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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
高校2年バレンタインデー

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アーティストの街、茅ヶ崎(完全新作エピソード)

「来年度は城崎さんが作るんですか。卒業式の曲」


 校庭の隅、通り沿いにコンクリートでがっしり覆った水道設備の上が陸上競技部の溜まり場。


 それに腰を下ろし足をぶらぶら浮かせながら、僕はスポーツミルクをストローで吸い上げ、城崎さんはサイダーをぐびぐび飲む。


 まだ白浜さんは戻っていないようだ。紅に染まる空と、くっきり黒い影の富士山。空を舞うはカモメでなく、2羽のカラス。彼女がどこかで倒れていないか、少し心配な時間。


「さぁ、どうだろう。音楽得意なヤツなんて茅ヶ崎じゃ万といる。本当にそのくらいはいると思う。沙希だってあんなちんちくりんだけど曲作り得意だし。自由電子くんも作詞作曲はできるでしょ?」


「はい、まぁ」


「こんな具合で、茅ヶ崎じゃ腕や才能に差はあれど、音楽が得意なヤツなんてゴロゴロいるんだ」


「加山雄三、サザンオールスターズ、Suchmosサチモス……」


 僕は茅ヶ崎ゆかりの有名な音楽アーティストを挙げた。


「実は他にもけっこういるんだよ。ていうか人口24万人のミドルな街でこんなに売れっ子が出てるのはすごいよ」


「それだけ強者揃いの街ということですか」


「あぁ、そうだよ。ま、でも私は私。卒業ソングを作るかはわかんないけど、音楽は愛していたいね」


 僕は「うん」と首肯した。


 好きなものをこの先も好きでいる。それはとても素晴らしいことだと僕は思う。


 卒業ソングを作る人は必ずしも茅ヶ崎市民とは限らない。湘南海岸学院には神奈川県をはじめ、全国から生徒が集まる。全校生徒の半数近くは他県出身者。


 ライバルは茅ヶ崎市民に留まらないが、そもそも才能はあっても曲作りを買って出る生徒は少ないそうで、希望すればその一員に加われる可能性は高いという。


 更に言えば、単純に作詞作曲といっても得意なジャンルは人それぞれ。


 ポップ、ロック、ヒップホップ、ラップ、電波ソング、演歌、合唱曲などなど、世の中には多種多様な音楽が存在する。


 卒業ソングは多くの場合ポップか合唱曲に該当する。これを作れる人はエンターテイナーが多いこの学校でもごく少数ではなかろうか。


 そのごく少数に該当する現2年生、つまり来年度卒業見込みの生徒は、僕の知る限り城崎さんと白浜さんのみ。


 敢えてライバルを挙げるとすれば、文化祭での披露曲を自作する軽音楽部の面々。彼らは楽曲制作にとても長けている。


 他には合唱部とブラスバンド部。その他ダークホースも。


 しかしそもそも……。


「城崎さんは作りたいんですか、卒業ソング」


「まぁ、そう、かな?」


 歯切れ良くない返答だが、彼女のことだからきっと内心はメラメラ燃えたぎっている。そんな気がする。


 僕は「応援しています」とエールを送りたいのに、それを素直に吐き出す勇気が湧かない。


 そもそも僕が応援したからといって城崎さんが喜ぶとも限らない。


 両者とも同じ頃合いでドリンクを飲み干したとき、校庭の飛球防止ネットと校舎の間の通路に白浜さんの姿が見えた。

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