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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
高校3年4月ー2

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ハッピーが待っている!(一部加筆エピソード)

 5月5日、こどもの日。見事全員カップル成立となったわたしたち六人は、きょうもきょうとて香川屋の裏にいた。


「おうおうお前ら、きょうは祝いだ。特別にメンチ百円にしてやる」


 カメが勝手口から出てきた。相変わらず知り合いじゃなかったら怖くて近寄りがたい風貌。


「今日は土曜だから百円セールじゃん」


「よくわかったな」


「バカにし過ぎだっつーの」


「カーア!」


 カアちゃんも飛来。これで全員揃った。先般、東京の錦糸町きんしちょう駅で人に懐いたカラスがICカードを奪う事案が発生し、わたしたちはカアちゃんに、この七人以外には接触しないよう教育しているところ。


「いやあ、最近は充実している。つぐみちゃんのおかげで砲丸投げも絶好調だ」


「ふふふ、わたしもね、足は速くなってないけど、身体の調子がいいの」


「うんうん、純粋で素敵なカップルだ。わたしもね、毎日ベリベリハッピーだよ!」


「陸も、沙希と付き合えたのは良かったけど、ライバルの予期せぬリタイアは残念だね」


 まどかちゃんが言った。


「そうだな、けどこの前、ラストスパートで追い抜いてきたアイツ、1年生で陸上始めたばっかなんだって。だから、新たなすげぇライバルの登場に、ハートが熱くなってる」


「篠崎さんは、もう走れないんでしょうか」


 自由電子くんがボソリと言った。


「そうだな、倫理的にダメだろと思う話はいろいろと聞いたけど、また走れる日がくるといいな」


「わたしもね、中学のとき、篠崎くんにきついことを言われたの。でも、そういう風になるまでの間、彼はどんな人生を歩んできたのかなって」


 つぐみちゃんの言葉には含みを感じた。どんなことを言われたのか気になるところだけど、古傷は抉りたくない。


「俺の知る限りだと、翔馬と深い関係にある人はマイナス発言が多くて、だからアイツも少なからず影響を受けてるんじゃないか」


「言われてみればそうかも。愚痴とか悪口が話題のメインになってる人が多いよね」


 陸は本当によく人を観察している。


「わたしらが手を差し伸べるくらいはしてもいいかもね」


「まどかちゃんやさしい! うちらの会話はベリベリハッピーだもんね!」


「主に沙希がね。最終的に手を取るかはアイツ次第だけど」


「ま、アイツは不器用だからな。それよりお前ら、もっと青春らしい話しようぜ!」


「カーア!」


 カメとカアちゃんが話題の切り替えを促した。


「カメは何か青春らしいことあるの?」


「俺はまだ何も成し遂げてねぇ。青春はこれからだな」


 まどかちゃんの問いにカメは即答した。


「カメは28歳だし妻子持ちだからもう満喫したのかと思ってたよ」


「それはそれ、これはこれ、ほとんど寝る間もなく動き回ってるけどまだまだ物足りねぇな。お前らはどうなんだよ、陸」


「俺は、紗希と付き合えたのはメッチャ嬉しいけど、青春ってそれだけじゃないっていうか、まだまだ物足りない感じがする」


「うんうん、わたしもそう思う!」


「って言う割に憂いを微塵も感じないが」


「そうだよ。だって青春って、生きてればずっと続くんだから!」


「ずっと?」


「うん、気持ち次第でずっと! それはね、この街の人たちが教えてくれたんだ」


「街の人?」


「カメもそうだし、あ、絵本のお姉さん!」


 通りかかった絵本作家のお姉さんに大きく手を振ると、彼女はにこにこひらひらと返してくれた。


「あのお姉さんもね、今年で26歳、カメの2コ下みたいなんだけど、まだまだチャレンジしたいことがたくさんあるって。ほかにもね、コンビニのおばちゃんでしょ、サザン通りのお茶屋さんはもう還暦過ぎてるけど人生でいまが一番楽しいって言ってるし、あと、担任のまみちゃんも、ほかの教師じゃ手の付けようもないどうしようもない連中を導くのがしんどいけど楽しくて仕方ないって言ってた」


「そのどうしようもない連中に沙希も含まれてるわけだ」


「えっへん、まどかちゃんナイスツッコミ!」


 そう、青春は、気持ち次第で何度でも、何歳になっても訪れる。


 学生時代の青春とは、色も味も変わるだろう。


 学生時代に青春を味わえなかった人ならきっと、その分もっと大きな舵取りができると思う。


 世界には、過去に大きな過ちを犯した人もいる。


 人や環境に恵まれない人もいる。


 死にたいくらいつらいことが何度も押し寄せる人もいる。


 死のうと思って死ねなかった人もいる。


 私にもそんな日々が、いつか訪れるかもしれない。それが何年も続くかもしれない。


 そんなとき、どう立ち向かえばいいのかも、全然わからない。


 人生は良いことと悪いことが半分ずつ。


 その言葉を、わたしは最近起きた物事から実感しつつある。


 人生はアンハッピーだらけ。


 そう思ったらそれは、ハッピーへのプロローグ。


 でも後ろを向いたままでは、下を向いたままではハッピーの青い鳥を見逃しちゃう。


 わたしはそれをバッチリ捕まえたいから、これからもずっと、前を向いて、空を見上げて、歩いてゆこうと思う。


 それでも、雨が降ったら傘を差して下を向いちゃうだろうけど。


 できるだけ濡れたくないもん。たまには下を向いたり、雨宿りするのも大事。逃げるようにお家に帰ってもいい。


 そして、やがて雨が上がり、空が晴れたら絶好のチャンス!


 飛びたくてウズウズしていた青い鳥たちが、待ってましたと空を飛ぶ。


 虹を見るつもりで外に出てみて!


 虹は架かってなくても、青い鳥が飛んでいなくても、思いもしなかったハッピーが舞い込んでくるときがある。


 そのハッピーはきっと、あなたと手を取り合って、もっとハッピーになりたいと思っている。


「ね、カァちゃん」


「カーア!」


「沙希、心で会話してるのか?」


「そうだよ、さすが陸! ご明察!」


 去年まで気付かなかった私のハッピーは、すぐそばにいた。陸も友だちも、この街も、みんな私のハッピーだ!


 あなたのハッピーはいまごろどこで、手を取り合える日を待っているのかな?


「そういえば沙希、なんか依頼? みたいなの、なかったっけ。クッソ汚ない字で書かれた謎の手紙」


 まどかちゃんが言った。


「あ……」


 すっかり忘れてた。先月、教室の私の机に入れられていた、謎の手紙。内容は『ジャスティスワールドの神にならないか?』のただ一言。宛名は『フルーシのかおりがするゆめのような女子へ』だから、私でほぼ間違いない。私は『フルーツの香りがする夢のような女子』だけど。

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 本作の前身『私たちは青春に飢えている』はここで最終回となりましたが、本作はこのあともしばらく続きます。引き続きよろしくお願いいたします!

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