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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
高校3年4月

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カラスと練習

 夕暮れ時の鉄砲道。紅の空にくっきり浮かび上がる漆黒の富士山を背景に、私たちは家路を辿る。


 というとなんだかロマンチックだけど、サドルに跨がりペダルを漕いで自転車レーンを一列で走っているだけ。


 武道は萩園(茅ヶ崎市北西部)在住だから家から逆行してるけど。


 アイスクリーム屋さんから自転車で5分。家の近くまで来た私たちは自転車を置くために一旦解散して帰宅。改めて徒歩でラチエン通りのコンビニ前に集合した。


 武道は一人、コンビニで待ってもらった。その間に少年漫画雑誌を購入したようだ。


 それからすぐそばの香川屋に行き、武道は店の隅の小さなスペースに自転車を停めた。


「おうなんだお前ら揃って。メンチもう3個しかないよ」


 店先には白い生地に黒い勾玉まがたまのようなマークが連なったサークルの中に『ぬ』とプリントされたパーカーを着たカメが立っていた。仲間内でつくったオリジナルの服なのだとか。


 17時半を過ぎ、そろそろ店じまいの香川屋は品薄状態。メンチは10個くらいまとめて買う人も多く、特に売り切れやすい。


 そんなに買い込んで、この辺りの家庭は毎日どこかでパーリーナイトなのかな。


「おっす、お久しぶりっす」


「おう久しぶり、突撃した?」


 カメの言う『突撃』とは、つぐみちゃんにアタックしたかという意味だと思う。


 武道がここに来たのは私に告白フェイントをかけた日以来2度目。学校より東側に位置する香川屋分店は、萩園に住む武道にとって立地的に寄りづらい。


 茅ヶ崎市は東海道線の線路が南北の境界線になっていて、南側、北側相互の住民が私用でそこを越える機会は少ない。


 強いていうならば、茅ヶ崎の都市機能は北側の駅周辺に集中しているため、南側の住民が大型商業施設や映画館、中央公園に訪れるためそちらへ片足を突っ込む程度だ。


 田舎町なのに都市機能というと矛盾を感じるかもしれない。しかしそこは人口9百万人を越える神奈川県の、尚且つ人気路線、東海道線沿線の市。川崎かわさきから小田原おだわらまで、どの市にも駅ビルやメガバンクくらいはある。そういう店舗がない駅は『市』ではなく『町』に位置するか、市内に複数の駅があって、メインではない駅。


「と、突撃っすか?」


 カメの意図は察しながらも、武道はバツが悪そうに目を泳がせた。


「なんだこの調子じゃできてねぇな。ちょっと裏来い」


 カメのイカツイ容姿から、慣れていない人が裏来いと言われたらとギョッとするだろう。


「カーア!」


 武道に奢ってもらうつもりだった揚げ物を結局は各々自腹で買い、私たちは店の裏に移動した。勝手口の前にはカラスのカアちゃんがちょこんと立っていた。


 自由電子くんはすかさず買ったコロッケを一口サイズに千切り、カアちゃんに与えた。


 かぷっかぷっかぷっ。カアちゃんは自由電子くんの掌にくちばしが当たらないよう器用にコロッケを咥え、飲み込んだ。


「よし、こんな感じで練習だ」


 カメが武道に言って、コロッケを手渡した。


「うっす」


 武道はコロッケを一口サイズに千切って掌に載せ、カアちゃんに与えた。カアちゃんは自由電子くんのときと同様、器用に飲み込んだ。


「ちげぇ、そうじゃねぇ。コロッケを丸ごと咥えてポッキーゲームみたいにするんだ」


「マジっすか!?」


 驚いたのは武道だけのようで、私も陸も、つぐみちゃんも特に表情の変化はない。自由電子くんとまどかちゃんに至っては武道に目もくれず、カアちゃんを呼び寄せ頭を撫でている。


 世間一般にはアブノーマルなこの状況も、私たちにとっては日常の一部。もしかしたらカメはいつか月曜の深夜番組に出演するかもしれない。夜ふかしは身体に毒だけど、ついつい見てしまうあの番組に。

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