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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
高校3年4月

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お前、股がけされてるぞ

 そろそろ部活の時間なので相談に乗ってくれたまみちゃんにお礼を言って部室に行き、ジャージに着替えた。


 スポーツバッグを肩に掛け昇降口を出て右へ。中庭庭園に入った。地には砂利が敷き詰められていて、歩くとザクザク音がする。


 パンジーやマリーゴールドなどが植えられた花壇や小さな池があり、4月末から秋にかけてチョウやトンボが飛び回る。しかもアゲハとかヤンマといった大きな種類も見られてベリベリハッピー。もし虫が嫌いなら無視しておけばいい。虫も人間に構ってほしいとは思っていないだろう。


「好きです。付き合ってください」


 おや、誰かが告白している。

  

 隅に設置された物置きの後ろから女子の声が聞こえ、私は思わず足を止めた。死角になっていて通行人からは見えない。私からも見えない。


「いや、俺、お前とそういうふうになりたいと思わない」


 男の声が聞こえた。なんとなく聞き覚えのある声だ。


 は? 何その言い方。なんかすごく、人の気持ちを考えてない気がする。


「じゃ、じゃあ、お友だちから始めませんか?」


 女子の声は震えている。


「断る。俺、付き合ってる人いるし、俺にはその人以外考えられないから。じゃあ」


 なにこれ、なにこれマジ最低。コイツは本当に許せない。いまにも手が出そうだ。殴りたくてたまらない。


 吐き捨てて、物置きの裏から出てきたのは翔馬だった。やっぱお前か。


「おい翔馬!」


 呼び止めて、振り向いた翔馬に私はずけずけ迫る。告白した見知らぬ女子はグスグス泣きながらこちらを一瞥し、腕で瞼を覆い走り去っていった。


「なんだよ」


 無表情の翔馬はフラットな声で言った。


「あの言い方はないじゃん! あの子、きっとすごい勇気振り絞って告白したんだよ!? なのにあんな突き放す言い方して! 翔馬がこんなにサイテーなヤツだなんて思わなかった」


「付き合う気がないから断っただけだろ」


「そうじゃないでしょ! 翔馬は失恋の経験ないの?」


 私には小中学校時代に何度かの失恋経験がある。


「ない」


「じゃあ大会で陸に負けたとき、泣いてたよね。それから気まずくなって、陸は翔馬がここを志望してるの知ってて鵠沼に行ったんだから」


 あのとき、負けた翔馬が「次は負けないからな」と言って互いに切磋琢磨し合う姿が見られればカッコ良かったけど、それ以降、陸が話しかけても翔馬は素っ気ない反応しかしなくなった。


「それとこれと何が関係あるんだよ」


「つらかったでしょ? って言ってるの。告白して断られてつらい思いをしてるとき、相手から追い討ちをかけるように突き放されたらもう耐えられないくらいつらいだろうなって、そんくらいの想像もできないの!?」


 校舎に挟まれたこの場所で、荒ぶる感情に任せた私の声はよく響き、両サイドの校舎からは何人かが窓を開けて野次馬をしている。


「……でも、俺には付き合ってる人がいる」


「誰?」


 私にとって、翔馬が誰と付き合おうとどうでもいいけど、反射的に『誰?』が出た。


「本間アンナ」


 え、本間アンナ?


「いつから付き合ってるの?」


「1年以上前」


「そっか。ギャラリー増えてきたから、このくらいにしといてあげる」


 我が人生でこれまでにないほどドスを効かせた声で吐き捨て、私は学校の東端、道路に面したフェンス沿いにある陸上競技部の溜まり場に向かって感情を押し込めながら歩き出した。


 マナーにうるさいヤツにもクソはいる。


 まみちゃんの言葉が身に染みている。人間は不完全な生き物だけど、平気で人を傷付けるようなヤツは、本当にクズだ。


 陸と交際中という2年生の本間アンナ。昨年12月27日、記録会が行われた横須賀の不入斗いりやまず競技場で他校の男にキスをしていた女だ。


 翔馬、お前、股がけされてるぞ。

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