷物なのに、これ以上増えたらクビになる。
最近は演劇の脚本請け負ったり、相変わらず部活とか大会があったりで忙しかったから、なんだかぐったりしてもうた。
ありのままに生きたいね。
そう思って道を選んできたはずなのに、サボりたい部活とか、学校とか、義務的なものを負って思い通りになっていない。それすらも自分が選んだ結果だと、世間は冷たく言うし正論ではあるけれど……。
ああ、どっかでセミが鳴いてる……。
考えごとをしてたら、なんだか眠くなってきちゃった。
ここは茅ヶ崎人らしく、海でお昼寝といきますか。




