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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
高校2年バレンタインデー

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夕映えのバレンタイン(完全新作エピソード)

 学校でシャワーを浴びる沙希を待つ間、俺はペットボトルのスポーツドリンクで渇いた喉とからだを潤しながら、沈みゆく夕陽を眺めていた。


 バレンタインころの茅ヶ崎は、年間で最も夕陽が映える。


 ずぶずぶ砂浜を歩いてボードウォークからヘッドランド西側の砂浜に移動すると、まばゆい陽光が波に反射してきらきら輝いて見える。これを何に喩えようかというと思いつかないが、とにかくすごくきれいだ。


 光が波にとろける。これがいちばんしっくりくる表現だ。


 どうもこの辺りの夕陽は、客観的に日本一綺麗らしい。客観的とはいえどのくらいの人間がそう思ったかは知らないが、とりあえずそういうことだ。


 俺の主観としては、この辺りの夕陽しか知らないから結局日本一、世界一の夕陽になる。


 他にきれいなんじゃないかと思う場所は、静岡の西伊豆、高知の室戸岬むろとみさき沖縄おきなわ、趣向を変えて岐阜の白川郷しらかわごう辺り。いつかカネが貯まったら行ってみたい。伊豆くらいならすぐ行けるか。いまここから見えるくらいだし。


 こういうものを見たときの感受性は俺より沙希やまどかのほうが優れている。


 あいつらだったらこの景色を、この前いっしょに見に行った初日の出を見て、どんな思いを抱くのだろうか。


 そろそろ太陽は富士山の左、伊豆半島に沈む。


 5、4、3、2、1、沈んだ。


 地球はすごいスピードで自転してるんだなと、日の出や日の入りを見る度に思う。


 湾曲する水平線に地球の丸みを感じたり、向こうからすれば地球なんて砂粒くらいにしか見えない太陽もちゃんと丸かったり。宇宙のスケールは半端じゃない。


 さて、これから一気に暗くなる。沙希はいまごろシャワーを浴びているだろう。


 背に残るアイツの感触。本人には口が裂けても言いたくないが、シャワーを浴びている姿を、つい妄想してしまう。


 しかもきょうはバレンタインだ。


 チョコは毎年もらっているから、今年もらえなかったらかなりショックだ。もし本当にもらえなかったら藤沢からここまで負ぶってやった運賃をふんだくってやる。


 などと勝手に内心で息巻いたが、沙希のチョコにかなり期待している。


 鵠沼くげぬまの学校でもつぐみほか数名の女子からチョコをもらった。その中にはもしかすると本命もあるかもしれないが、告白はされていない。


 何はともあれチョコに期待しつつ、湘南海岸学院前の丁字路ていじろで沙希を待つ。ここは歩道が広く、隅に寄っていれば立ち止まっても通行の妨げにならない。


「お待たせ!」


 ほどなくして沙希、まどか、2年生の自由電子の姿が見えた。丁字路の歩行者信号機が青になると、3人は左右を確認して横断歩道を渡ってきた。


「ごめんねお待たせ!」


「ほんとにな」


「こんばんは」


 ぺこっと頭を垂れた自由電子。まどかの保護欲をそそりそうだ。


「おう、おつかれ!」


「沙希、陸に乗っけてもらってきたんだって?」


 まどかに訊かれた。


「運賃5万円な」


「え、なにそれ聞いてない!」


「言ってなかったからな」


「じゃあ時効だ」


「1時間も経たずに時効とか早すぎだろ」


 こうして少し沙希とじゃれ合って、4人は狭いグリーンベルトを北へ歩き出した。歩道は丁字路を境になくなり、車道とフラットになる。


 複数人行動だと通行妨害になるから、自由電子が先頭、まどかと沙希が身を寄せ合って並び、俺が後方で見守るかたちに、誰が何を言うでもなく自然になった。


 しばらく歩いて舗装されていない裏道に入り、旧鉄砲道(現在は裏道)、狭い砂利道、自動車が行き交い歩道と自転車レーンが整備された鉄砲道に出た。


 沙希の住むマンションはもう目と鼻の先だ。


「じゃあねー」


 マンションの前に着くと、沙希はいつも通りひらひらと手を振って棟の階段を上って行った。


 おい、マジかよ。チョコなしかよ。


「おいおいおい、今年は沙希、チョコ用意してないのか?」


 沙希を見送ったあと、俺は思わずまどかと自由電子に訊いた。


「私はアサイチでもらったよ」


「僕も昼の部活が始まるときにいただきました」


「マジか! え、うそ、マジかよ! 俺だけ!?」


「どうしたのさ、そんなに狼狽うろたえて」


「そりゃそうだろ! なんで俺だけ」


「学校違うからじゃん?」


「去年はもらったぞ!」


「じゃあ、配り切っちゃったんじゃない?」


「それは有りるな。先着順か」


「しゃあないな、ほら、あげるよ。沙希からじゃなくて残念だろうけどさ」


 言ってまどかが差し出したのは、ゲーセンで獲れる一口サイズのチョコ。ファスナー付きのビニル袋に5個入っている。


「サ、サンキューな」


「まぁまぁ、そういう年もあるって」


 まどかはぽんぽんと、苦笑いで俺の肩を叩いた。


 自由電子は何も言わないが、口をつぐんで微かに目尻が垂れている。


 可哀想。きっとそう思っているのだろう。


 うわぁ、マジか。マジなのか。これはきつい。マジで5万ふんだくりたくなりそうだ。


 ずんずんと、全身に重みを感じながら、俺は猫背でとぼとぼ帰宅した。

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 更新遅くなり申し訳ございません。


 次回は来週木曜日に更新予定です。

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